表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
危機のたびに異世界の職業を思い出すおっさん、ダンジョン社会で生きる  作者: kage3
第二章 おっさんはコンビニ店員

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

26/45

第26話 焦りと3人組探索者

 中層の探索を繰り返すようになって、数日が経った。


 深追いせず、疲労が溜まる前に引き返す。代わりに、同じエリアを何度も丁寧に回る。

 地味だが、ダンジョン探索としては堅実なやり方だ。


 その成果は、少しずつだが確実に出ていた。


 ――宝箱。


 中層に入ってから、これまで見つけた数は一つや二つではない。


「……本当に、色んなところにありますね」


 篠原さんが、半ば呆れたように周囲を見回す。


 実際、その通りだった。


 茂みの奥。

 川の中。

 太い木の根元の影。

 何の目印もない草原のど真ん中。


 どう考えても「ここにあるだろう」という場所だけでなく、「何でこんなところに?」と思うような場所にまで、宝箱はひっそりと置かれている。


 罠はないが、魔力反応が強いわけでもないので目で見て探すしかない。

 注意深く見ていなければ、普通に見落としてしまう。


「宝箱って、もっと分かりやすいものだと思ってました……」


「同感です。完全にかくれんぼですね、これは」


 苦笑しながら頷き、開けたばかりの宝箱の中身を確認する。


 中に入っていたのは、ローポーション。


「ローポーション、ですね」


「ええ。悪くはないですが……」


 これで何本目だろうか。


 他にも、通常のポーション。

 身体能力を一時的に底上げするパワーポーション。


 どれも有用ではある。

 探索を続ける上で、確実に助けになっている。


 ――だが。


 目的のものは、まだ一度も姿を見せていなかった。


「……ハイポーションは、やっぱり簡単には出ませんね」


 篠原さんの言葉に、私は静かに頷いた。


 数を当たれば、そのうち見つかる。

 理屈では分かっているが、気持ちの方はなかなか追いつかない。




 中層の探索は、ほぼ毎日のように続いていた。


 そして――宝箱も、ほぼ毎日のように見つかっている。


 茂みの奥、川の浅瀬、木の根元、草原の真ん中。

 場所はまちまちだが、発見の頻度自体は決して悪くない。


 中身も、決して外れではなかった。

 ローポーション、ポーション、パワーポーション。


 だが。


「……今日も、ありませんね」


 篠原さんが宝箱を閉じる指先に、以前よりも力がこもっている。


 日を追うごとに、その変化ははっきりしてきた。


 不用意に茂みに踏み込もうとする回数が増え、

 必要以上に足を速め、先へ先へと進もうとする。


「篠原さん、少しペース落としましょう」


 できるだけ柔らかく声をかけると、篠原さんははっとしたように振り返る。


「あ、すみません……焦ってました」


 口ではそう言う。

 だが、行動はなかなか元に戻らない。


「……ハイポーションの素材、何かありませんか?」


 その確認も、日に日に増えていった。


「今のところは……それらしいものは見当たりませんね」


 嘘ではない。

 ただ、植生や魔力の流れから見ても、可能性が低いことは分かっていた。

 ――それを、今は言わないだけだ。


 そのときだった。


 ズゥン……ズゥン……


 腹の底を叩くような重低音が、遠くから響いてくる。


「……っ」


 思わず足を止める。

 音は一度きりではなく、間隔を置いて繰り返されていた。


 そのたびに、地面がわずかに震え、

 周囲の木々がざわめき、葉擦れの音が連鎖する。


 ――巨大な生き物が、森ごと揺らしながら移動している。


 そう理解した瞬間、背中に冷たいものが走った。


 警戒を強めた、その直後――


 ガサッ、と茂みが大きく揺れた。


 現れたのは、三人の探索者だった。

 装備は揃っているが、どこか雑で、目つきも荒い。


「お……?」


 視線が、真っ先に篠原さんへ向く。


「へぇ……こんなとこに、こんな上玉がいるとはな」


「中層で女連れ? 運がいいのか悪いのか」


 嫌な予感が、はっきりと形を持った。


「――っ!」


 男の一人が、何かを投げてきた。


 反射的に、いつものように身を引いて避けようとする。

 だが――


 それは、空中で弾けた。


 網が一気に展開される。

 範囲は想像以上に広く、そのうえ30センチほどしか離れていないため逃げ場がなかった。


「チッ……!」


 蜘蛛の巣状の網が身体に絡みつく。

 腕、胴、脚――逃げようとするほど、締め付けが強くなる。


「よし、捕まえた!」


「囮確保だな」


 三人は私を一瞥すると、迷いなく篠原さんの方へ向かった。


「おい、来い。大人しくしてりゃ――」


 だが。


 ズゥン……!


 重低音が、先ほどよりもはっきりと近い。


 地面が鳴り、木々が大きく揺れた。


「……っ、やばい!」


「もう来た、近いぞ!」


 三人は顔を見合わせ、舌打ちすると――


「チッ、面倒だ。置いてくぞ!」


 私と篠原さんをその場に残し、一目散に逃げ去っていった。


 絡みつくの拘束を感じながら、私は奥歯を噛みしめる。


 最悪のタイミングで、

 最悪の連中に、

 そして――巨大なモンスターに遭遇してしまった。



 重低音の正体は、ほどなく姿を現した。


 茂みを押し倒し、木々を押し分けながら――

 それは、現れた。


 全高、三メートル近い巨体。

 輪郭は熊に近いが、毛皮は存在しない。


 代わりに、全身を覆っているのは――植物だった。


 太い蔓が筋肉のように絡み合い、

 苔や葉、樹皮めいた部位が幾重にも重なっている。


 歩くたびに、蔓が軋み、葉が擦れ、

 生きている森そのものが動いているかのようだった。


「……ちょ、待て待て待て……何だよあれ……どうすりゃいいんだ……」


 喉がひくりと鳴る。

 頭の中が一気に白くなり、状況整理がまるで追いつかない。


 拘束されたこの状態で、

 あんなものが相手――冗談じゃない。


 その瞬間、視界の端に影が滑り込んだ。


 ――篠原さんだ。


 俺の前に、迷いなく立つ。


「な、何で前に出るんですか!? 意味分からないでしょう、そんなの!」


 叫ぶ声が、情けないほど裏返る。

 理解できない。理解したくもない。


 逃げられるはずなのに、

 どうして、わざわざ――


「嫌です」


 即答だった。


「置いていけません」


「……!」


 次の瞬間、篠原さんの視線が、巨体の胸元付近で止まる。


「……それより、アレを見てください」


 植物の隙間。

 蔓と幹のような部位が絡み合う奥に――


 文様が刻まれた宝箱が、半ば埋もれるように見えていた。


 はっきりした確証はない。

 だが、脳裏をよぎるのは、かつてネットの片隅で囁かれていた噂だ。


 ――特殊な文様の宝箱は、

 中身の“格”が違うことがある、という不確かな話。


 真偽不明。

 信じるには心許ない。


「……あの宝箱……、ハイポーションが入ってるかもしれません」


 その言葉に滲む必死さが、胸に刺さる。

 ――いや、それ以上に。

 ここまで追い詰められ、焦りが限界に来ているとは、正直思っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ