いまのはなし2
崩れた学校。
その配置そのままに積み重なった瓦礫。
私は思わず目を背けた。
塀に沿って植えられた木の枝が揺らぎ、小鳥が飛び立つ。
何一つ、事が起こったときから変わっていません。
それに、相も変わらず時間は動いていません。
どうなってるんでしょ。
「そこの彼」
「なにかな?」
「この大嘘つきめ。何も起こってないじゃん」
「かもしれない」
そこで彼の後ろでリプレイスタート。
確かにそこで彼はかもしれねーむと言ってます。
ちくしょう期待させやがって。事態が動かないじゃないか、何とかしやがれそこの彼。
とりあえず生存者でも探しますカー。
「ところで、今日が何の日か知ってる?」
「知ってますとも」
「学校が休みって事も?」
ぴたっ。
「休みって何?」
「創立記念日。部活なんかも休みだったから誰も居ないはず」
朗らかに言う彼。そのすがすがしい笑顔は思わずはり倒したくなるくらいでした。
朝あんなに急ぎまくったのに、何のために急いだんでしょう。
創立記念日。その日に崩れる学校。
「創立崩壊記念でお休み増加?」
「とりあえず前向きなんだね」
もちろんデスとも。ぼじてぃぶしんくは重要ですよ?
一通り納得したところでくるりと回って帰りましょー。
「しょータイムの時間かな?」
「しょーですよ」
「醤油う下らないことは止めとこうよ」
「あんさんまあ人のこと言えませんです」
「おもしろくないしね」
美形な声がツッコミですか。始めたのはこの声だった気もするけどなー。
「で、どちらさん?」
「竹村薫。薫とでも呼んでくれ」
ヅカ系ですか。ショートの茶髪、背が高い、かっこいい、と三拍子そろった人がそこにいます。
こんな人が実際いるわけ無いので。
「さては貴様魔王だな!」
びしっ、と指突きつけてみました。
「そうだね。僕は確かに魔王だ」
「電波デスカー」
ネタなのかどうか判別しづれぇですよ。ヅカな人。
「君に言われたくはないのだけれど、確かにそうとしか見えないな」
認めるんかい。
「全く無関係なルールに従う者同士が出会えばそういう結論になるさ」
「そーなのかー」
「君は蒸気機関でコンピュータが作られると言って信じるかい?」
「それ、どんなのでしょう。そうぞうできませんよ?」
「僕にも無理だ。だが、ある種の霊的回路による演算装置なら見当がつく」
「それもさっぱりなんですが。半導体による演算器でも無理だけど」
文系ですのでー。理論値に挑んでみるときくらいしか理論なんて使いません。
あー、空が青い……
「戦わなきゃ。現実と」
と棒読みする薫さん。
「そんなシリーズ人間のくず救済計画みたいなこと言うなー!」
「薬はだめ、絶対」
お前までそんなこと言うか。ていうか薬なんぞやってませーん。
「……栄養ドリンクの飲み過ぎは死ねるから気をつけようね」
「それもダメなの!?」
「そうなると薬漬けだらけじゃないかな? この国」
「一部の職業の人は確実にだろうね」
「つまり、オレはもうダメだ?」
「ああ、そうだね。もう、この身体は、もうこれ無しではダメなのさ。そんな感じかな?」
某マンガ家とか。該当者多数で誰のことだか分からないだろうなー。むしろ某プログラマのほうがいいか。
それはさておき。
「ところでさてって何なんでしょうね?」
「転移用のスペルだね。さてに行くための」
「いや、そんなぐぐるさんじゃないんだから。素直に分からないって」
「でも、実際グーグルで検索するとレストランがトップに来るね」
「辞書に載ってるの!?」
「いや、元の方」
それくらい出てもおかしくないほうじゃネタにも成らないでしょうに。
下らない戯れ言を言ってる間にも事態は刻一刻と動くのですよ?
「気のせいかな? どう見ても止まってるんだけど」
薫さんが不思議な顔で首をかしげてます。
「視覚的な停滞と、時空的な停滞は別物だと思うけど」
彼は冷静に突っ込む。理論的にそれ正しいですかな?
「偽神の『彼』。分かっていて言っているのかな?」
「それはもう。僕は半知半能だし」
「愚問だったかな。申し訳ない」
「魔王が誤ったということは、これが天変地異の遠因かな?」
「えらく迂遠な気もするけど、もしかしたらそうなのかもしれないね」
あんたらでお話しすすめんなー。太るじゃないか。私が。
「メタボは大変だからね。そうでなくてもえらいことなんだから」
「この彼は関西出身だったのかい?」
「こてこての中部方面人ですよ?」
「それはまあ、どうでもいいことだな」
どうでもいいことなんですかい。
「君たちの関心事はこの事態の解決だろう?」
「神様が働きませんのでー」
「それは僕のこと?」
薫さんは軽く笑うと手を振りました。
ガキィ……ンと巨大ロボの合体音が鳴って校舎復活。原理不明。
にしてもこんなあっさり直せるんですか、魔王さまー。
「わりと高名な方とお見受けしますが」
「三流魔王だよ」
薫さんは謙遜するように言いました。てか、魔王にも格付けあるんですね。
「やっぱり一流ともなると、世界の危機を」
薫さんは残念そうな顔で首を振りました。
「下っ端に任せて引っ込んでるよ」
ああ、どこもかしこも世知辛いのは中間管理職ですか。
「さて、僕はそろそろ退場させてもらおうか」
「あんた何しに来たんですか」
学校直しに来ただけですか?
「デウス・エクス・マキナにかかっては魔王とて使い走りだよ」
薫さんが手を振ると、今度は絵に描いたような時空ゲートが出てきました。
「偽神の力に興味があったから呼ばれたけど、次はない。本当なら君と僕は対等なんだから」
そう言い残すと、薫さんはゲートを通って消えました。
「さて、それじゃタ○○○○ビを使おうか」
「どら焼き用意する?」
「いらないと思うよ」
と、やっぱり彼も手を一振り。どうやら手を振るのが最近のブームのようです。
空中に画面が現れ、学校が映し出されました。薄暗い、夜明け頃の映像です。
「いつの、これ?」
「今朝のだよ」
映像は特に問題なく進んでいきます。にしても朝って人いないなー。
通勤通学のお兄さんお姉さん方を期待してたのに。
「仕方ないよ。この辺りはみんなマトモな人ばっかりだから」
「それはドウイウコトデスカ?」
「ああ、そろそろだ」
「はい?」
映像に目を戻すと、学校の上にさっきみたような時空ゲートが開きました。
そこから何か落ちてきます。よく見ると、人です。
小さい点が真っ逆さまに学校に落ちていくわけです。
「えーと、もしかしてこれって」
「君の予想通りだろうね」
点は学校に叩きつけられる直前に、変な力場出しやがりました。
その力場の影響を受け、学校が崩壊です。
「このはた迷惑な奴の顔アップできる?」
「やってみようか」
映し出されたのは、薫さんの顔でした。