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 騎士爵に逆らえなくなった国王

 「母の葬儀以来今日までの八年間。

 一度もここへは来なかった。陛下の命令でここに入ったのですよ。理由は陛下が一番ご存じのはずですよ。隔離施設と言う名の別邸。

 大使の業務の報告ですら一度たりともお目通りが叶わなかった。

 王立で創設以来卒業式に毎年歴代国王はご出席なさっていたのにおいでにならなかった。今年の卒業生からわたくし が 恨まれました。

 そして今。わたくしの提示した真実でそう呼んで欲しいと?

 わたくし自身が働いて稼いでいなければここのお方達とわたくしは城内で餓死でしたよ。見殺しにしようとしたあなたを?

 優しく聡明でこの国を発展させた母を何の根拠もなく、何も調べずに公の場で不貞扱いしたあなたを?

 そして国の長たる国王陛下が乳母も任命せずに育児放棄。

 マルージム近衛公安騎士隊長。育児放棄に関しては国王陛下と後妻にも及ぶのですよね」


 「はい。法律上そうなっております。

 乳母の任命が明確な証拠がございませんので捜査対象。

 ライニー侍従長は自ら部下を伴ってこちらに来られていますので任命ではありません。

 しかもイジルバーバラ妃は正妃の毒殺。

 これによりイルリット王子は中等部と高等部への入学手続きをご自身でなさっています。

 明白な育児放棄。父親は何をなさっていたのでしょうか?

 これが世間に知れ渡ったら国王陛下の信頼も威厳も失墜ですね」


 「なんてことをぉぉ。今皆が聞いておるではないかぁ」


 「わたくしの父は八年前に母と共に毒殺され亡くなりました。

 あなたはわたくしの名目上の父であって、実の父ではありません。ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下です。

 因みにわたくしの後見人には十二歳からの一年間はライニー侍従長にお願いしていました。

 十三歳から現在に至るまではミルカマイナ・マーガレット・シャウザー辺境伯様です。

 マルージム隊長。面白い資料のコピーをお渡します。どうぞ」


 「はい。んん?はぁぁぁ?なですかぁぁこれぇぇ?

 ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下ぁぁぁあんたバカですかぁぁ」


 「なんじゃとぉぉ。不敬にも程が・・・・こ これ、わしがサインしたの?」


 「陛下の直筆サインですね。

 上から見ても下から見ても陛下ご自身が認めてお書きになっていらっしゃいますねぇ。

 八年前のマーリレス様がお亡くなりになってから二年後の日付ですね。中等部への進学に必要だったのでしょうね。

 後見人申請。任命許可。

 父親ピグダット・ファム・ミウラール。育児放棄。

 母親マーリレス・ファム・ミウラール。死亡。

 継母イジルバーバラ・ミウラール。辞退。

 母方叔父ミルカマイナ・マーガレット・シャウザー。職務の都合上不可。

 母方叔母リーナス・マーガレット・シャウザー。職務の都合上不可。

 母方祖父レイジャック・アイナ・バルナウス。行方不明。

 母方祖母ハルーライ・アイナ・バルナウス。行方不明。

 これによりイルリット・ファム・ミウラールの申し出により、

 後見人を現在寝食を共にするライニー・ロースメルタと認める。ですね。

 ご自身で育児放棄をお認めになってバカ以外に何が有ると言うのですか?」


 「マルージム隊長。わしは何でサインしたの?どうしてサインしたの?」


 「知りませんよぉ。そもそも育児放棄の文字は陛下ご自身の文字ですよこれぇ。アホですかぁ」


 「ひ 酷くない?」


 「そんなわたくしの存在ですから、二度と会いたくは無いでしょう。

 ご安心ください。今日以降は二度と会いませんので。

 ウォーガット領に行けば召喚に応じなくても良いとの規定が有ります。

 報告も書簡で良い。

 領地を離れた時に攻め入られる危険が有りますからね。当然です。

 逆に領主の判断で何人にも縛られる事無く出入りは自由です。つまりバールデシタ帝国と魔物達と真向勝負しなくてもいいんですよ。お解りですか?

 どの領地にもその領主の許可無く通行、宿泊可能。侵害すればその場で公務執行妨害です。公爵であってもその罪は掛かって来ます。


 貴族の皆さん。ご存じ無かったようですね。

 このウォーガット領の騎士爵はすべの貴族を従える事の出来る唯一無二の最高貴族階位なのですよ。

 王族ですら逆らえない条項や規約が満載なのです。

 歴代の凡そ百名の領主がこのお得なウォーガット領主の特権を知らなかったので、皆様も陛下ですらご存じなかった。

 しかし、わたくしはウォーガット領主の国王陛下を凌ぐ特権を行使するとここに宣言します」


 「ゆ 許す訳なかろうがぁぁ」


 「ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下。何を仰っているのですか?

 今日の謁見の間の陛下のお言葉を思い出して下さい。わたくしに渡された王命と勅許状もあります。


 『ミウラール王国の全ての法に照らし合わせた騎士爵とする』


 と、仰り。


 『以後の異論、抗議は一切を認めぬ。余の決定に逆らった場合は王家を含め一族三親等までを処刑対象とする』


 ですよ。

 王家も含んでいるのですよ。覚えていなくても抗議すれば処刑ですよ」


 「「「「あ”ぁぁぁぁ」」」」


 「陛下は謁見の間に貴族を招集し正式な公表の場と認め、ご自身が発した宣言をいとも簡単に撤回するのですか?

 そんなにあの場の宣誓に意味が無いのであればわたくしの廃嫡もウォーガット領主の任命も今の貴族の叙爵も陞爵も意味をなさない事になりますよ。

 陛下の撤回のお言葉がまだなので、今現在ウォーガット領主はこのわたくしです。

 次期領主を今この場で推薦。もしくは任命しましょうか?

 パーティー会場の貴族の方でわたくしが十代先まで任命可能ですよ。それは辞退も拒否も出来ませんよ。良いのですか?

 先程申しましたウォーガット騎士爵の特権の利用には細かな規定が在ります。それを把握していなと公安の逮捕。処刑対象ですからね。よぉぉくお勉強なさってください。

 ウォーガット領の領地軍は千名までしか許可されていません。初戦はその千名で迎え撃つことになります。

 数万のバールデシタ帝国の敵と数万の魔物を相手に戦い抜けるお方は国王陛下を凌ぐ権限を行使できますよ。

 今直ぐ転移でそちらに行って任命を


 「止めないか。あの場で宣誓したことは全てわしが認めた事だ」


 「十代先までの任命も?」


 「それも待て」


 「陛下。わたくしに待てと言える立場に無い事をお忘れですか」


 「うっ」


 「貴族の皆さん。わたくしは今ここで更に陛下の許可を頂いた事になります。

 わたくしは特権を行使するとここに宣言します」


 「待てと言っておる」


 「宣誓違反。公安騎士隊。陛下に向かい抜剣構え」


 「「「「はっ」」」」


 「わ わしに剣先を向けるのかぁぁ貴様らぁぁ」


 「わたくしの命令で偽兄二人とイジルバーバラの首も落ちますよ。

 陛下が今お認めになった宣誓の正当性に、陛下が違反しているのですから」


 「ま 待て。謝罪する」


 「何を今更仰っているのですか」


 「イルリットおま


 「メドーダス。わたくしを敬称無しで呼ぶとはいい度胸ですね。

 メドーダスの首を


 「イルリット さ ま」


 「何でしょうか」


 「いえ」


 「意味も無く名を呼んだのですか?

 あなたはその場合、その相手をどうしていたでしょうか?

 公安騎士隊。

 殴る蹴るの暴行を許可。鞘で殴ってもいいぞ」


 「やめないかぁ」


 「国王陛下の首を刎ねぇぇ


 「も もうし訳ない」


 「剣収め」


 「「「「「はっ」」」」」


 「ありがとう」


 「陛下。待ちますが、わたくしが死んじゃったらまた喧嘩が始まりますよ?」


 「少し考える」


 「なるほど。では、全ての法律を変えればいい?

 残念。ウォーガット領の騎士爵が認めない限り王家の典範も貴族規範も国法すら変更は出来ないのです。その抜け道は何処にも有りません。

 だから、申し上げました。今の国法や貴族規範等は穴だらけと。

 もう一度言います。

 わたくしイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵が認めない限り、一文字も変更は叶いません。強行すれば年齢の如何に関わらず三親等まで打ち首となります。

 実際に過去にはその事例も有り、粛清の嵐で実に貴族が三名。三親等は二百名を超えています。王族の半数も処刑対象。

 その後国内紛争に至り、バールデシタ帝国の侵攻と魔物の大規模来襲も相まって公爵を含めた貴族や民などの死者行方不明者は三十万人を超えました。

 貴族とその家族はその当時の凡そ三分の二が死亡もしくは行方不明です。

 ウォーガット領主がウォーガット領を離れましたから当然の被害でしょう。歴史学者も含めそう検証もされています。

 高等部一年で習ったはずです。百年前の【一文字国家危機】を。

 パーティー会場の皆さん。そうならないように願っておりますよ。

 さようなら」


 「ああ。鍵を掛けよった。おいお前。扉を開けろ」


 「はっ。えっ?」


 「どうした」


 「誰も居ません」


 「今の瞬間に二階までは・・・転移か」


 「障害物の中で?」


 ピグダット達はもぬけの殻の玄関を呆然と見ていた。

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