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ありとありとありと、

作者: さだ 藤

 家族にしか、分からないこともあるのです。



 私の姉はひどくうっとうしい人でした。

 かよわい容姿にかこつけて、自分はだめだと決め付けて何もしない人です。

 姉のかよわい容姿はけれど、見かけだおしの生まれた時からの健康児。

 家の外へ出ないまでも、家の中で刺しゅうでもしてくれればいいものを、できない、できないとめそめそとやる前から泣き、そのくせ家族の中で誰よりもご飯を食べてすやすやと眠りに付きます。


 夜は早く、朝は遅く、昼は昼寝。夕は夕寝と、何もしていない事でありあまる時を、めそめそと泣くか、ぼーっとすごすか、寝ているかで過ごしています。

 そのくせ家族の中の誰よりも、朝、昼、晩と、ご飯を食べるのです。


 物事を、ちゃんと理解しようとして、理解すればかんたんに出来うるはずのことでも、理解することをまずほうきし、できない、できない、とやる前からただ泣いてできない自分を正当化する人でした。


 何も私は全ての人が出来る、とは言いません。ひっしにがんばったって、出来ない人もいることを知っています。

 それでもその人たちにはちゃんと、始めから。理解しようと向き合って、理解しようと努力したというそんけいできる事実があったのです。

 たとえ理解できなくて、出来なかったとしても、それはそれで素晴らしいと私は思うのです。

 だってそこにいたるまでの過程に、彼らの努力があるのですから。

 そんな彼らの努力をまるでひていするように、姉はただ出来ないとはなから決め付けてできないできないと泣くのです。


 何も出来ないはずもないのに。


 そんな姉はもう子供と言える年齢ではありません。

 なので、一人の人として私達は姉を扱います。姉を思います。

 じっさいに。姉はただ甘えたの子供ぶっている大人でした。自分に都合のいい事実をつくり、自己とうすいによっている大人です。

 自己とうすいなんて覚えたらもう子供ではないのだと、どうして気付かないふりをするのでしょうか。

 ひげきのヒロインをきどり、よわよわしく微笑んでみせる顔はしだいにいまいましく、私達をどうとも思わない姉は、私達にとっても扱いづらい、わがままな存在と化していました。


 せっするにしても疲れてしまう。

 疲れてしまうだけですむのならまだいいのですが、だんだんと私達は姉の事がにくらしくなっていきました。

 けれど、それゆえにとった距離にまた姉はさびしげに笑います。


 あぁ、憎らしい。あぁ、忌まわしい。


 わき上がるふの感情は、すでにおさえがきかないほどになりそうでした。


 しかたがない。姉はそういうものなのだ。しかたがない。


 おさえつけて、おさえつけて、おさえつけていた感情で、私達は破裂してしまいそうになっていました。


 そんな時。

 ばかな男があらわれました。見目うるわしい、心優しい王子様。

 しょうしんしょうめい、王族の、王子様です。

 王子様はせけんの荒波にもまれる事無く、ぬくぬくとお育ちになられたという事実を、はっきりとその言動でおしめしになって下されました。

 姉のよわよわしく装ったその外面にまんまとひっかけられ、姉のたわ言を事実だと思い込み私達を悪者と扱って、姉を貰っていったのです。


 あぁ。

 なんて愚かな男でしょう。


 けれど、愚かな男のおかげで私達家族には平穏な日々がやってきました。


 あぁ、ばかな男です。

 どちらが悪者か、どちらが悪魔かも分からずに、まんまと悪魔をもらってくれました。


 あぁ。

 けれど、愚かでばかな男は、私達家族にとっては救世主でした。

 まるで神様の様に思えました。



 あぁ、なんて幸せな日々を送れるのだろう。

 姉が居なくなって、私達家族は幸せに、幸せに暮らし終えることが出来ました。



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