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危機のたびに異世界の職業を思い出すおっさん、ダンジョン社会で生きる  作者: kage3
第一章 ダンジョン発生

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第9話 自己紹介と光の渦

巨大な影が完全に動かなくなっても、片目の男はすぐに背を向けなかった。


倒れ伏した巨体を、ただ無言で睨みつづけている。

間合いを保ち、呼吸を整えながら、わずかな変化も見逃さない構えだった。


大柄の男は、その場に立ったまま肩を大きく上下させていた。

拳をだらりと下げ、腕に力が入らないのが見て取れる。


「……やり過ぎた」


吐き捨てるように言う。


「限界を超えて使ったから、腕が上がらん」


そう言って、無理に拳を握ろうとして、顔をしかめた。


眼鏡の男は壁に背を預け、杖を床に突き立てて身体を支えている。

魔力が完全に空なのだろう。立っているだけで精一杯という様子だった。


「……それでも煙は余計だ」


大柄の男が低く、ぼやく。


鼻で笑うより先に、眼鏡の男は言い返す。


「俺の魔法が煙を出したわけじゃねぇ。モンスターが燃えた結果だ。文句はあの巨体に言え」


「チッ……」


返事にならない音だけが返る。


しばらくして、片目の男がようやく視線を外した。


「……魔力の動きが無くなった。さすがにもう動かないだろう」


その言葉で、張り詰めていた空気が、ほんのわずかに緩む。


俺は少し離れた位置で、その全体を見ていた。


誰もが消耗している。

それでも、誰一人として勝利を口にしない。


戦闘は終わった。

だが、この場に残る緊張が、それを簡単には認めさせなかった。




片目の男は、倒れた巨体から視線を離して周囲を見渡した。


「被害状況はどうだ」


女医師が一歩前に出る。

すでに救助者たちの様子は一通り確認していた。


「致命傷はありません。軽度の打撲や擦過傷が数名。脱水と疲労が強い人が多いですね。戦闘に関わった人たちは、しばらく安静が必要です」


簡潔で、無駄のない報告。


「歩けない人はいない。ただし、無理は禁物」


その言葉に、周囲の空気がようやく緩んだ。


片目の男はうなずき、救助された人々に向き直る。


「少し休め。ここから先は、全員で動くことになる。落ち着いたら、互いに自己紹介をしよう。」





短い休息の後、自然と輪ができる。


まず、片目の男が名乗った。


「俺は――黒崎くろさき はじめだ。スキルの魔力感知を活かして状況判断と指示役、状況によって前衛・後衛の補助をやっている」


続いて、大柄の男が肩をすくめるように前に出た。


「俺は朝倉あさくら 剛志たけし。身体強化スキルのおかげで身体が頑強になり力も強くなったから前衛をやっている。元は建設現場の仕事だ」


続いて、眼鏡の男が軽く咳払いをする。


神谷かみや 光成こうせいだ。後衛で魔法による牽制や強大な一撃を担当している」


女医師は穏やかに名乗る。


たちばな 美咲みさき。医師です。スキルや医師の知識を活かした治療と体調管理を受け持っています。」


救助された人々も順に名を告げ、やがて学生の番になった。


男子学生が、少し緊張した様子で口を開く。


「……朝倉あさくら 恒一こういちです。大学生です。」


その瞬間、大柄の男の表情がわずかに変わった。


「……朝倉?」


一拍置いて、慎重に問いかける。


「もしかして君のお母さんの名前は、華じゃないか?」


男子学生は驚いたように目を瞬かせ、ゆっくりとうなずいた。


「……はい。母の名は華です」


短い沈黙。


大柄の男は、しばらく考え込むように視線を落とし、低く息を吐いた。


「……そうか。あの人の息子か」


言葉は淡々としているが、どこか距離を測るような響きがあった。


「長いこと、会ってなかったからな。こんな所で繋がるとは思わなかった」


男子学生は戸惑いながらも、小さく頭を下げる。


「……僕も、聞いたことはありました。でも、まさか……」


言葉を濁したまま視線を落とす男子学生に、片目の男――黒崎が短く区切りを入れる。


「すまないが先に、彼女を紹介してくれ」


その意図を察し、男子学生は一度うなずいてから隣を示した。


「こちらは……佐倉さくら 紗季さきです。友人の妹で、一緒に行動していました」


促され、女子学生は一歩前に出る。

緊張はしているが、背筋を伸ばし、はっきりと頭を下げた。


「佐倉 紗季です。学生です。……皆さんが来てくれて、本当に助かりました」


その声は小さいが、はっきりとしていた。

周囲を一度見渡し、もう一度深く頭を下げた。




自己紹介が一通り終わると、片目の男が恒一達のこれまでの状況を聞いた。


「ここに来るまで、何があった」


黒崎の問いに、男子学生――朝倉 恒一が一歩前に出た。

まだ息は完全には整っていないが、話そうとする意志ははっきりしている。


「駅の地下から……気づいたら、ここにいました。最初は人も多くて、混乱していて……」


言葉を選びながら、これまでの経緯を説明する。


最初の魔物との遭遇。

逃げ惑う人々。

途中で見つけた装備部屋。


「武器が手に入って……それから、スキルっていう不思議な力に目覚めました」


一瞬、視線が伏せられる。


「……自分が、前に出るしかないと思ったんです。守らなきゃいけない人が、後ろにいたから」


責任感が先に立ち、無理をしてきたことは、言葉にしなくても伝わってくる。


「途中で、出口みたいな場所も見つけました」


その一言で、周囲の空気が変わった。


「出口?」


「確かか?」


複数の声が重なる中、黒崎だけは黙って続きを待つ。


「はっきりとは……でも、広い空間の奥に、出口のような形の光が見えました」


「近づこうとしたら、あの巨体が出てきて……」


そこで言葉が止まる。


逃げながら戦っていた理由。

巨大なモンスターが、なぜあそこにいたのか。


「出口の前を、塞いでたってわけか」


大柄の男が低く呟く。


「巨体がボスだった可能性は高いな」


黒崎は顎に手を当て、短く考える。

そして――俺に視線を向けた。


「……何か心当たりはあるか」


全員の視線が、こちらに集まる。


「出口で間違いないと思います」


そう答えると、すぐに声が上がった。


「ちょっと待ってください」


女子学生――佐倉が、少し強い口調で言う。


「どうして、そんなにはっきり言えるんですか?」


「……紗季、言い方」


朝倉がたしなめるが、彼女は引かない。


「だっておかしいでしょ。なんで出口って言いきれるの。」


恒一はたまらず視線を逸らす。


俺は小さく息を吐いた。


「疑うのも、もっともだ」


二人を見る。


黒崎が口を挟む。


「君の記憶や知識について、説明してもいいか」


「構いません」


簡単に、異世界の構造やダンジョンの概念を説明する。

質疑がいくつか交わされ、学生二人は次第に納得した表情になる。


ただ。


「……そんな大事な記憶があるなら」


佐倉が、じっと俺を見て言う。


「もっと早く言ってください」


言葉は率直で、遠慮がない。


「……はい」


思わず、たじろぐ。


第一印象との違いに、内心で小さく驚きながらも、それは胸の内にしまった。


黒崎が場をまとめる。


「このまま、ここに留まっても消耗した状態で次のモンスターに襲われる危険がある」


「出口と思われる場所に向かうのも、危険がゼロとは言えない」


一人ひとりの顔を見る。


「だが、脱出するまで危険が続くのは同じだ。ならば、出口である可能性に賭ける」


異論は、出なかった。


「進む」


指示が下り、隊列が組み直される。


前に、大柄の男。

少し間を取って、黒崎と眼鏡の男。

中央に学生二人と一般人。

後方を、俺と女医師が固める。


慎重に、音を殺して進む。


通路は、不思議なほど静かだった。

さきほどまでの戦闘が嘘のように。


角を曲がり、さらに進む。


――敵は、出ない。


罠もない。

物音もない。


やがて、視界が開けた。


壁も、床も、これまでと同じ。

ただ――中央に、それだけがあった。


光の渦。


地面から立ち上るように回転し、淡く輝いている。

風も、熱もない。

ただ、そこに「在る」。


「……これ、だ」


朝倉の声が震える。


周囲を見回すが、敵の気配はない。

それでも誰も、すぐには近づかなかった。


俺は、その光を見て確信していた。


――出口だ。


一歩、前に出ようとした瞬間。


「待て」


大柄の男が前に出る。


「渦の先に、何か居ても対応できるのは俺だ」


振り返らずに言い切る。


「……確認だけだ。すぐ戻る」


光の渦へ、足を踏み出す。


渦が、彼の身体を飲み込み――

姿が、消えた。

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