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 イルリットに実権を握られたピグダット

 その後方から。


 「陛下。進言を」


 「メドーダス。許可する」


 「あいつ。どんな場所でもどんな所へも転移できます」


 「なんじゃとぉぉ


 マルージムは驚くピグダットを他所にメドーダスを睨み付けながらも冷静に。


 「メドーダス。犯罪者の身分で公共の場で『あいつ』とは何ですか。誰の事を指して言っているのですか。

 場合によっては不敬罪で処刑ですよ」


 「イルリット様は。でした。訂正し。謝罪いたします」


 「聞かなかった事にしましょう。

 どうぞ」


 「イルリット様は洞窟の最奥から王城の塔の天辺まで。

 妖精の転移とは全く別物。大使の時から一回行った場所はどんな距離でも一瞬です。国を跨いで。その先の国まで。

 ですから、学校もほぼ休んでいません」


 「何故もっと早く言わんのかぁ」


 「イルリット様も言っていました。八年一度たりとも会った事が無い。イルリット様の事を聞こうともしなかった。

 つまり陛下は興味が無かった。そうですよね」


 「うっ」


 マルージムは視線を隔離施設の屋根越しに空を見上げながら。


 「それですと既にウォーガット領に居るかもしれませんね。

 とても優秀なお方を失いました。この国にとって大損失です。

 陛下。この事に関して貴族には秘匿命令をお出しにならないと国内が荒れますよ。

 お二方と宰相は取り調べ室の方へ。

 イジルバーバラ妃は逃さず捕縛」


 「了解。イジルバーバラ妃とネジレッタは既に確保したと念話通信が入っております」


 「マルージム近衛公安騎士隊長ぉぉ。ど どうしてこうなったぁぁ」


 ピグダットは両手を拳に替えて強く握りしめ、マルージムに怒鳴るように問いかけた。


 「何でも可愛く言う事を聞いたイジルバーバラ妃を溺愛なさった。浮気の塊でしたのに。

 しかし、国政の執務に追われ、陛下にとって耳障りな話しをするマーリレス妃様が疎ましくなった。

 自覚があるのでは?

 そしてイルリット第三王子が優秀だったので陛下の代わりをさせた。

 十二歳で国王陛下と宰相を兼務する程のお仕事をなさっていましたからねぇ。陛下は楽でしたでしょう。

 だからこそ継承権と言う手枷足枷を付け奴隷のように使った。

 その間によくお勉強をなさったのでしょうね。わたくしですら無敵のウォーガット騎士爵には気付きませんでした」


 「あ奴の言った事は本当なのか」


 「はい。まず、経緯を簡単に申せば、過去から現在に至るまでウォーガット領はバールデシタ帝国の砦。もう一つは国内最大の魔物の発生地点。

 ウォーガット領をバールデシタ帝国に渡せば相手の思い通りに成ってしまう。

 また、ウォーガット領主がバールデシタ帝国に懐柔されても同じ。

 ここを守らなければミウラール王国は破綻します。

 ですからその都度国王がウォーガット領の騎士爵に恩恵を与え、自由度を与え、国軍の最高指揮権すら与えています。

 そう言った法が積み重なり、先程イルリット殿下が仰った穴だらけの法にも関わらずウォーガット騎士爵は国王を超えてしまったのです。

 そして法の監督者にもなっているのです。それを侵害すればわたくし達も国軍も民衆すら動かせます。

 正に敵無し。

 そして検証を行って全ての法に照らし合わせても最下貴族のウォーガット騎士爵は国王よりも発言の権限を有していますよ。実質国王ですね。

 後はイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵が陛下を認める存在とするか否か。それだけです」


 「そんなバカな話しがあるかぁぁ」


 「学校教育にも組み込み、典範にも規範にも法律にも記載されています。

 陛下もその典範に誓い国王となった。

 今更知らないとは言えません。言えば国王を辞する事になりそのまま断頭台と記載されていますよ。

 我々公安が道案内です。

 だぁぁれも気付かなかった。

 空白のウォーガット領を押し付け合って」


 「あ奴が死ねば」


 「まぁまぁ公共の場でその様な事を。

 今目の前でご披露なさいました。一瞬で誰一人今の居場所が解らない。妖精の力の痕跡も無いのでわたくし達でも追えません。

 それと、あちらをご覧ください」


 「耕す前の畑か?」


 「あの場所には幅百五十メートル。奥行百メートルのお庭が在りました。ご存じなかったのですか?

 まぁ。いいでしょう。

 わたくしは花に精通していなので解りませんが今日はバラが所狭しと、とてもきれいに咲いておりました。

 数本の石畳の通路。奥には真っ白な十人は裕に入れるガゼボとテーブルと椅子。

 庭の隅には庭師の家と農機小屋」


 「何も無いではないか。わしを謀っておるのか?」


 「今日の午前六時まではモニターにはっきり写っております。

 録画もしておりますのでお見せする事も可能ですよ」


 「では破壊したのでないのか?」


 「この土の痕跡は収納魔法。

 王都軍の。いえ。国内最大の容積量を保有する者が王城内に居ります。わたくしです。

 わたくしの容積は二十メートル四方の立方体。

 ここは百五十メートル掛け百メートル。ガゼボの高さが八メートル。

 わたくしの実に十五倍を有しているのです。もっと大きいでしょうね。

 そして驚く事に生きた花々を収納しています。驚愕です。妖精の力では到底無理な所業です。

 それを保持したまま転移。考えられませんよ。

 国軍やスパイ。暗殺者から逃れる事など容易いでしょう。

 聞けば剣術も体術も冒険者エスランクを瞬殺。国軍ですら勝てなかったと報告書を見ました。

 この国で勝てる者は誰一人いないでしょうね。

 魔物相手もかなり行っていらっしゃったようで、素材をギルドにお売りになり、ここの糧になさっていたようです。

 こちらの二十名の給金。食費。維持費等を全て賄っていたとなると相当な稼ぎが必要となります。

 どんな魔物を狩っていらしたのでしょうかねぇ。

 恐らくエスランク並みの能力が必要な魔物。国軍やギルドが束になってやっとぐらいでしょうか。

 この八年銅貨一枚も渡していないのに維持できている。その上、八年前から誰一人退職や解雇は無い。

 つまり、イルリット第三王子殿下はここの皆さんが納得できるだけの給金を個人でお支払いになっていた。

 建屋も新築同様に改築され整備されている。この扉から見える中は素晴らしく奇麗です。一体幾らかかるのでしょうか?

 途方もない金額を八年お払いになっていた。恐らく借り入れは皆無でしょう」


 「何故だぁぁ。何故こんな事にぃぃ」


 「国内も対外国も安定した。明日には十八歳。邪魔でしかなくなった。

 第一王子殿下のメドーダス様に命令書を作成させた。わたくし達が見ても穴だらけの。

 こちらのお方達は恐らくイルリット第三王子が連れて行ったのでしょうね


 「それはならぬと


 「一旦解雇。各個人がどちらかへ就職。そこを辞めてウォーガット領に。

 何も問題は有りません。

 命令を下せば陛下自身。今後の王城勤務者にも影響を及ぼしますよ。

 結婚などで辞めたくても陛下がダメと言ったらダメになりますから。それは王城勤務規定に抵触し、暴動の発端にも繋がります。

 規定の書き換えにはイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵の承認が必要ですよ」


 「マルージム近衛公安騎士隊長。聞いてもいいか」


 「改めてどうされました?お答えできますでしょうか」


 「わしは一人になったのか」


 「陛下の従兄で有り八年前に没落したレイジャック・アイナ・バルナウス元公爵閣下が生死不明の行方不明。

 イルリット殿下の調査でお亡くなりになったのではとなっています。

 その長女のリーナス様は継承権が無くミルカマイナ・マーガレット・シャウザー辺境伯の元に嫁がれました。お子様はいらっしゃいません。

 次女のマーリレス様は毒殺されました。

 陛下の実子。イルリット第三王子殿下を不貞の子として廃嫡なさったので、王族はたったお一人となりました。

 一応申し上げますと一旦公式の場で廃嫡宣言をなさると取り消しは出来ません。

 後は、これから何方かが陛下のお子を宿せばその子が王族となります。

 ただし、イジルバーバラ妃では貴族や国民。世界の妖精教会が認めないでしょうね」


 「何故だ」


 「妖精教会を愚弄なさって婚姻を認めていただけるとお思いなのですか?」


 「あぁぁぁ」


 「その上で仮称第二妃のイジルバーバラは十四カ国を救ったマーリレス正妃の毒殺者。ですよ」


 「うっ」


 「それに処刑される身です」


 「待てっ」


 「他の女性であったとしても教会は認めないでしょうね。そしてその子供も認められない。

 認められなければ王家としては扱えない。そう王家の法には記されています。

 妾だったイジルバーバラとの婚姻を先代のご両親から大反対を受けていた。ご両親が教会に相談していることを知っていた。

 あなたは教会から第二正妃とは認められないことを知っていた。

 だから仮称第二などと意味不明な地位を与えた。

 この王家の法。これの変更は妖精教会が変更を認める必要が有ります。

 先程もイルリット殿下が仰っていましたが各教会とは仲良しこよし。

 そしてマーリレス第一正妃が教会の運営にも多大な貢献をなさって、個人的に教会の運営管理の副総長でした。

 陛下はお知りでは無かったでしょうが。

 そんなマーリレス第一正妃の毒殺許可をお出しになった


 「出してはおらぁぁぁん」


 「誰が信じますか。

 そしてろくに調べもせず。いえ。ただ単に邪魔になったので教会を真向愚弄してイルリット殿下を廃嫡。

 そんなあなたを教会はミウラール王国の国王と認めるのでしょうか?

 まぁ、今の現状ですとこの国の政全てをイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵が認めるか認めないかです。その権限すら有していますよ」


 「そこまで?」


 「王家にとって一番重要部分すらご存じ無いのですか?失礼ですが、どうしようもないですね。

 それで蛇足ですが、イルリット第三王子殿下が城内全てを取り仕切っていらっしゃったと言っても過言ではありません。

 執務や外交に支障をきたします。速やかに後任人事を考慮なさった方が良いかと思います。

 これは陛下のお仕事ですよ」


 「わし一人でか?」


 「先ずは後任の宰相を指名するところからでしょうか」


 「お前は?」


 「次の宰相は外交も必要でしょう。わたくしはその器に居りません。十三か国語をマスターしておりませんし、他国の内部事情に精通もしておりません」


 「誰かおらぬか」


 「わたくしにお聞きになられましても。

 まぁ推薦できるのはイルリット第三王子殿下」


 「ふざけるな


 「何故、そこまで実子であるイルリット第三王子殿下を拒むのですか?」


 「・・・」


 「十二歳に至るまで・・・いえ。生まれたその日から何を恨んでいるのです。

 マーリレス第一正妃のどこが気に入らなかったのですか」


 「・・・」


 「そして父と呼べと?

 どんな神経をなさっているのでしょうか?」


 「・・・。

 頼む。暫くの間でいい。全ての法に精通しているお主しかおらぬ」


 「お断りいたします」


 「何故だぁ


 「何故と申されましてもぉ」


 「お前まさか


 「諜報部連絡員のリトリッヒです。陛下にご報告いたします」


 「ここで、内容を申せ」


 「しかし、内容は十三カ国の陛下からの問い合わせです」


 「いいからその手の用紙の内容を読めと言っている」

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