双子とダブルブッキング。
ピアノの突っ込んだ話はしないので、マジな音楽の話が見たい方は回れ右。あ、『戻る』お願いします。
午後の一時半。
昼休みが終わる直前、渡瀬 城の携帯には、二通のメールが届いていた。
『≪風見 凛≫今日の放課後、音楽室に来て。』
『≪風見 優≫今日の放課後、音楽室に来てほしい。』
二人から城に送られてきたメールは、どちらも『送信時刻――1:28』となっていた。用件も同じで、どことなく字面も似ている。言い切っているほうが姉。ちゃんと『お願い』をしているのが妹だ。
しかし、問題は二通同時に来たことだった。
――ようするに、ダブったのである。
「一人ならともかく、あの姉妹二人をいっぺんに……巻き込まれるなんて冗談じゃねぇ……」
メールを見てひとり呟いた城。まだ『諦めて同時に相手をしてやる』などという選択肢は無く、断りのメールを打ち始めた。
『悪いけど、今日はちょっと用事あるk――』
メールを打つ途中で、再び城の携帯にお知らせが表示された。
『新着メールが二件あります』
城はなんとなく嫌な予感を抱きつつ確認すると、文の中身はまたも姉妹そろった内容だった。
『『――分かってると思うけど、来なかったら…怒るよ(んだからね!)』』
口調は違っていても結局のところ、姉妹そろって拒否権を渡す気はないようだ。
おまけに聞こえたチャイムの音を耳にして、城は諦めた。
どうせ昼休みも終わり。そして今日は五時間授業――次の休み時間はもう『放課後』だからだ。
◇
扉を開けると、音楽室では既に二人の少女が睨み合っていた。
「で、なんで優が……」
「なんでお姉ちゃんが……」
「「ここに居るの(よ)?」」
音楽室では冷戦が始まっていた。
濡れ羽のような黒髪を、姉は左右二つに縛って伸ばし、妹はそのままにしたロングヘアー。顔つきはどちらもまったく同じ。お互いに冷ややかな目線をぶつけあっている姿は、鏡に向かって表情練習でもしているようにしか見えないほど瓜二つだ。
強いて違うところを挙げるなら、髪型と目つき(よく見るまでは分からないが)と話し方と……ようするに気性というか性格というか、それくらい。あとは全部一緒。どこまでも一卵性双生児であった。
「「……城、説明して」」
城は黙って携帯をとりだし、先ほどのメールの文を見せた。
「お前ら、ほんと仲が良いのな(行動だけだが)」
そのまま表示を切りかえ、受信した時刻も見せた。『13:29分』。チャイムが鳴る寸前だった。
「「良くない」」
「え、いや、イタズラで一緒に送ってきたんだろ?」
「「違う」」
「え、じゃあ……知らなかったのか?」
「うん、優が……」「そう、お姉ちゃんが……」
「「謀った」」
「え、マジで!? 打ち合わせとかしてないのか、これ?」
城の問いかけに、二人は首を縦に振る。もちろん同時に。
「……まあ確かに、クラス違うから送ったときにはそれぞれ教室に居たんだろうし……うーん、さすがに一卵性ソーセージはヤバいな、奇跡すぎる」
「ねえ、城。下らない事考えてないで教えてほしいんだけど……どっちの約束を聞くの?」
「城、『なんか朝食のメニューみたいだな』とかは考えなくていいから……早く決めて」
「……エスパー?」
城はフリーズした。
暫く固まった後、ようやく解けて、言葉を続ける。
「つってもなあ……決めろといわれても、別に、毎度のごとく演奏聴くだけでいいんだろ? たまたま一緒になったんだったら、二人で聴かせてくれればいいじゃん。俺は大丈夫だぞ?」
「「ダメ」」
「……何でやねん」
どうしたものかと思案する城に、姉が助け舟(?)を出した。
「……そういえば表示の順番はアタシのほうが先みたいよ。ねぇ?」
そう言いながら目をつり上げつつ腕を組み、何かを要求するように妹を睨む。
「私のほうが文字数が多かった。メールを打ち始めたのは私のほうが早い」
妹のほうは、素知らぬ顔で言い放つ。
「「――だから優は(お姉ちゃんは)出て行きなさい(出て行って)」」
結論もばっちりシンクロ。お互い譲る気は無いらしく、見事な『犬猿の仲』だった。見た目は一緒なのだが。
「大体優がこんなところで城に聴かせてるなんて聞いてないんだけど!」
「むしろ、なんでお姉ちゃんが城に演奏聴かせてるの?」
親の敵にでも出会ったようなやりとり。しかし城は、雰囲気ではなく会話の中身に違和感を覚えた。
「あれ、何だ? まさか二人とも知らなかったのか?」
「「初耳(よ!)」」
「何でいままで言わなかったわけ?」
「いや、普通に知ってるものかと」
「お姉ちゃんと私は、今までは交互にピアノのレッスン受けてたから……それに、学校で何してるかなんていちいち聞かないよ」
「あー、そうなのか」
――確かに、『城に演奏聞かせた』なんてわざわざ相手に報告する義理もない。かといって、別に内緒にしておく理由もない。一年以上たってもお互い雑談にすら出さずに内緒にしいるのは……何か理由があるのだろうか?
「とにかく、城と会ってるなんて聞いてないよ?」
珍しく妹が先手を取った。
「そ、それはアレよ、れ、練習相手! 練習相手なの!」
「……城は私の練習相手。だから他を当たって」
「そんなの知らないわよ! 大体あたしは入学したときからたまに――」
「それなら私だってヒマな時は――」
しばらく続く言い争いをよそに、城は腕を投げ出しながらボーっと欠伸をしていた。
「「……そうだ」」
しかし雲行きが怪しくなってきた。
「「どっちが残るか――城に決めてもらえばいい」」
「俺の自由権が軽視されているから困る」
そんな制止の声など届くはずも無く、
「いいから選べ!」
「いいから選んで」
城は、近づいてくる静と動による圧力に、抵抗ができなかった。
◇
「当然あたしのメールが先に届いたんだから、分かってるわよね?」
「当然私の方が先にメールを打ち始めてたんだから、分かってるよね?」
姉妹の問い詰めによって、既に城は音楽室の隅付近に追いやられていた。
バッハやらモーツァルトが引っ掛けられている壁に背をもたれつつ、城は説得を試みた。
「いいじゃん、二人で仲良くやれば――――「「却下」」――――左様で……」
にべもない。
「「いいから、ちゃんと選んで」」
姉妹が謎の威圧感とともに、さらに城を壁へ壁へ追い詰めていた。
城は壁を背中全体に感じながら、視線を巡らし逃走経路を探る。
「いいじゃん、別に真剣勝負してるわけじゃあるまいし……な? ほら、たまには仲良くしろって、な? な? ほらほら凛も優も落ち着いて、平和に平和に、穏便に……」
体を右へ左へと向けながら必死に姉妹をなだめる姿は、傍から見たら中々シュールな光景だが、姉妹は笑う様子も和む様子もない。
「「ち ゃ ん と 選 び な さ い」」
その後に小さい声で「「……勝負なんだから」」と加えられた。
声は聞こえていたが、城にはその意味するところが理解できていなかった。
「……よく分からんけど、まあ、勝負だって言うんなら仕方ない……」
「……っ!」
「……っ」
息をのむ二人に向かって、城は言葉を発した。
「どうせ聴かせてもらうわけだし……『アレ』で決めたらどうだ?」
そう言いながら、音楽室の真ん中にあるピアノを指差した。
城としては名案のつもりだったが、彼女たちからしてみれば提案は気に入らなかったらしい。二人に半目で睨まれていた。
「もしかして今日俺は蔑まれるために呼ばれたのか?」
「「……もういい、別に」」
同時にため息。シンクロのペアでも組めば、いい線いきそうなレベルであった。
そして城に詰め寄っていた二人は、威圧的な目線の矛先をお互いへと変えた。
「優……」
「お姉ちゃん……」
「「……勝負!」」
二人の間で火花が散って。バトルが幕を開けた。
「なあ、結局なんで勝負までする必要があるんだ?」
「「うるさい唐変木」」
姉妹の間で、城の人物像は共通らしい。
三人称(?)に挑戦してみたくて書いた。
……感想ご批評、コツ等々、あれば是非ともよろしくお願い以下略。
ちなみにタイトルは勢いで付けたので連奏曲とかあんま関係無いです。
それでは。