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 妖精のファーナ

 明日が十八歳の誕生日。

 八年前に母が亡くなり、父であるピグダット・ファム・ミウラール国王の指示で即この隔離施設と呼ばれる別邸に来てから、この花壇の間を通る石畳の通路抜け、庭の中央に在る真っ白なガゼボに向かうのは何回目だろうか。


 「うぅぅん。いい天気。気持ちがいいですねぇ」


 庭師のマードが赤や黄色の薔薇の垣根のような塀のような場所に座り込んで手入れをしている。

 伸びをしながら近くまで歩み寄ると、立ち上がってひさしのつばが大きい麦わら帽子のつばの右端を軍手の手で摘まんで。


 「殿下。おはようごぜぇます」


 「マード。おはようございます。お花たちはどうですか?」


 「今日も奇麗に咲き誇っておりますですよ。

 まるで殿下に我先に気付いて欲しいかのように」


 「マードの手入れが良いからですよ。みんないい香りもします。奇麗ですね」


 「ありがとうございます。ああ。遅ればせながら、高等部ご卒業おめでとうございます」


 「ありがとうございます」


 「ガゼボへ?」


 「そう。行ってきます」


 「はい」




 (ガゼボの屋根の下。白い椅子とテーブル。いつ来てもここは気持ちがいいですね。

 異空間収納からポットと茶器。小さいのも出して。

 はい準備出来ました。

 妖精のファーナが来るまで)


 ファーナはこの地に住む人型の女性の妖精。

 背の高さは十五センチほど。背中にはトンボの羽の先を少し尖らせたような羽が片側に二枚づつ。

 ライニー侍従長達に確認したら『妖精は見えないものです。世界の何処の文献にも会話ができる事やお姿、大きさの記載は在りません』と、言っていた。

 初めて会った時は全裸で驚いたけど、魔法で羽に支障の出ない白地に大小さまざまな色のお花柄のワンピースをプレゼントしたら喜んでいた。


 ファーナが花壇から羽をぱたぱたさせ、ふよふよと飛んできた。


 (そう言えば何処に住んでいるんだろう。

 言わないって事は聞かないでってことかな)


 「ファーナ。もう来たの?」


 今ではレパートリーも増え、七枚渡している。勿論、下着も。いわゆる、見せパン。

 今日は初めてプレゼントしたワンピースだ。


 「リットは冷たいのですぅ」


 「暖かぁぁい。お茶と美味しぃクッキー


 「リットは優しいのです」


 「で、一緒にお茶する?」


 「勿論なのです」




 「はい。クッション置いたよ」


 「ありがとうなのです」


 「どう?」


 「美味しいです」


 「良かった」


 「リット。卒業おめでとうなのです」


 「ありがとう。でも、おめでとうなのかな」


 「あしたの誕生日が不安なのです?」


 「まぁね。あしたで十八歳。

 いよいよ廃嫡されると思うと気が重いよ」


 「そうなるですか?」


 「間違いないと思っている」


 「でもでも。前世の異世界の知識が有るから切り抜けられるのでは?」


 「私の居た世界にも王族は有ったけど、かなり違っていてね。勉強もしていなかった。ここで習った事が全て」


 「廃嫡されても生きては行けるのです」


 「まぁね。でもね、ただでさえ疎まれている上に、更に廃嫡されたと言う犯罪者のような汚点が付き纏うからどうなる事か。それで気が重い」


 「そもそも継承権がおかしいのです。メドーダスかイグアスが受けていれば良かったのです」


 「そうなんだよねぇ。前にも話した通り私は第一妃の子で有りながら第三王子。そして継承権は第一位。

 妾から第二妃になった子の兄二人。このねじれた地位で滅茶苦茶疎まれているからね。継承権の辞退は可能なのだけれど、陛下が認める必要が有るんだよ。

 一生懸命拒否したけどダメだったね」


 「処刑されちゃうですか?」


 「さすがにそれは無いと思う。思いたい。なんの問題も罪も犯していないからね。こじつけは有るかもしれないけど、回避は可能だと思う。

 ただ、暗殺者は来るかもね。

 私が生きている以上は廃嫡しても実子である事は変わりないからね。殺しておいた方が無難と思うだろうね」


 「人種の争いは醜いのです」


 「なんだかごめん」


 「リットは悪くないのです。でも、リットだったら返り討ちなのです」


 「そうであったとしてもゆっくりできないのは辛いな」


 「母様が亡くなって八年。その八年前に後ろ盾が無くなってこちらの別宅住まい


 「隔離施設ね」


 「自分で卑下してはダメなのです」


 「ここの人達以外。王城でも王宮でも学校でもそう呼ばれていたからね」


 「学校は首席卒業出来たのです?」


 「ファーナが色々教えてくれたおかげだよ」


 ファーナの教養は大学レベルを遥かに凌ぐ。歴史などは世界一だろうな。

 剣術も体術も魔法も教えてくれた。

 全てに特化した、私の大切な家庭教師だ。

 勿論母の基礎知識が有ったのと、私がここへ押し込まれて直ぐに来てくれたミッチーネ先生。母の教育をしっかりと叩きこまれた教授レベルの座学の元高校教諭。

 そのお陰でここまで一早く成長できた。


 (ファーナと出会っていなければ想像するだけで恐ろしい事になっていたと思う)


 「照れちゃうですよ」


 「妖精術の魔法と同じ程度の魔法は使えたから一応の合格。

 妖精術が行使できないで魔法が使える事に異端児扱いは変わらなかったけど」


 「仕方ないのです。創世のアクアスカイ女神様のご寵愛を受けこの世界に転生。

 最上位の魔法と魔力量。私達妖精が入れる隙が無いのです。

 ちゃんと皆に言ったのです?」


 ファーナにはそれが見えているらしい。

 それを事細かく教えてくれたので理解が出来た。

 実際に転生者ではあるが小説の様に神様や女神様には会ってはいない。

 どうしてこの地に居るのかも解からない。

 言える事は三歳の時に前世の高校生までの記憶が蘇った事。

 いきなり『生麦生米生卵』と、日本語を発した記憶がある。周りにはたまたま誰も居なかったのが幸いだった。

 小等部。所謂小学校に入学するまでは日本語として言葉は全て理解していた。

 スキルの様な能力でこちらの言語を日本語変換しているようだ。能力を解除すると全く解らず文字も読めなくなった。

 今では完全にこちらの言語をマスターした。理解するとカタカナや和製英語を含めた現代日本語に近い。

 後はゲームなどに出て来る魔法の全てが使える事。でも、ゲームの世界では無い事。実在する宇宙空間の一つの星だと思っている。

 ただ、この世界で主流になっている妖精の魔法は一切使えない。


 「妖精の力で魔法を行使するのではなく、魔力で魔法が行使できる。

 結局言わなかったよ。誰も理解できないし。

 それに妖精を神格化して久しいこの世界。私のように無信者と創世のアクアスカイ女神様を信仰する極一部の信者は異端児扱いだからね」

 (迫害などは受けないけど、怖いからね)


 「リットは無信者では無いですよ。ちゃんとアクアスカイ女神様の教会を直したですよ」


 「まぁね。だからと言って誰も信じてはくれないよ」


 「私達の遥かに上位でこの世界の創世主様なのに」


 「仕方ないさ。妖精の力は具現化できる。しかし、アクアスカイ女神様の力は何処にも存在しない。

 人は目に見えないものを信じることが難しいからね」


 「私がリットに宿る事が出来れば良かったのに」


 「無理なものは無理。

 でも、こうして可愛いファーナと見つめ合ってお話しが出来る。他の誰も出来ない事が出来ている。

 私は幸せ者だと思っているよ」


 「可愛いですか?」


 「うん。とっても可愛い」


 「私も嬉しいのです。宿ってしまうとお話しが出来なくなりますから」


 「そうだね。リミットベイ隊長が来るね」


 「はいなのです」


 私専属の近衛兵。王城の近衛兵の中でも群を抜く強さ。

 しかし、八年前に二人の義母兄に楯突き部下の九名と共に私の元に左遷。


 「おはようございます。殿下」


 「おはようございます」


 「何時になったら・・・まぁいいです。

 本日もファーナ様とご歓談ですか?」


 「ここにいるよ」


 「小さなカップが動いていますね。お姿とお声は確認できませんが」


 「それでどうしたの?」


 「王城から遣いが来まして、本日午前十時に王城。謁見の間にお越しくださいとの事です」


 「卒業を祝ってくれる。って、雰囲気じゃ無いよね。

 王都中の貴族が集まって来ているようだね。

 皆さん朝食は食べて来たんだろうか。まだ、三時間以上あるよ」


 「その様なお戯れを。

 恐らく殿下が前々から仰っていらっしゃった事が起きるのでは。と、想像に難くありません」


 「まぁ。想像だからね。行って話しを聞こうか」


 「はい。では、登城する旨を伝えてまいります」


 「お願いします」


 「失礼します」


 帯剣の音がしないように左手で押さえながら小走りで走り去って行った。

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