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いまのはなし1

 夜が近付けば近付くほど空はその色を変えていく。青から橙に。橙から赤に、赤から紫に。

 学校からの帰り道、彼と並んで歩く私はそんな空をぼんやり見ていた。

 いつも見慣れているはずの光景なのに、その色彩の変化に気づいたとたんに、なんだか悔しいものを感じた。間抜けと言われたみたいだ。

 そのことを彼に話すと、彼は笑ったりせず真面目に受け取る。

 彼は空の色の変化が単なるそういう現象だと理解している。虹とは異なる事も知っている。

 だけど彼は笑わない。まあ、普段からにこにこしているような奴だけど。

 そしてほとんど何も言わない。悪く言うこともないし、良かったと言うこともない。

 彼は受け入れる。それがなんだか腹立たしい。

「いつもの君らしくないね」

 たまには私だって真面目になりますよ?

「そう言えばリーディングで会話するのは久しぶりだね」

 それだけいろんな事があったって事です。異世界行ったり、吹き出しが出たり、訳の分からない勉強したり。

 桜吹雪で遭難したのも良い思い出ですよ?

「3月は紙吹雪で遭難するの?」

 花吹雪でしょう。梅の花です。卒業です。とくれば。

「君の言うことはわかってる」

 ほほう。彼のくせに生意気な。では、何か当ててみなさい。

「やっとカメ探検」

 何でだ。酒盛りにきまっとろう。

「未成年、未成年」

 おっとりと彼は突っ込む。

 仕方ないのでお湯盛りにしときまーす。飲めば知恵沸くお湯盛りに。あれ、悟りが開けるだっけ?

「どっちにしろ同じだから」

 でも実際に言い訳で使っちゃダメだよね。それはさておき。

 気づけばもうすぐ夏が来ます。夏の前には梅雨が来ます。と来れば時事ネタです。

 今年はどんなネタがあるんでしょう。出来れば穏当なネタなら良いですけど。

「いつもわりと穏当じゃないっけ」

「君のせいで穏当じゃなくなるんだろうがー」

 私は彼の頭をグーでぐりぐりとやりながら文句をつけた。

「だいたい、いっつもいっつも、変なことに……」

「あら、相変わらず仲が良いわねー」

 近所のおばちゃんです。買い物帰りのようで片手には買い物袋下げてます。

 そのおかげで自分がどこにいるのか気づき、ものすごく恥ずかしくなりました。人通りが少ない住宅地とはいえ、公道で何やってんですかね。

 それでも慌てて離すのもそれはそれで余計に恥ずかしいので、そのまま彼にチョーク決めてにこやかに挨拶を返します。

「いや、それほどでもないですよ?」

 彼も無言でこくこく肯きます。ただ単に声が出せないだけなのかもしれないけど。

 おばちゃんはニコニコ笑いながら去っていきました。

 それを見届けてから彼を解放し、家に帰りました。

 その日は、そんな感じで普通に終わったんです。

 

 

 次の日の朝。

 いつも通り時間ギリギリに目を覚まし、大慌てで支度→朝食→叱られながら猛ダッシュの素敵コンボをかまします。

 当然彼が迎えに来てるなんて色っぽい話はない。そしたら走る必要ないし。

 そのへん彼はずいぶんとドライなのだ。

 角の交番を曲がり国道に出て、さらにスパート。

 そしてようやく学校です。

 学校です。

 学校、のはずです。

 なのに見えたのは瓦礫の山でした。

 何ですか。

 アレは何でしょう。

 校門はすでに崩壊。校舎はきっと絶望でしょう。

 体育館は残ってます。部活棟も無事でしょう。

 そんなことはどうでも良く。むしろ気になるのはみんな無事なのかということ。

 お京、さーちんに準。ついでにヒムさんも!

 あの時と同じなら、多分みんな無事だろうけど。

 今回のヒーローは誰でしょう?

 私はわりと落ち着いてそれを受け入れた。

 校舎が壊れてる。

 これはまあわりと普通。消滅とかじゃないし入れ替わりでもない。

 ストレートに崩壊だ。誰かがぶっ壊した。

「さて、今回は魔王の出現ですか」

「そうなるね」

 と、彼。いきなり出現したぐらいで驚きはしない。

 彼という存在はいろいろと反則で、今のところ彼に出来なかったことはない。

 彼自身が言うには世界のカケラ。それでもルールに従っているらしい。

 まあ、どっちにしろ反則なのは間違いない。

「で、本当に魔王?」

「ルシファーじゃないのは確かだね。でも今回は単なる事故っぽいけど」

 唖然となる。事故?

「そう、事故」

「事故でこれですか?」

「これでも可愛い方。普通はこの敷地一つ消えるから」

 思わず目が点。

「そもそも魔王は秩序の破壊者だからね。本当なら」

「はい?」

「革命家といいかえてもいい。レボリューションを起こすのが役目」

「勇者は何ですか。圧制者の犬?」

「保守派なのは確かだね。でも、犬は酷いな。改革者の方がより正確だと思うよ。わりと穏当な手段で世界を変えるから」

「ほー」

 そんな解釈があるんだ。

 さて、そんなところで私は改めて周囲を見渡してみました。

 ものの見事に瓦礫となった校舎。誰も居ない校庭。誰も居ない中庭。

 私は唇を噛みしめる。

 揺らぐ風、されるがままの木々ですらその動きを忘れたかのような虚ろに止まった世界。

「……あれ?」

 私はようやく気づきました。

「遅いって言うな」

「まだ何も言ってないよ?」

 とりあえずぽかりと彼を一発殴りつけ。

 時が止まっているのです。おそらくこれをやったのは彼です。さすが半知半能(←造語で彼専用)。

 何の解決にもなってないけど。

「みんなは無事かな」

 何気なく聞いてみる。

「わからない」

「そっか」

 それきり彼は黙り込む。でも不安はありません。だって彼慌ててないし。

「どうすればいいのかなー」

「どうしたいのさ。いつも脳天気なくせに」

「いきなりこんなもん見せられちゃねー」

「そう」

 それきり彼は何も言わない。

「とりあえず、魔王に会ってみっかなー」

「いきなりラスボスなんだ」

「RPGとかもまだるっこしいよねー。何であんな回り道するのさ」

「普通ラスボスは分からないものだし、そもそもラスボスがラスボスになるのはそういう過程を踏んだからだよ」

「なにそれ」

「ラスボスを先に倒したからって本当の解決になることはないってこと」

「分かったような分からないような」

「流れが何事にもあるんだよ。その流れは変わることはない。いくつもの分岐があるだけで、行き着く先はその分岐で決まる」

「未来は変えられない?」

「変えられるよ。だけど、それは僕が導けるものじゃない」

「そっか」

 私は伸びをする。

「なら、ちょっと頑張ってみましょー」

「気楽だね」

「時間止めてもらってるし」

 彼が変な顔をした。

 

 

 止まる車の群れ、人々、灰色な世界。

 くるくる回る時計。

 今日もまた私は不思議世界に突入しています。

 ゴミ箱の蓋とか開けてる私の後ろで、彼はなんだか楽しそうに歩いてます。

「少しは手伝わんかい」

 そう一喝すると彼は首をかしげて、言いました。

「無駄なことはしない主義なんだ」

 つまり、私のしてたことは無駄、と。

 がっくり膝を落としました。

「ひどい。ひどいわ! あんな事にこんな事までさせておいて今更その仕打ちなんて!」

「誤解を招くようなこと言っても意味無いよね」

 そりゃあそうなんですけど、お約束だし。

 私は町を見渡す。

 灰色。動かない風。でも、その空気は澱んでいない。沈んでいるわけでもない。

 色がないと言えばいいのだろう。

「時がないって言った方が良いかな」

 私は改めて町を眺めながら歩き出す。

 何も動かないだけでこうも無機質になるんでしょうか、景色ってのは。

 駅前のティッシュ配りの兄ちゃん、人待ちのオッサン。姦しい女の子に、はしゃぎすぎの男の子達。黙りこくった人達。

 動かない自動車、バイク、バスに、中途半端な信号、電飾。街路樹、その足下の草、少し見上げれば雲。

 足のジャリジャリいう感触だってない。

 だけど、風だけはある。感じられる。

「影とまってる?」

「さて、どうだろう」

 それにしても、どうしてこんな事になってるんでしょう。

 魔王様ってばどうやってこれで世界を改革するつもりなんでしょうね?

 て、あれ。

「……そんな話だっけ?」

「そもそも何で魔王を捜してたの?」

「んー。学校が壊れてて、瓦礫の山」

「そうだったね」

「で、とりあえず元凶を探そうと」

「魔王とは誰もいってないけどね」

 そう言えばそうです。冴えてますなそこの君。

「というか、始めは情報収集だったと思ったんだけど」

「目的は臨機応変にかえるものですよ?」

 切れる包丁で凍ったお餅を切るくらいにすっぱり言い切ります。

 ええ、切り捨てますとも。カビ生えてたし。

「何で実生活混じるかな」

 何事もお気楽に行かないとダメだと思いますよ?

 さて、それよりも問題は。

「学校に戻ろうか」

 何で絶妙に絡みますかねそこの彼。

「苦労した後はたいがいスタート地点で何か起こってるのがお約束」

「どこのお約束?」

「さてね」 

 反論しようにも、アテもないわけで。

 大人しく彼の言うことに従うことにしたわけです。

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