イルリットのバイト先
私のバイト先は、母が建て直したミウラール王国の王都オウダーのギルド。学校から南へ来た都心から外れた場所。
ギルドと冒険者はミウラール王国と同盟を結ぶ十三か国の法律と王家と貴族には縛られない独立機関。母が二十年ほど前に整備したものだ。
それまでもギルドと冒険者は存在はしたが縦横の繋がりが無く、魔物の反乱に後手に回って被害が大きかったと聞いている。
母はネットの様な連絡網を整備して所謂、銀行機構も整備した。
そして、世紀の大発明と言われている、各ギルド間の転移魔方陣。転移紋とも呼ばれている。
妖精の力で転移できる距離はベテランで遮蔽物や川や池などが無い陸続きで三百キロ程度。勿論、河川は存在するのでその手前で強制的に術が解かれてしまう。
水の上での距離は一キロが限界らしい。妖精が怖がるようだ。一キロを超える池や川はかなり多い。
その場合は人工的に中州を作って対応している。これも母が立案した。
この転移魔方陣はそれらに関係無く、一回に十人を限度として何回でも転移が可能となった。
母は混乱しないように、往路と復路の二つを使い、運用させた。
これによりかなり魔物による大災害は抑えられるようになった。
ただ、使用はギルドカード保持者でありギルド長の許可を受けた者が対象となる。
(母は異世界人ではなかったと思ってはいるのですが、今では確認のしようがありませんね。
髪の毛の色が茶髪を確認して、入りましょうか。相変わらずお酒臭いですね)
私は冒険者の服装。と、言っても日本の学ランに毛の生えたようなものを自作して左肩に革製の鎧を付けているだけ。
武器は興味本位でテレビとネットで製作方法を見た刀を錬金術で自作した。なかなかの逸品に仕上がった。鉄の甲冑が真っ二つに切れるほど。
本当はダイナマイトが存在しているので銃とかも作りたかったが何をどうやっても作れなかった。知識不足。ただ、この世界に銃も大砲も存在しない。魔法が全て。
依頼の掲示板の前で張り紙を見る。
(皆さんの給料の糧になるような依頼はありませんかねって、絶対絡まれるんですよね。そう言う星の下に生まれたんでしょうか。指名手配のスキンヘッドさん)
「おいっ坊主」
「はい。なんでしょうか?」
(でかいですねぇ。私の頭分上ですよ。見上げる分、首が痛くなりますね。ああ。胸倉を掴まれて目線が同じになりました。楽になりましたね)
「ここの掲示板はエーランク。ここに書いてあるだろ?
小枝の様なジーランクの坊主が見に来る場所じゃねぇぞ」
「ジーランクではありませんが」
「嘘つきはドロボーの始まりだ。俺が徹底的に体に教えて
(はぁぁ。ここでもまた殴られるんですかぁ)
「待てやこらぁぁ。その拳を降ろしやがれぇ」
「ああん?」
(受付嬢のメルナさんが来ましたね。毎度毎度申し訳ございません。
ただ、騒動の証明のためには必要なんです。利用するようで申し訳ございません)
「おいっ。ハゲデカ」
「お 俺の事か?」
「お前しかいねぇだろうが。ギルド中をよく見な」
「おめぇ何もんだ?」
「何だいここは始めてかい。見ないハゲだと思ったよ。
この制服見て判らないのかい。あたしはここの受付嬢でメルナって、言うんだ。覚えておきな」
(うひょぉぉめっちゃべっぴん。スタイルも超俺好み。
こんな奴がまだ居たんだな。それに野郎口調がたんまんねぇ。いただきます)
「なんで受付嬢が出て来るんだよ。関係ねぇだろうが。
しかもおめぇたちが仕事しねぇから、この坊主に冒険者のしきたりを教えてやっているんじゃねぇか」
「そうかい。で、その後ろにいる裸同然の二人も仲間かい」
「何だ。受付嬢って威張っている割には知らねぇのか
「知らないね。とにかく降ろしな」
「ここまで来て引き下がれるかよ。俺にも意地ってもんが有るんだ。大衆の面前で大恥をかかされて心に大きなダメージも喰らった。
何もしないでお勉強をしてやる気だったがお嬢のせいでそうも行かなくなった。
お嬢が今夜お相手してくれるって言うんなら
「あんたバカだねぇ。あたしにそれ言ったらリット君が・・・あぁあ。総員机と椅子を持って壁際に退避ぃぃ早くしないと巻き添え喰うよぉぉ」
「「「「りょうかぁぁい」」」」
「バードレ。モンプレス。どう言うこった」
「「さぁぁ」」
「お兄さん。今なんて言いました?メルナさんに夜のお相手?
確認ですが何のお相手を要求されているのですか?」
「ガキには判らねぇだろうな」
「ああ。冒険者としての資質と冒険者のお仕事内容。それにギルドの存在
「バカかお前。そんなの裸と裸のお付き合い。ベッドの上での格闘。それが大人の男の癒しってもんだ。分かったか?ガキンチョ」
「よぉぉく判りました。
メルナさん、確認です。
このお方に癒しを施すお気持ちは有りますか?」
「全くちっとも全然。無い。逆に侮辱されて腹が立つ」
「つべこべうるせぇ。おい、この女は俺をバカにした。連れて行け」
「へい。大人しく・・・兄貴。動けねぇ」
「俺もです」
「バードレ。モンプレス。どう言うこった」
「「判りません」」
「こう言った事も調べておけって言っただろう」
「「すいやせん」」
「行動に移しましたね。許しませんよ。
ギルドの受付嬢に対する暴言及びわいせつな語りかけは冒険者規定に抵触します。
しかもギルド内での理不尽な暴力行為は厳罰対象です。
この胸倉を掴んで宙に浮かせる事も」
「だから何だよ。ビーランクの俺様がジーランクのおめぇに教えてやるって言ってるんだ。感謝しな」
「メルナさんが言っていましたよね。私の名前」
「リットとか言ってたな・・・リット?」
「兄貴ぃぃぃ十四か国でたったお一人のエスエスランクぅぅぅ茶髪のリットぉぉ
「間違いないですよぉ。茶髪に黒目で黒の上下に帯剣の出で立ちわぁぁ
「おっおめぇが
「そうですよ」
「う 嘘
「手を離しませんでしたね。はい終わりです。メルナさんへの侮辱。絶対に許しません。先ずは顔面一発」
「ぐふぉぉぉ
「離さずにぶっ倒れますか。裸同然の男に抱かれているようで気色悪いですね。
いいでしょう。強制解除で右指全て裏返しです」
「うぎゃぁぁ」
「さて今度は
「リット君そこまで
「メルナさんを侮辱したことを許せません」
「一瞬のたった一発で人相も判らない位にバンバンに腫れた。もう十分だよ。
そこまであたしを思ってくれて嬉しいよ、ありがとうリット君」
「素直な気持ちです。お気になさらず。
では、掃除しておきますね」
「ああダメだぁぁ止められないぃぃ玄関の外、誰も居ないぃぃぃ?」
「いませぇぇん。往来を止めてありまぁぁす」
「お仲間のお二人もご一緒にご退場願います。そりゃ」
ハゲデカを一旦宙に蹴り上げ浮かせ、拘束を解除されてぼぉぉっと立っている二人目がけてハゲデカを回し蹴り。
二人を巻き込んで、玄関から往来まで吹っ飛んだ。
(ギルド特警が待機していたようですね。お任せしましょう・・・?
同級生がいますね。ああ。私を探してぶん殴ろうと?ここに居ますよ。気付きませんか。
ライニー侍従長に念話入れておきましょう・・・
そうでしたか。ありがとうございます。
ライニー侍従長が突き返したから王都中を探していると言う事ですか。嘘で家に居たらどうするつもりだったのでしょうか?ご苦労様です)
「メルナさん。お怪我はありませんか?」
「大丈夫よ。リット君の方は?」
「全くです。ご心配下さりありがとうございます。
あの三人。指名手配のマッドレモンです」
「本当かい。おぉぉい特警さんよぉぉ」
「どうしたメルナ」
「居たのかいダンザイ隊長さん」
「リットがこれば棒に当たる」
「まぁね。あいつ等マッドレモンだ。ハゲデカが・・
「シボリーキ。手下がバードレとモンプレス。ですね」
「リット君が保証する」
「リット。ありがとう」
「いえいえ。ですが棒に当たるとは?」
「前回のエスランクのドガイボウの逮捕も助かった。感謝する」
「ああ。そうでしたね」
(それで棒に当たるのか?今度はレモンに当たるのでしょうか)
「でさぁ。そろそろ教えてくれないか?ドガイボウをどこで倒して来たのか。
前にも言ったけど、ミウラール王立高等学校の模擬試合に偽名を使って潜り込んで、女子生徒を気絶させ医務室へ自分で搬送してそこで色々する予定だった。
しかし、イルリット第三王子殿下が一撃で伸して医務室。
ここまでは判っている。
その後、何処で捕縛したの?」
「言いましたよ。学校の外をふらふら歩いていたので偶然捕縛したと」
「信じられる訳ないよ。教えて」
(無理がありますよねぇ)
「彼を早く処置しないと死んでしまうかもしれませんよ」
「そう言えばあの一撃で何発殴った」
「六発は軽く。七発目は頭が吹き飛ばない程度」
「軽くねぇ。恐ろしいねぇ。おい、あいつ等はマッドレモンだ。屯所の地下牢へ護送しろ」
「やっとですね隊長」
「ああ。リットのお手柄だ」
「了解」
「では失礼する。行くぞ」
(敬礼が奇麗ですね)
「ご苦労様でした」
「懸賞金と報奨金幾らだったかな」
「メルナさん。それで壊れた物は」
「今回は無いよ」
「そうですか。お騒がせしてすみませんでした」
「リット君は悪くないよ。お手柄さ。
おいっ。あんた達。何でハゲデカを止めなかった」
「だってぇエスエスだしぃぃ「俺達の方が助けられる側だしぃ「出る幕無いしぃ」
「ほぉぉん。そうかい。
リット君。年上の先輩たちがドラゴンの目の前で窮している時でも助けなくていいよ。年上だから。年上だから」
「「「申し訳ございませんでしたぁぁ」」」
「まぁまぁメルナさん」
「ダメダメ。こんなの許しちゃダメだよ」
「それより皆様の飲食代を
「いいから。
あんたら自分で払いな」
「「「はいぃぃ」」」
「机も椅子も元通りにするんだよ」
「「「はいぃぃ」」」
「リット君。今から時間はあるかい?」
「大丈夫ですよ」
「おっさんが上で用があるらしい」
「おっさんって。ルクイッドギルド長さんのことですよね」
「そんな名前」
「そろそろ覚えてあげないと
「いいからおいで」
「はいぃぃ
私の右手を引っ張り階段に向かうメルナさんと二階のギルド長室で待っているルクイッドギルド長は十四カ国のギルドで私が王子である素性を知る唯一の存在。




