表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/36

ピンチ?チャンス?


 人間というのは本当に不思議な存在で、種としてはとにかくたくましいものの、ひとりひとりの単体で見ると非常に弱々しい生き物です。

 さして身体能力に恵まれているわけもでなく、個体としての知力・魔力は魔王種に遠く及びません。


 ですが人間種の最大の武器は、あの繁殖力と順応力、そしてそれ以上に、種としての団結力ではないかというのが長年人間社会と戦いながら観察を続けてきた僕の考えです。

 蟻や蜂には、それぞれの巣ごとに個体を超えた群体意識があるそうですが、人間は個体レベルの意識しか持たないのに、『社会』を形成して、それを連鎖的に繋げていくことで種そのものが群体意識的な団結力を発揮します。


 だけど個体は本っ当に脆いわけですよ!


 と、僕がこんなに焦っているのはですね、件の侵入者がカニアス君の爪に肩のあたりをざっくりと抉られていたらしく、思ったよりも失血していたからです。

 でも僕たちは職業柄、血の川とか血の海を見慣れ過ぎていて、素でそれに気付かなかったんですよね。


 たまたま鶏糞まみれの外套を脱がせようとしたときに虫の息になっているのに気が付いて、大慌てで治癒術を使って、今ようやく会話ができるくらいまで回復したという。

 拷問部屋に直行しなくて本当に良かった!プロジェクトの開始早々から始末書を書く羽目になるところでした。


 「さて、そろそろお話を伺ってもいいでしょうか」

 まだ相当に青白い顔をした侵入者は、僕の言葉に小さく頷きを返した。

 見たところ二十代半ばの青年で、栗色の髪に縁取られた顔立ちは人間にしてはそこそこ綺麗なような、そうでもないような。


 いえ、適当に言っているわけではなく、人間種はその時代ごとに美醜の感覚が激しく乱高下するので、目の前の彼が今の美的感覚で言うところの美形なのか、ちょっとよくわからないのです。

 でも顔の左右は綺麗な対称ですから、いつの時代でもそこそこ整っているうちに入るんじゃないですかね。

 ほら、左右対称=遺伝子美人って言うじゃないですか。生物にとって、優秀な遺伝子ほど普遍的(本能的)な魅力はないと思うのはきっと僕だけではないはず。


 「色々と聞きたいこともあるでしょうが、君の質問には後で答えると約束しましょう。まずは君の名前は?」

 明らかに不安と戦っている様子の青年は、信用できる相手かどうかを見定めるように僕の表情を伺った後、絞りだすかのような声で答えた。

 「……レナード」

 「所属とここに来た目的は?」

 「所属はマテアス神聖教国、目的は魔王が本当に降臨したのかを確認しに」

 その意外なひと言に、僕は仲間たちと顔を見合わせてしまった。


 マテアス神聖教国――それはこの世界の魔王討伐戦を常に主導してきた、強大な宗教国家の名前です。

 勇者を選定する秘術を持っているせいで、他国に対しても絶対的な影響力を保持しています。なんか嫌な予感しかしません。


 それでもって魔王が降臨フェーズに入る際には、必ず城の塔に灯台よろしく火を燈して人間に降臨を知らしめる決まりです。

 だけど魔王を廃業して以来、僕は塔どころか城まで真っ暗に放置したままですから、わざわざ確認される理由もないはずなんですが……。


 「神殿で魔王の降臨を告げる託宣があったのに、塔に灯りが燈らないから……それで俺が偵察に来た」

 僕たちの反応に何かを感じたのか、レナードが言葉を足してくれました。でもおかげで何となく状況がわかってきた気がします。


 「蒼先輩、託宣ってもしかして……」

 いつもの無表情を維持できないくらいにげんなりとした僕の様子を見て、萌黄が気遣わしげに声をかけてくれました。

 「ええ……協会の呼び出しがなければそろそろ降臨の時期だったはずですから、リグヴァルド様が託宣をタイマー予約して、そのまま取り消すのを忘れていたとしか……」


 何、この果てしない脱力感。苦労している部下の足を引っ張る上司って何なの。

 「お前のボス、相変わらずだなー!」

 翠が同情半分、面白がっている感半分で僕の頭を撫でてくれますが、全然嬉しくありません。


 「蒼、託宣が下ってしまったとなれば、マテアスのことですから、魔王が降臨していようといなかろうと問答無用で攻めてくる可能性があります。神の意思が何よりも優先される国ですから……」

 常日頃から僕に突っかかってくる紅でさえもが同情的です。ていうかその未来予想図、滅茶苦茶現実味を帯びていて嫌すぎる。


 けれど悪い予想と脳内シミュレートでいっぱいになりつつあった僕の意識は、続く珊瑚のひと言で現実に引っぱり戻された。

 「蒼さん、俺良い事思いついちゃった!もしマテアスが攻めてきたら、マテアス対象に企画書を書きまくれば、自己防衛も新システムの開発も兼ねられて一石二鳥じゃないっすか!」


 そうか。さすがのリグヴァルド様も罪悪感を感じてくれてるだろうし、ちょっと無茶な企画書も通りやすくなるかもしれません。

 今まで提案しては却下されてきた対人間用の戦術を試してみることができるとしたら――うわ、やりたいことがいっぱい過ぎてどこから手をつけよう状態。


 これはちょっとだけ、そう、ほんのちょっとだけやる気が出てきたかも!

足を運んで下さった方々に心からのお礼を。読んで下さってありがとうございます。

そして、いつもどれだけ本文を「黒く」するか迷います。でも気付くと何故か結構黒くなってるの……(汗)

携帯で閲覧して下さっている方々、ご不便をおかけしてすみません;;

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ