×マスイブ話:ジン・グル・金。前夜
さーて、そろそろあのイベントがやってきます。
件のあの人の誕生日です。
浮かれてます。般若様に近づける素敵なイベント。あ、もちろん良い子は真似しちゃダメな方法ですよ?
そんなわけで教室の片隅でいつものように例のメンバーでいつものごとくちょっと作戦会議中。
「やっぱりヒムさんは引っ張りこんどく?」
「あの人緩いしねー。先に先生がいれば、ばれても先生の。ね?」
「越後屋、おぬしも悪よのー」
「いえいえ、お代官様には敵いませぬ」
お京や淳、それにさっちんとかと一緒にいろいろ画策してるのです。
その横で、彼もなにやら画策してるのです。携帯で誰かと相談してます。
なんか変な名前を聞いてので少し盗み聞いてみると、なにやらおかしな名前が混じってます。
アモンにベリアル、ベルゼブブ。アスタロト、って。
いいのか? あんたら。
「ちょっと、そこの吹き出し。聞いてる?」
お京……。今は吹き出ししまってますのに。
「聞いてますよ?」
「じゃあ、今私がなんて言ったかわかる?」
はっはっはっはっは。
「ごめんなさい」
私は素直に頭を下げた。ごん、て机に額がぶつかるくらいに。
「今の彼女とかけて何と解く」
淳。唐突に何を言う。
「コンビニのサンドイッチのパン」
さっちんは律儀に答える。
「その心は」
「耳がない」
「だがしかし私はできたての鍋と解く」
「ほほう。してその心は」
お京、聞かなくて良いんですよ?
「「「熱々です」」」
ハモりますか。
「山田くーん。三人の座布団持ってってー」
「ああ、そんな殺生な!」
「そうだよ! 座布団ないとお尻が痛いんだよ!?」
「おじいちゃん大変だよ!?」
「誰ですか。おじいちゃん」
目をそらして私はため息つきました。ちょうど見た先にあった木から、最後の一葉がちぎれ落ちていきました。
で、その日の帰り道。
のんびり彼と話しながらぽてぽてと家路につくわけです。
今日の授業で分かんなかったこととか、3Dダンジョンの正しい潜り方とか、天気(異世界の)の話とか話しながら。
そのうちクリスマス間近で浮かれた駅前商店街を通るわけです。
そうすると当然クリスマスの予定の話もするわけで。
「×デー大忘年会?」
エックスでもクロスでもなく×(ぺけ)。なんですかその可愛い呼称は。
「クリスマスって呼称を使いたくなかったらしいね」
彼がしたり顔で肯いてます。
「ならクリスマスに開かなきゃ良いのに」
「ほらそこはそれ。肩身が狭いんだってさ」
「気にするんか。悪魔が」
しかも、その挙げ句が忘年会。サバトとか言うオチじゃないよね?
「最近は空気読めないとやってられないそうだし。悪魔信者も集まんないってさ」
世知辛い世の中なんだなー。悪魔なんてファンタジーばりばりの住人なのに。現代物だから?
タイミング良く前を通り過ぎたケーキ屋さんのクリスマスケーキ予約開始ののぼりがなんだか煤けて見えた。
「で、君はどうする? もし良ければ一緒に行かない?」
「悪魔がわんさかいるようなとこに誘うんだ」
なんてイヤらしい奴。そんな人とはおねーさん思ってませんでしたよ?
「いや、神様もたくさん来るよ。オーディンとかケツアルコアトルとかゼウスとか」
「お釈迦様とか恵比寿様とか福の神様とかは?」
「釈迦は来ないな。恵比寿とか、福の神は来るかもしれないけど」
「来るんですか」
師走の忙しそうな時期なのに。それとも神様は暇なのか。
「八百万もいるからね。暇な人もいるんだ」
「それで良いのか。天津神」
「国津神だと思うけどね。それかつくも神」
「つくも神は来ないと思うけどなぁ……」
「連れてくる人……人? ま、いいや。いるかもしれないし」
そこで彼は私を見て、言った。
「で、来る? 来ない?」
「残念ながら先約があるのですよ。いつもの三人衆+椀」
「One?」
冷静に突っ込む彼。ちぃ。余計なことを。
「そう思うならぼけないようにね」
うわーん彼のくせにー。
「でも少し残念かな。君となら少しは楽しめそうだったのに」
さらっと真顔で言うか。こんな往来で。誰がいるか分からないような人混みの中で。
そんなだからバカップル言われんだろうがー。
「どこら辺バカップル」
「無自覚かい」
正直言ってコート脱ぎたくなるくらい暖かくなりましたよ? オーバーだけど。
「……何時?」
「そうだね。夜通し騒ぐから、7時過ぎからならいつでも良いと思う。でも受付は日付変わる前が限度かも」
「そっか」
私はちょっと考えた。
村八分→彼との約束→冷やかし→言い出す→三人衆「私を捨てるのね!」
いや、ちょっと待て。矢印逆、逆。
ああ、どっちにしろからかわれるのか。
いや、待てよ。
「どうかしたの? 顔が悪いよ」
お約束のボケを有り難う、そこの彼。
「ところでそのパーティ、人数はいくら増えてもおっけーなわけ?」
「食物の神様勢揃いだからね。少し大食らいが多い気もするけど大丈夫だと思う」
ふっふっふっふ。それならば決定なのです。
あの三人も、たまにはこっちの不条理に引きずり込んだろ。
そう考えると今から笑いが止まらないのでした、まる。