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 バールデシタ帝国。皇帝兄弟の思惑

 ミウラール王国の北西のバールデシタ帝国。

 帝都の北端の小高い丘の上に立つ巨大な城。

 帝都内の店が立ち並ぶ街道は人の往来こそあれど賑わいは無い。


 城内の皇帝執務室で皇帝ヴァラジルッド・バールデシタが上座の一人掛けのソファに座って難しい顔をしている。

 その後方にある執務机の後ろの窓から外を眺めるヴァラジルッドの弟。摂政のダヴァルットが腰で後ろ手に右手を掴んで立っている。

 ダヴァルットはゆっくりと振り返り、ヴァラジルッドの背中を見つめながら。


 「ここまで話してもダメですか。

 兄上。いっそ静養なさってはいかがですか」


 「いや、疲弊した民達を放ってはおけぬ」


 ダヴァルットはそれを聞きつつ背中に手を回したまま、ヴァラジルッドの右前まで歩んで立って見下ろし。


 「疲弊しているのは兄上のその虚弱体質の責任でもあるのですよ。

 まぁ。ミウラール王国の半分を我が帝国の領土にと掲げた三代前の皇帝ヴァヴァット陛下のお言葉を踏襲して来て、心身共にお疲れになるのは理解できますが」


 「それを今こそ辞める。私の代で辞め。ミウラール王国との和解をせねばならん。

 さすれば国交を樹立し、最も遠い隣国だったミウラール王国が文字通り隣国として相互の交易が叶う。

 多少なりとも民達が潤うではないか」


 「またまたその様な夢物語を仰って」


 「夢ではない。必ず実現する。

 軍の維持費も抑えられ、戦費も浮く。それだけでも大きな財源の確保だ」


 「職を失った軍人達をどうするか・・・まぁいいでしょう。

 病弱な兄上に代わって半分以上の政を行っている私の身にもなって頂けませんか。これ以上執務を増やすお積りですか」


 「そこはすまないと思っている」


 「仕方ありませんねぇ。前にお話ししておりました計画書の作成は?」


 「今だ思いの半分」


 「骨格程度は出来たと?」


 「肉付けが大変なのだ」


 「その大変な残りの半分は私に一任し、ミウラール王国との唯一の玄関であるノリタンキャニオンの手前の町。イクヒルズの別荘に行かれてはどうです。

 私が作成した計画書に基き、即、ミウラール王国との和睦が結べるように手配いたしますよ」


 ヴァラジルッドはおもむろに顔を上げ。


 「突然どうした」


 「実は先程、ミウラール王国との特別回線でイルリット・ファム・ミウラール第三王子が廃嫡されたと第一王子のメドーダス王子殿下から紙通達が来ました」


 「何だと?」


 「耳を疑いたくなるような所業ですよね」


 「ああ。およそ六年ぶりの通信がそれか。

 理由は」


 「ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下の承認のサインも無く、イルリット・ファム・ミウラール第三王子は廃嫡。と、だけ。

 他には何も。

 こちらです。どうぞ」


 「あいさつ文もなく本当に一行だな。後は自分の名前だけか。

 アホなのか?理由も無しに信じられるか。

 ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下の承認も無しにか?

 幾ら敵対関係に在ったとしても、不敬にも程が有るだろう。世間知らずか。

 しかし、ミウラール王国の正規の親書扱いか」


 「はい。廃嫡は確実かと。

 イルリット第三王子殿下が大使となって初めてのお仕事が我が帝国との国交断絶。

 十二歳でありながら見事な采配でした。

 護衛も共も連れず、単身乗り込んで来て、さすがの私も舌を巻きましたよ。

 まさか、国軍の半数を仕向ける作戦にお気付きで有ったとは。なんともいやはや」


 「お前が差し向けた刺客が全て返り討ちにされたんだな」


 「腕利き総数百五十人。半数が死亡。残りの半数は裏家業が出来なくなってしまいました。

 それだけの損害を出して十二歳を相手に傷一つ負わせられず、私にまで辿り着き喉元に証拠とナイフを突き立てられ降参」


 「受け入れざるを得なくなった。ただ、首は残してくれて、他国への流布は無し。

 ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下へも報告はしないとの約定。

 甘いと言わざるを得んが助かった」


 「賠償はイルリット王子殿下個人への謝罪とこちらでは屑石。向こうでは宝石を渡して不問。

 私の執事のメヴァールのその後の調査で、その屑石が向こうの十四か国では金貨で凡そ五千枚から一万枚の価値があったようです。

 何れにしても簡単な謝罪とタダで不問を勝ち得た事は僥倖でした。

 その節は勝手な判断で強行し、申し訳ございませんでした」


 「済んでしまった事だ。

 しかし、その後もお前の作戦立案で幾度となく攻め入ったが音信不通だったな」


 「そこが私も解せません。何かの意図すら感じますが。

 まぁこの半年は双方どちらも山越えは無理でしたから。

 そしてこれからは冬。向こうは身動きが取れませんでしょうな」


 「それはこちらとて同じ事だ。

 王位継承権は?」


 「さぁ?ご覧になっている親書のみ。続報も来てはいないようです。

 順当に行けば妾の子で有りながらメドーダス第一王子殿下が第一継承権を受ける事になるでしょうね」


 「この親書を通達して来たこのバカ王子か」


 「イルリット第三王子殿下以外はピグダット陛下を含め全てバカでしょうね。

 今まであの国は第一妃であったマーリレス様が外交官時代から世界各国をお回りになり、国内の政をも執っておいででした。

 国内情勢が安寧に向かったのもこの頃です。

 八年前にマーリレス妃殿下が病でお亡くなりに、二年後に実子の十二歳のイルリット第三王子殿下が大使となって母親の実務を継承し、より発展させた。

 ミウラール王国をたったお一人で支えていたようなものですから。

 是非とも帝国に来て欲しいお方と思う程です」


 「それすら理解できぬバカ共か。廃嫡となれば処刑か?」


 「詳細は有りませんが処刑となれば民達の猛反発を真っ向から受けるでしょう。

 あの国のマーリレス様時代から状況を知らないのは王族と貴族。

 民達はマーリレス様とイルリット殿下の恩恵を肌身で感じていますからね。

 さすがにピグダット・ファム・ミウラール国王陛下もそこまでバカでは無いでしょう。と。思いたい。

 ですから処刑では無く平民落ちではないか?そう思っております」


 「こちらに引き込めぬか?」


 「十三国も同じ思惑を持つでしょうね。この帝国は一番恨まれていますから、順番が来るのは十四番目ですよ」


 「国の政には関わって来ない。つまり今後はバカ王子を相手にして、事前協議で和睦は可能と?」


 「どなたが大使に任命されるかは解かりませんがイルリット殿下以外は皆バカ共のどんぐりの背比べ。

 ミウラール王国の仕来りは判りませんが、世界を見させると考えればメドーダス殿下が大使となるのでは?と、思っております。

 どうせ引き連れて来る部下も同レベル以下の烏合の衆。

 事務レベルの話し合い次第では食料の輸入は即開始されるのではないかと」


 「こちらからは?」


 「兄上がお話しだった鉱石と宝石類。何れも帝国内では飽和状態で道端の石ころ程度の価値の代物。

 バカ共のポケットにお土産に忍ばせれば二つ返事が返ってきます。

 帝国内ではタダ同然の代物。

 しかし、諸外国では希少価値。飛ぶように売れることは必至。

 交易が再開されれば、売値を吊り上げ多額の外貨と食料調達が容易になります。

 そうなれば鉱夫達にも仕事が出来ます。そこに関連する多くの民達にも仕事が行き渡るようになるでしょう。

 如何でしょうか」


 「ミウラール王国の半分の土地は諦めるのか?」


 「父と母も亡くなりました。

 何時までも亡霊の思惑を戦争と言う形で継承する事は無いでしょう」


 「いやいや、お前が一番欲しがっていたではないか」


 「イルリット殿下が廃嫡でバカのメドーダスが大使で次期国王。

 仲良くして、こちらから大使を送り、色々と仕込めば?」


 「乗っ取りか?」


 「考えてもみて下さい。

 イルリット殿下は処刑ではなく平民落ちとしてですよ。何時までもミウラール王国に居ると思いますか?

 そうなればメドーダスが我が物顔で国王ですよ。

 その先のミウラール王国はどうなってしまうのでしょうか。

 兄上とわたくしでメドーダス君とイグアス君を支えてあげなくてなりませんよ。大変そうですが」


 「他国は」


 「こちらにおいでなった時にテーブルに屑石を山積みにして、我が帝国の美しい女性を周りに置いて色々な条約を結べ良いのですよ。

 たったそれだけで帝国民の飢餓はあっという間に消え去ります」


 「私が静養を兼ねてイクヒルズで待機すれば良いのか?」


 「勿論、これに関連するご相談には乗って頂きますので執務はございます。緻密な連絡も必要ですから」


 「解った。私


 「いえいえ。カチューシャ皇妃殿下。ヴァノシャル皇子殿下。ユファイン皇女殿下もご一緒の方がより静養できるかと思いますが」


 「ヴァノシャルは二十二歳だからいいが、ユファインは十七歳。学校は卒業させてやりたいが?」


 「高等部で二年間首席をお取りになっています。既に卒業資格。大学部への無試験飛び級許可も降りています。

 それに、バカども相手に和睦まで半年と掛からないでしょう。お戻りになり卒業式は出来ますよ」


 「ヴァノシャルの許嫁はどうする」


 「そこが困りましてね。

 許嫁であらせるシャルーナ嬢のお父上。軍の総大将ジルベイン・ヴァルイア伯爵に何やらきな臭い噂がございまして


 「あいつは盟友だぞ。その様な噂を聞いた事も無いぞ」


 「他言無用で。

 どうも軍の掌握を狙っているようです。私の部下が拾って来た事実です。

 陛下が奥方のスコシュール夫人をジルベイン大将の副官にお命じになられた。渡りに船だったのでしょう。

 今、内密に証拠集めを行っております。

 事を荒立てると非常に危険です。なにせ、先鋒一本槍の二つ名を持つお方ですから」


 「あいつにその様な野心があったとは」


 「人は移ろい易いものです。私も非常に信頼をおいていたのですが。

 ですがまだ、確定ではありません」


 「そうだな。公表せずに一旦保留としよう」


 「その方が良いかと思います。

 イクヒルズ城は半年前の遠征で領主だったファニヴァッド・ラク・ダヴァス男爵が生死不明。

 今現状領主空席となっております。

 領主城には国軍が百名。使用人二十名は残っておりますので、別荘では無くそちらをご利用ください。

 こちらからは兄上の近衛兵二十名と侍女達を引き連れ、短距離転移を織り交ぜれば一週間の工程です。

 増援の国軍の精鋭を一か月後を目途に到着させます」


 「出立は?」


 「もう九月。これから冬になっていきます。早い方が私も安心できます。

 明日では如何でしょうか」


 「急だな」


 「ミウラール王国の国内情勢が落ち着いてしまうと、向こうもいらぬ知恵を付けます」


 「解った。この後、作業に取り掛かろう」


 「各方面に通達しておきます。こちらの執務はお任せください。

 お気を付けて」


 「ありがとう。行ってくる」


 (ようやく下準備が効果を発揮する時が来ましたよ。

 兄上。毒では死なない、なかなか丈夫なお方でした。

 そのお陰で色々策を講じてきましたが明日、イクヒルズへのお見送りが冥土へのお見送り。半年前から準備しておいて良かった。

 あの世でご家族の皆様とご静養ください。

 戦争と言う儲かる商売を止められる訳が無いでしょうが。

 これでエルフのお嬢ちゃん達に一歩近づきました・・・カチューシャやユファインの体も用無しですね。

 いやいや。お疲れさまでした。そしてさようなら)


 扉の向こうからノックと共に。


 〚旦那様。執事のメヴァールでございます〛


 「入れ」


 「失礼いたします」


 「めでたくイクヒルズに向かうことになったよ」


 「おめでとうございます。そして、お疲れ様でございました」


 「いやぁぁ本当に疲れたよ」


 「お疲れのところを申し訳ございませんが、一点ご報告がございます」


 「何だ」


 「ジルベイン・ヴァルイア伯爵閣下がご家族と護衛同行を願い出てきました」


 「何だとぉぉ」


 「いやはや驚きましたよ。

 造反の兆し有りとのご報告は?」


 「間違いなくした」


 「それでもまだ信じていらっしゃると言う事でしょうね。

 陛下が念話を入れたようで、わたくしの元に走ってまいりました」


 「それでどうする」


 「願ったり叶ったり」


 「どう言う事だ?」


 「造反の兆し有は一部の貴族などに噂として流しております。

 イクヒルズで陛下御一家がお亡くなりになれば犯人はおのずと。

 その後は陛下ご家族の冥土までの護衛も務めて頂きましょう」


 「おっ?おぉぉ?ふっふっふ。良いではないか。良いではないか」


 「護衛任務のご許可を」


 「総大将の空席をどうする」


 「この後、ご相談いたしましょう」


 「判った。冥土までの護衛の許可を出そうではないか」


 「はい」

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