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 第二妃イジルバーバラの思惑

 校長室の中。

 校長と教頭が一人の女の前に傅いた。


 「イジルバーバラお妃様。申し訳ございません。抵抗も反抗もすることなく、言葉すら発せず難なく突破されたようです」


 「校長。あのクソガキは何なのよ一体。言い掛かりでもいいから殴られたことにしなさい」


 「第三王子からの暴力で有る以上、公安に事情聴取されます。生徒達が事実無根の事象を黙っていられるとは思えません」


 「どれだけ口裏合わせを行っても必ず証言の不一致が発生し、こちらや教師が疑われます」


 「イライラするわねぇ・・ならば、何故追いかけてもっと痛めつけないの」


 「あの先は公安のモニターが在ります。

 その上、明日の卒業式出席の大学部の教授連中が控えております。声が聞こえないギリギリでございます」


 「もう来ていると言うの」


 「はい。執事様や助教授。四年生などが準備の為に」


 「それにミルカマイナ・マーガレット・シャウザー辺境伯とリーナス夫人の手の者が居ることを否定できません」


 「そいつらも鬱陶しいわね」


 「「はい」」


 「第一正妃だったマーリレスのあのガキが居る以上、妾だった第二妃のわたくしの息子のメドーダスとイグアスが継承権を得られないのは知っているわよね」


 「何度も伺っております」「承知しております」


 「中等部卒では王位は継げない事も」


 「「はい。承知しております」」


 「陛下も継承権を持たせて、今までいいように使って来たけど、卒業され十八歳を迎えられては困るの。判っているの」


 「「承知しております」」


 「・・・卒業証書を渡さない方法は」


 「出席している以上、大学部の目も在ります。彼の者に目を掛け、期待している教授や大手の商会も多数来ます。

 それに彼の者を懇意にしている他国の大使館員の出席も関係者として来る可能性も否定できません。出席を希望されれば拒むことは出来ません。

 卒業証書授与も含め、そのような事をしてしまうと王立高等部としての失態を指摘され、実の父親である国王陛下の責任を追及されます」


 「陛下に迷惑が掛かることは避けたいですわね」


 「特にマーリレス様が


 「校長?」


 「マーリレスが妹の様に可愛がっていたと言われるナメナット女王国のクールシャインナ・フラーナス女王陛下の手の者が居れば陛下への叱責は免れられません」


 「エルフだか何だか知らないけど、お高くとまって威張り腐った


 「イジルバーバラお妃様。さすがにまずいと思いますよ。

 お会いしたことは?」


 「校長はバカなの。下賤のエルフに人種の高貴なわたくしが会ってやる必要が有ると思っているの?」


 「失礼いたしました」


 「そうだわ。卒業証書を偽物とすり替えなさい」


 「王立である以上、ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下の直筆の卒業内容がしたためられ、サインもなされたコピーを使用しております。

 そして、親書である証明にピグダット・ファム・ミウラール国王陛下の妖精力が載っております。

 一定の妖精の力の保持者で有れば、容易く見破られます」


 「いいじゃないの。別にそれでも。解らずに貰って喜んでいれば」


 「彼の者は他の妖精の力の波長を見分ける能力に長けております。

 大学部が陛下に奏上しておりますが、各個人が有する妖精の力の波長に違いが有る事を王立大学部のキャラカン教授が発見しました。

 これは既に証明され、各国の学会でも常識のレベルとなりつつあります」


 「何か聞いた事が有るわね」


 「暫くするとピグダット・ファム・ミウラール国王陛下から叙勲される予定です。

 確か最上位のミウラール王国名誉レジェンド勲章だったと思います」


 「ああはいはい。わたくしは出ませんが」


 「彼の者は、キャラカン教授の目の前の実験で百パーセントの的中率で見抜きます」


 「物であっても?」


 「はい。存在し、現存する全ての物質です」


 「本当に化け物ね」


 「それと、例えわたくし共が仕組んだとしても疑われるのは必然的にピグダット・ファム・ミウラール国王陛下。

 偽物が渡されたと知れ渡れば、過去の全ての卒業証書の検証をピグダット・ファム・ミウラール国王陛下御身が行う事になります。

 これには公安も立ち会う事となっております」


 「それはそれで大事(おおごと)ね」


 「はい。たった一枚の故意による偽物が世に知れれば、ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下が自ら釈明のため金銭的にも時間的にも大損失となります。

 その上、親書等を含めたピグダット・ファム・ミウラール国王陛下の世界での信用も揺らぎます。

 彼の者が絶対的優位な地位になります」


 「聞かなかった事になさい」


 「はい」


 「確か主席だったわね。

 今からでも最下位にして


 「イジルバーバラお妃様。彼が首席であることは大学部や各国大使館員も知る事実です」


 「教頭先生が言う通り、教会や病気や怪我を理由に首席挨拶をさせないのがせいぜいです。

 それと先程の彼の者とのやり取りですが・・・・」




 「校長。いったいなんなのよそれは」


 「かなり端折りましたが、具の音も出ない事実でございます。

 十三カ国の陛下と教会が出て来ては何も言えませんでした。

 それに甥の事も」


 「恐らくはイジルバーバラ王妃様の


 「黙りなさい教頭」


 「申し訳ございません」


 「本当にイラつくわねぇぇあのクソガキ。

 いっそのことわたくしがこの手で始末を


 「お止めになった方が良いかと」


 「真っ向勝負で勝てる相手ではありません。立ち木を一瞬で灰にし。泉を一瞬で凍らせ。一瞬で丘を平地に


 「黙りなさい」


 「はい」


 「仕方ないわね。とにかく出席させないようになさい。

 わたくしの夢である世界の頂点の女になる事。わたくしの可愛い息子のメドーダスが国王に。イグアスの望みのエルフの国王になる事。

 娘のアジレッタはバールデシタ帝国へ嫁に出し、あの子の望みの宝石に埋もれて暮らす事。そしてあの国の良質な宝石を全てわたくしの物にする事。

 この全てをわたくしは手に入れるのよ。

 あなた達も宝石と金貨のお風呂に浸かりたいのでしょ?

 忘れてはいないわよね」


 「「はい」」


 「そのためには正妃の息子のあのクソガキがとにかく邪魔なの。

 王家の血を引くマーリレスのクソバカ女さえ居なければわたくしが正妃だったの。

 死んだからもろ手を上げて喜んだわ。

 でも、あのクソガキがいたために陛下が平民出の妾では正妻を認めなかった。認められなかった。名目上の第二妃。

 それが今も。

 あのクソガキが死ねば陛下のお子を産んだわたくしが正妃。


 解かっているわよね。とにかく邪魔なの。ぐちゃぐちゃにしてこの世界から抹消したいの。

 退学処分にするには卒業証書を渡すまでが勝負なの。貴族や列席者に分らないようにしなければならないの。

 校長判っているわよね。伯爵の地位が欲しくないの」


 「必ずやイジルバーバラお妃様の意に添うように結果を出します」


 「教頭も子爵の地位だったわね」


 「はい。是が非にでも」


 「爵位の威光を得て、大学部の教授連中を顎で使いたいのでしょ」


 「「はいっ」」


 「湯水のように金を使いたいのでしょ」


 「「はいっ」」


 「校長は若く美しいエルフの女を侍らせたいのでしょ」


 「はい」


 「教頭は他国を豪遊したいのでしょ」


 「はい」


 「ならばもっと協力なさい。その願いの全てをこのわたくし。正妃となったイジルバーバラが叶えてあげる」


 「「お願いいたします」」


 「学校の外でも構わないわ。徹底的に痛めつけて卒業式に出られないようにしなさい。

 学校外であれば事故で死んでも構わないわ。その方が好都合。徹底的に痛めつけなさい。世界から消し去りなさい。

 ここの教師や生徒がどうなろうとも構わないわ。あいつらの生死を構っている次元では無いの。

 そのためにこの三年間大金を払ってきたのを忘れたとは言わせないわよ」


 「「仰せのままに」」


 「待って。もしかして小遣い稼ぎに引き伸ばして来たとか」


 「「滅相もございません」」


 「まぁここに至ってもういいわ。

 期限は明日の卒業証書授与式の入場が始まる前までよ。

 わたくしの為に。メドーダスとイグアス。アジレッタの為にやりなさい」


 「「はい」」


 「それであいつは何処に行ったの?」


 「恐らくは帰宅したと思います」


 「追いかけているの?」


 「「いえ」」


 「何をグズグズしているのっ」


 「「申し訳ございません」」


 「隔離施設には公安の監視モニターが在るわ。クソガキに付き従ったアホな近衛も居る。あそこではまずいわね。

 誘い出して城外に連れ出し、魔物監視用のモニターの無い所で痛めつけなさい。徹底的によ」


 「「御意」」

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