秋です話:桜の恐怖完結編
「あのおっちゃんが元凶?」
思わず停止しましたとも。
言われてから改めてそのおっちゃんを見たけど、どっからどう見たところで普通のおっちゃんです。変わったとこなどありませぬ。
「はっはっは。まさか彼が妖精とでも言うつもりかね」
ちょっとムスカっぽくいうと、彼はあっさり肯いてくれました。
「うん。多分桜の妖精か何かだと」
「妖精? はっはっは」
どこの世界の妖精にあんな脂ぎった中年オヤジがいるというのかね、そこの彼。
「忘れられがちだけど、ノームって妖精なんだよね」
……ああ、あのヒゲオヤジ。
「それにビア樽体型だし。ぴったりじゃない?」
……………………。
「神様の線もあるけどね。そんな感じしないし」
……まだ神様の方がマシだよう。可愛くない妖精なんて認めないんだからね!
「人間に近いだけマシだ、って思わなきゃ。妖精の中にはもっと凄いのがいるんだよ?」
抗議の意味も込めて少しばかり唸ってみましたが、彼はそんなの聞かずにおっちゃんに近付いていきました。
「狂乱もこれで終わり。桜は儚く散るのが綺麗なんだよね」
花吹雪も積もらないから感動するんだ、そう、つぶやきながら。
「というわけで、もう終わりにしません?」
彼はわりと気軽に言いました。
「あ? でも酒も残ってるしなぁ」
「いえ、そっちでなく」
「ああ。吹雪の方か……。無茶を言ってくれるよなぁ」
……はい?
なんだか信じられないセリフが出ましたよ?
彼も珍しく狼狽え、てないや。むしろ予想通り、って顔してます。
「あれはもう止めたんだよ」
「つまり今残ってるのは残骸ということですか」
「そうなんだよ」
「僕が片付けても構いませんか?」
「いや、しかしあの人が……」
「そこをなんとか」
「いやいやいやいや」
「まあまあまあまあまあ」
「いやいやいやいや」
「まあまあまあまあまあ」
「い……」
「っていつまで繰り返す気だ」
私は冷静につっこんでみました。だってそうしないと進みそうにないし。
「ていうかそもそも事の発端はなんなのさ。説明ー」
おっちゃんが一つ重々しく肯き、口を開いた。なんか長くなりそう。
「あれは、桜につぼみが付いた頃のことだった――」
「あkぢはなqいんはqん@ぎhgの味jkじえr時fhぐhycqあー」
彼が何か変な音を発生する。表記にとてつもなく困るので止めていただきたいんだけどー。
「うむ。そのお方がそれは猛烈な桜吹雪が見たい、と仰せられてな」
通じるんかい。ていうか誰なのよ、そのお方。
「そこで我らのような桜の木に宿る者達が全力で死ぬほど花を咲かせ、吹雪かせたのだ」
「リミッターと言う言葉はない?」
「横文字は知らん」
「んじゃ、限度」
「そおんな滅相もない。知っているに決まってる」
白々しく目をそらすおっちゃん。ああ、やりすぎたとは思ってるんだなー。
「戻せるの?」
おっちゃんは答えてくれない。
その答えは自らの目で確かめろ。そう言うことなのか。
「いや、ぶっちゃけると、まさか積もるとは思っても見なかったんだ」
「それはなんか分かる」
「それにいつもはほっとけば粉々になって土になってたし」
「あれ結構大変だってね」
「だから、ここで待ってりゃいいんじゃないかと」
「つまりどうしようもないと。大人しく救助町?」
「発音が気になるとこだが、そうなる」
「つまんないオチ……」
「さんざん引っ張ってそれかよ」
「桜だけに錯乱して散乱させたらさらに錯乱」
韻踏めばいいってもんじゃないですヒムさん。
てかいつの間に起きたんでしょう、この人達は。
「救助町のあたりから」
お京。それは今さっきと言った方が早いです。
「麹町当たりから」
んなことは言ってませんて、さっちん。
「よく解らんがぼけるとこだろうと思ってな」
ヒムさあぁん。
「で、何の話?」
淳……。相変わらずのマイペース。
ああああ。なんか頭痛くなってきた。どうしてくれよう。
「そんな時は」
「ほらあれだ」
「まま、とりあえず」
「飲みますか」
全員の声が唱和しましたとも。
それから二時間後。
救助に来てくれた人たちも呆れるくらいぐっすり寝てたそうです。
んで。次の日。
いつものようにギリギリの時間に起き、ぬっぺらのんびり支度して。
トースト(マーガリン付)を口につっこんで玄関を開けるとそこは。
鼻国でした。
秋です話:『はなの恐怖』かんけつ。