プロローグ
最古参の魔王である僕は今、世界管理者協会の理事会に呼び出しをくらっています。
どういうことかと申しますと――。
人間という種族は適応力と応用力が高く、上手に管理するためには最低ひとつは『危機』を設定しなければならいことは、世界管理者の間ではいまや当たり前の常識です。
もちろん自然環境や物理法則が人間に優しくない世界であれば、管理者が直接『危機』を設定しなくても人間の繁殖力と世界バランスがうまく折り合っていけるのですが、ちょっと四季が生ぬるかったりするともう。
人間の繁栄で世界バランスはグダグダになります。
そこで数千年前に画期的な新システムとして登場したのが、僕たち『魔王』でした。
人間に無力感を植えつけたり直接数を間引いたりと、かなり効果的なシステムである上に、一度設定すればそのすべてをほぼオートで実行してくれるので、いくつもの世界で便利に導入されてきたのですが。
だめですねー。数千年の経験を経てしまうと、人間は『勇者』という魔王の対存在を使って僕たちに対処する方法を覚えるので、人間の順応力の勝ちと言いますか、このシステムにも限界が見え始めてしまったんです。
まあ正直に申し上げますと、長く魔王をやっていると段々に仕事がエンドレスリピートに感じられるようになってきて、ちょっと手抜きしていた部分もないとは言い切れないのですが。
そんな経緯で、魔王システムが機能しなくなったある世界の担当魔王である僕は、世界管理者協会に召喚されています。とうとうクビを言い渡されるんだろうか。転生させてほしいとか贅沢は言わないから、せめて協会の雑用係として置いてくれないかな。
「さて蒼の魔王よ、今日は遠路はるばるご苦労だった」
世界管理者協会は、俗に言う神様の組合みたいなものです。今僕に話しかけたのが、会長のダーヴァラ様。この次元の中心にある最大世界の全能神をされている方です。
あ、ちなみに『蒼の』というのは僕のことです。魔王はたくさんいますから適当に瞳の色の名前で呼ばれているのですが、僕はあまり『蒼』の響きが好きではありません。
どこか東の方の世界で馬につけるもっともポピュラーな名前だと知ってしまった時のショックときたらもう。
ですがもっとも初期に作られた魔王である僕には、普通にベーシックな色の名前と瞳が与えられました。最近生まれた魔王は、みんな『秘色』とか『銀朱』とか、めちゃくちゃ凝った色彩を持っているのに。
あ、でも中には『肉色』とか『卵色』とか身も蓋もない色彩を与えられた子もいるみたいですから、後のほうで生まれてくるのも相当ハイリスクなんですけどね。
『卵の魔王』とか、響き的にどうよ?
「知っての通り、協会は魔王システムの限界について様々な世界で注意深く観察を続けてきた。そして専門家チームの最終報告書を検討した結果、協会はひとつの結論に至った」
ダーヴァラ様の厳めしい雰囲気が今日は尚更に厳しく感じられます。
いよいよクビだろうか。次元初のリストラ魔王として歴史に名を残すってすごく嫌なんですけど。
そんなことを考えながら、僕はごくりと生唾を飲み込んだ。
「魔王システムは導入から三千年を耐久限界とする」
ああ、やっぱりクビか……。僕が今の世界に導入されてから、軽く五千年は経過しています。
あ、でも三千年が限界ってことは、他の比較的新しい世界に転任はさせてもらえるのかな?
ですがダーヴァラ様の話はそこで終わらず、淡々としていながらも力強い声に、彷徨いがちな僕の思考も引っぱり戻されました。
「そこで最古参の魔王である君に、新たなプロジェクトチームを任せることにした。君の魔王としての経験を活かして、新しく、より優れた人間管理システムの開発を担当してほしい」
え、なんか今さらっと責任超重大なことを言われた気がするんですが。お願いだから聞き間違いって言って……!
需要があるか分かりませんが(汗)
感想、誤字報告などいただけますと喜びます。
でも打たれ弱いのでお手柔らかにお願い致します;;