Please me "fight"
着ていたコートのチャックを、1番上まで素早く引き上げた。
制服のスカートが寒風によって揺れる。
男子の制服が羨ましくなるのは、こういう時だ。
「なんで女子ってスカートな訳っ…」
黒いハイソを無理矢理長く伸ばしながら、小さく文句を言う。
いらいらしているのは、寒さのせいだけではなかった。
朝から、起きたら携帯に迷惑メールが一件。
内容は、異常に長いチェーンメール。
誰がこんなの信じるの、とぶつぶつ言いながらゴミ箱ボックスへ。
それと、昨夜電話すると言っていた僚介くんから、電話が来なかった事。
遠距離恋愛中の彼は、社会人1年生で…まあ、色々忙しかったんだとは思うけどね。
挙句の果てに、今朝弟が手を滑らして私のお気に入りだったマグカップを割ってしまった。
今日こんなに立て続けに起こらなくても…何で今日?
神様は私に恨みでもあるのかしら。
溜息を吐きそうになって、慌てて止める。
幸せが逃げて行くって言うからね。
今日は逃げていかれちゃ困る。
大事な日なのだ。
「おしっ」
と気合を入れて私は歩き出す…と。
出鼻を挫くように、ポケットにある携帯が振動した。
「はい」
『梓?』
誰からかも確認しないでボタンを押したから、聞こえてきた声に心底驚く。
「僚介くん?」
『や、俺の携帯だから』
「うん、誰からか見て無かった」
『あ、そう…昨日ごめん、帰り遅くてさ…』
「…待ってたんだからね、おかげで寝るの遅くなった」
昨日くれなかった電話。
昨日、電話越しからでも欲しかった“頑張れ”の言葉。
『え、でもちゃんと寝たんだろうな?』
少し焦ったような声が耳に届いて、私は少し笑った。
「寝たよ、寝なかったら今日大変だもん」
『良かった…今日センター試験だったよな』
「うん」
『頑張って来いよ』
「うん」
『梓なら、大丈夫』
「…うん」
欲しかった、コトバ。
これできっと、頑張れる。
もしかしたら、昨日聞くよりも効果は絶大。
『じゃあ、俺仕事行くから…頑張れ』
「行ってらっしゃい」
携帯を切ると、寒さも気にならないほどに身体は温かくなっていた。
よし。
頑張ろう。
新たに気合を入れ直し、私は歩き始めた。
End…
★あとがき
私立高校の受験に行く時、歩いていてふと思いついたもの。
我ながら、自分の書く物語には電話物が多い気がします(笑)
それでは。
ここまで読んで下さった皆様に、最大の愛と感謝をこめて。
With love...
ありがとうございました!!!