第一話【少し過去のお話】
異形の者たちと関わる前に何があったのか。
何故生徒会長と関わることになったのか。そんなお話。
放課後。部活動も終わり閑散とした学校。
俺は一人生徒会室へと向かっていた。
この高校に入学して一年と少し。無事に進級もでき、友人にも恵まれていた。
二年になってすぐのことだ。体育祭や文化祭と言った参加型行事ならまだしも、面倒な生徒会長を選ぶ投票が行われた。
一年の頃は参加出来ないため知らなかったが、概要については教師が説明してくれた。
立候補者を集い、その人物の中から生徒たちが一人を選び投票する。という面倒な行事。
正直な話誰でも良かったのだが壇上に立っている一人の人物に目を惹かれた。
現生徒会長である。腰まで伸びている長い髪。顔立ちもよく思わず見惚れてしまっていた。
実際自分も同じ理由ではあるが、友人らはただ「可愛い」という理由だけで投票。
見た目からなのか、それとも純粋に彼女になってほしいと言う願いからかこの行事で彼女は生徒会長へとなっていた。
そんな中問題が一つ発生した。。生徒会の一人が転校することになり、生徒会メンバーに一つ空席が出きたのだ。
本来であれば参加希望者を募り投票。という形になるのだが、一人も立候補者は居なかった。
このままでは作業に支障が出るとの事で、生徒会長自らが勧誘し了承されれば投票等の作業を無視して生徒会入り。という事になったのである。
だが、誰彼かまわず勧誘していたわけではない。ある程度の成績優秀者であることが大前提だ。
とは言え立候補者が居ないのだ。勧誘されたからと言って参加する人間は一人も居なかった。
ある日のことだ。昼食を忘れた俺は菓子パンを買いに自動販売機へと足を運んでいた。
この学校に購買というものは無く、飲食物は全て自動販売機での購入。問題がひとつあるとするなら、授業の合間の10分の小休憩中にでも購入ができるので、昼休みに行くとほとんどの商品が売り切れているということだろう。
案の定俺がついた時にはすでに人気のパン類は無くなっており、残っているのは不人気の餡パンやデニッシュ。
背に腹は代えられない。落ち込みながらも硬化を投入しようという時に肩を叩かれた。
「少しいいかな?」
生徒会長だった。一体俺に何の用だろうとも思ったが、その疑問はすぐに解決した。
生徒会長自らが訪ねてくる理由なんて一つしか無い。勧誘だろう。
「えーっと……。すみません。急いでるんで」
「ふむ……。来てくれるならこれを譲ろうと思ったんだが」
生徒会長の手にはカレーパンが二つ。昼休み中に自販機の中ではまず見られないものだ。
このまま我慢して餡パンを食べるか、それとも生徒会長に着いて行ってカレーパンを譲ってもらうか。
考えるまでも無く俺は二つ返事で生徒会長へとついていくことにした。
「まあ、分かっては居ると思うが生徒会へ入ってはくれないかい?」
「お断りします」
カレーパンを頬張りながら答える。
確かにパンを譲ってもらいはしたが、それとこれとは話が別だ。
「ほう……。じゃあ君は断ること前提で着いてきた挙句私の昼飯を奪い取ったわけか」
「う、奪い取るって人聞きの悪い」
あれ?でも確かに客観的に見ると俺が悪いような……。いや、間違いなく俺が悪いな。うん。
何を言われるのかわかってたならそこで拒否して餡パンを食べてればよかったわけだし……。文句言われても仕方ないぞこれは。
「ふふっ。冗談だよ。いくら切羽詰まってるとは言え、パンで釣ろうなんて思ってはいないさ」
「悪い冗談はやめてくださいほんと」
本気で俺が悪いと思っ……いや悪いけどさ。
「すまないね。それで……えっと、…… 篠崎 悠君だったかな?」
名前を言い当てられ少し驚く。だが冷静に考えてみれば勧誘しに行く相手の名前を覚えているのは普通だろう。
というか、むしろ名前を覚えていないと失礼まである。
「自己紹介の必要もないだろうが私は三年の蛇穴 静玖。一応生徒会長だ」
自己紹介してくれて助かりました。ぶっちゃけ名前覚えてなかったです。すみません。
とは言え参加する気は今のところ無いのだが……。
別に嫌な訳ではない。部活もやっていないし授業が終わり次第帰るだけ。特にすることも無いので入ってもいいのだが……。
「では自己紹介も済んだからもう一度聞こう。生徒会に入るのは嫌なのかい?」
「別に嫌ってわけでは……。ただ入るとなると人前で話したりとかありそうで」
そうなのだ。人前で話をしたりするのが俺は大の苦手だ。生徒会に入らない唯一で最大の問題。
人前に出ず裏方で作業するだけなら構わない。しかし発表だとかは御免被る。それさえ無ければ二つ返事で入ってもいいのだが。
「なんだそんなことか」
一蹴される俺のコンプレックス。そんなことって……。
自分にとっては結構……。いや、かなり重要な問題点なのだが。
「なら安心してくれて構わない。席が空いたのは裏方の方だからね。人前で何か話したりする。っていうのはほぼ無いよ」
「ほんとに……?」
いざ入って表舞台での仕事。そんなことをされてはたまったものではない。
途中で辞退なんて出来ないだろうし……。
やっぱりやめておいたほうがいいんじゃないだろうか。
「ああ、もう。君は優柔不断なやつだな。ほら、これに名前を書け」
そう言って取り出したのは一枚の用紙。
いろいろ書いてあるが、要するに生徒会への参加の意思を示す用紙のようだ。
「はいはい。分かりましたよ。ほんとに人前に出したりしないでくださいよ?」
「私を信用しろ。約束はしっかりと守る」
信用しろって言われても初対面の人だからなあ……。
少し不安になりつつも用紙にサインをする。ここで生徒会に入らなければあのようなことにはならなかったのかもしれない。