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危機のたびに異世界の職業を思い出すおっさん、ダンジョン社会で生きる  作者: kage3
第二章 おっさんはコンビニ店員

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第14話 コンビニ店長と篠原さん

事件から数日後。

コンビニは、何事もなかったかのように、いつもの夜を取り戻していた。


レジ前に並ぶのは、割引シールの貼られた弁当と缶コーヒー。

有線から流れる懐かしい曲と、蛍光灯のかすかな唸り声。

全部、見慣れた光景だ。


バックヤードの扉が開き、人の気配がした。


「……あ」


出てきた顔を見て、私より先に相手が固まった。


「……え?」


店長だった。


「なんで今日、お前なんだ?」


完全に想定外、という顔だ。


「篠原さんに頼まれて、シフト代わったんですけど」


そう言った瞬間、店長は露骨に天を仰いだ。


「天国から地獄に突き落とされた気分だぁ……」


「いや、頼まれて代わっただけなのに、そこまで言わなくても良くないですか」


思わずそう返すと、店長は深くため息をついた。


「そりゃあさ……おっさんと一緒より、美女と一緒のほうがいいに決まってるだろ」


まあ、否定はしない。

否定はしないけどねぇ。


「……でしょうね」


気のない相づちを打つと、店長は少し身を乗り出した。


「篠原さん、あれで中学生の子どもがいるんだぞ。信じられる?」


(またその話か)


内心でそう思いつつ、レジの中で商品を並べ直す。


「へえ」


「反応薄っ」


「はぁ、美女な篠原さんと、自由にシフト組めて良いですね」


鬱陶しい店長に少し投げやりに返事をしてしまった。


店長はむっとした顔をしたあと、私をじっと見た。


「へぇ、そんなに羨ましいなら、今夜店長代わるか?」


冗談めかした口調だったが、目はわりと本気だ。


(……あ、余計なこと言った)


心の中でそう呟く。


「ゴメン被ります。」


即答だ。


「はっきり言うねぇ」


「時給たいして上がらないのに、責任だけ増えるじゃないですか」


「まあ……それは否定できないな」


店長は苦笑して、それ以上は追及してこなかった。


私はレジに戻り、スキャナーを手に取る。

平和だ。

拍子抜けするくらい、何も起きない。


(……こういう夜が続けばいいんだけどな)


そんな、いかにもおっさんらしい願いを胸にしまいながら、

次の客を待つ。




客足は相変わらず少ない。

深夜帯というには静かすぎて、レジ前に立っていると、時間の流れまで鈍くなったように感じる。


「そういえばさ」


レジ横でコーヒーを飲んでいた店長が、ふと思い出したように声をかけてきた。


「この前の件、すごかったよな」

「この前の件聞いたよ。強盗取り押さえたんだって? ニュースにはならなかったけど、警察の間じゃちょっと話題になってたらしいぞ」


(話題って……どんな話題だよ)


内心でため息をつきつつ、表情には出さないようにする。


「大げさですよ。たまたまです」


そう返すと、店長は鼻で笑った。


「いやいや。たまたまでナイフ持った強盗を取り押さえれるわけないだろ。」


店長はカウンターに肘をつき、少し身を乗り出してくる。

この距離感は、嫌な予感しかしない。


「警察とも少し話したんだけどさ。君、探索者なんだって?」


(……勝手に話すなよ)


胸の奥に、軽い苛立ちが走る。

守秘だの個人情報だの、どこへ行った。

こういうところが、どうにも信用ならない。


「……一応、許可証は持ってますけど、もらってから一度もダンジョンには入ってませんよ。」


探索者、と言われるとどうにも違和感がある。

資格はある。でも実績はゼロだ。


「はは、なるほど」

店長は妙に納得したように頷いた。

「いわゆる“ペーパー探索者”ってやつか」


(ペーパー……)


心の中で即座に突っ込む。


(ペーパードライバーかよ)


「まあ……そんな感じです」


「つまり」


店長は少し考えるような間を置いてから、声のトーンを落とした。


「君は。“生還者”なんだ?」


その言葉に、今度は私のほうが黙る。


初期ダンジョン。

説明も対策も整っていなかった、あの頃に巻き込まれて――生きて出てきた人間。


否定はしなかった。

できなかった、というほうが正しい。


「否定しないってことは……当たりだ!」


店長の目が、子どもみたいに輝く。


「つまり、ホークアイと一緒に戦ったことあるの!?」


「……ホークアイ?」


思わず聞き返すと、店長は一瞬だけ拍子抜けした顔をした。


「え、知らない?」

「片目なんだけどモンスターを見付けるのだけじゃなくて、状況判断までもが異様に早くて、初期ダンジョンの生還者グループの中でリーダーだったって、わりと有名な話なんだけど」


(ああ……)


ようやく思い当たる。


「それ、黒崎さんのことですか」


「なんだ知っているじゃん」


「私が一緒に戦かえるわけないじゃないですか。助けてもらっただけですよ」


あの人たちがいなければ、私は今ここに立っていない。


ダンジョンから脱出してから、彼らに一度も連絡を取っていない。

自分の都合で距離を置いたくせに、今さら名前を出すのは、どうにも気が引けた。


「じゃあ、じゃあさ。」


店長は期待を隠さずに言った。


「今でも、繋がりあったりしない?」


私は小さく首を振る。


「あれから連絡はないです」


店長は露骨に肩を落とした。


「そっかぁ……」


理由は、すぐに分かった。

店長が聞いてもいないのに話し始めたのだ


篠原さんの娘が、過去のダンジョン事故で大怪我を負い、今も入院していること。

下半身に麻痺が残り、通常の治療では回復が難しいこと。

そして、ハイポーションがあれば、回復の可能性があるらしいこと。


「もし手に入ったらさ」

店長は、どこか照れたように笑った。

「篠原さんとも、もう少し距離が縮まるかなーって思ってさ」


冗談めかした口調だったが、目はわりと本気だ。

見舞いの品にする気なのか、それとも――もっと打算的な理由か。


(分かりやすいおっさんだな……)


私はレジ越しに何も言わず、画面を見つめたまま次の客を待った。


このときはまだ、

この話が、私をダンジョンと再び繋げるなるなんて――思ってもいなかった。

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