昔の話1
彼と初めて出会ったのはとても小さな頃でした。
確か幼稚園の頃にはすでに側にいました。
家が隣同士。それが原因で良く一緒に遊んでましたっけ。
その頃の彼は何にも出来ないダメダメくんでした。
本当はそんなこと無く、その頃から世界の半身やってたんですが、彼はそれを隠していました。
そのせいで結構からかわれて、虐められてもいたんですが、彼は笑って受け流して過ごしてました。
私はそんな彼を鍛え直そうと追いかけ回して引っ張り回してたんです。
本当は必要なかったのに。
1年が過ぎ、私たちは小学生になりました。
その頃から彼と私の周りにいろいろと怪しい人たちがうろつき始めましたのです。
たとえば、学校帰りに真っ黒い人たち物陰から覗いてたり、三角覆面が怪しい儀式を公園でやってたり。
それだけならまだしも半漁人、コウモリ、蛇、クトゥルフなんてのまで。
学校のみんなも目撃して大騒ぎになったりしましたが、その中で彼だけは動揺することなく普段通りでいたのです。
私はそれがなんか悔しくて、彼に習って何でもない振りをし続けていました。
そのおかげか、半年も経つ頃にはマッハ婆ちゃんとも普通にお話しが出来るようにまでなっていましたとも。
そんなある日。
彼と私の関係を変える事件が起こったのです。
確かそれは冬の寒い日のことでした。
理由は忘れましたが、何かの理由で帰りが遅くなり、すっかり辺りが暗くなっていたのです……。
こっから回想入りマース。
うわ、やだな。婆ちゃん寒くなってたせいで、腰が痛いとか言って出てこなくなっちゃったし。
後でお見舞い行かなきゃ。そもそもどこに居るんだろ。
ほけーっと考え事をしながらぽやぽや歩いていると、先の角に黒服連中が見えたわけです。
いつものことだし、気にすることもなく無視して横を通ったわけです。
いつもいつも何してるのか分かんないけど、休んだとこ見たと来ないし実に律儀な奴らだな。
なんて事を思ったりして。
そしたら。
いきなり口を塞がれ、抱え上げられてしまったのです。
「〜〜〜〜〜」
呻いて暴れてみるが、黒服の力は少しもゆるまない。
ええ〜。このまま誘拐されてしまう? それはそれで楽しい思い出になりそうだけどいろいろ大変そうでイヤー。
「耳のこと?」
彼の声。顔も見えないのに、確信した。思ったより親しんでたんだな。
って、それはともかく。
その声で黒服連中が硬直。その格好で止まられるとコントにしか見えないのですでどー。
「〜〜〜〜〜(助けろー!)」
「分かってる。巻き込んでごめん」
そう言うと彼はあっさり私を黒服の手から引きずり出しました。あ、もうちょっと優しく。痛いっての。
ええい、乱暴にした罰。とりあえず引っぱたきますよ。
「てい」
「あいた」
有言実行。うむ。これこそ素晴らしき日本男児の合い言葉。
「男児じゃないよね」
「突っ込みは無しの方向で」
て。
「助けてくれてありがと」
「いえいえお構いなく」
「返答が違う!」
とりあえず一発。
「ごめんなさい」
「分かれば良し」
「ま、とりあえず彼らと話をつけるから。ちょっと待っててくれるかな」
「なんで?」
そう言うと、彼は困ったように頬をかいた。どうもこんな事言われるとは思ってなかったらしい。
「さらわれかけた自覚ある?」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「おお」
ぽんと手打ち。そういやそうだ。
「てことは私危ないの?」
「わりと」
「なんで」
「僕のせいかな」
すぱーん。
「この野郎」
「ごめん」
よろしい。
従順に頭を下げる彼に私は女王のように鷹揚に肯いた。
「それじゃ少し待ってて。送っていってあげるから」
「あい」
私は彼に手を振った。そして、その時気づいた。
黒服達の体勢が、私が最後に見たときから少しもずれていないことに。
彼が近付いたときに再び動き出す。私を抱えていた男の腕が思いっきりからぶる。
一時停止ボタンを解除したみたいだ。面白い。
彼はその黒服達に何事かを話すと、黒服達は何かを肯きあって去っていった。
その後、私は黒服と話をつけた彼に送ってもらった。
「で。君何なの」
「さあ。世界のカケラらしい」
「カケラ?」
「実際何が何だか分からないけどね」
「ふーん」
そんな風に話しながら歩いた。
真っ暗な夜道に、ぽつんと立つ街頭の灯りばかりがやけに印象に残った。
この時から、彼と私の関係は少しずつ変わっていったのです。