プロローグ
3/13:改稿しました
ダンジョン。そこは、人類の欲望と絶望を飲み込む現代の伏魔殿である。
世界中に『ダンジョン』が現れ、人々に『スキル』という超常の力が発現してから早50年。今や5人に1人が『探索者』として迷宮に潜る時代だ。
富、名声、あるいは未知なる強者。誰もが新たな夢を見て殺到したが、現実はそう甘くない。
報酬を得るには、それ相応の対価が必要だ。ここでの対価とは、すなわち『命』を意味する。
今日もまた一人、安物の「希望」を摑まされた不運な犠牲者が散ろうとしていた。
◇◇◇
「……っ、クソッ、なんで発動しねえんだよ!」
薄暗い迷宮の奥深く。血だらけになったBランク探索者の男が、震える手で水晶型のデバイスを叩き割らんばかりに握りしめていた。
本来なら数秒で入り口へと転移できるはずの『予備の命』は、虚しくパチパチと火花を散らすだけだ。
「『新品同様・動作確認済み』……ふざけんな、あのフリマアプリの詐欺師め……っ!」
背後から、空気を震わせる捕食者の咆哮が迫る。
Bランクの自分でも、ギルド指定の正規品ライフルさえあれば抗えたかもしれない。だが、武器はとうに折れ、三十万のリボ払いで買った頼みの綱の魔力強化弾もただのゴミと化した。
圧倒的な死の気配。鋭い爪が振り下ろされ、絶望が首筋を撫でたその時――。
ダンジョンの空気が、凍りついた。
肌を刺すような、異常なプレッシャー。
先程まで絶対的な捕食者だった魔物の咆哮が、ヒュッと喉を鳴らすような怯えた悲鳴に変わる。
「━━━━━━━悪いな。この先に用があるんだ、ちょっと道を開けてくれないか」
死地にそぐわない、場違いなほど気怠げな声だった。
へたり込む男が振り返ると、そこには重装備の探索者でも、特殊部隊のような軍人でもない、一人の青年が立っていた。
パーカーにデニム。まるで深夜のコンビニにでも行くようなラフな格好。そして、その左目には漆黒の眼帯。
青年が、面倒くさそうに指先を鳴らす。
パチン、と。
ただそれだけで。戦車の砲撃すら耐えうるはずのネームドの外殻が、紫の閃光と共に、まるで安物の紙細工のように弾け飛んだ。
血肉の雨が降る中、青年は欠伸を噛み殺しながら歩みを進める。
彼の名は、世羅凪沙。
日本にただ一人しか存在しない、Sランク探索者である。
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