王位継承権第一位イルリット第三王子 廃嫡
正装に着替え、リミットベイ隊長の護衛の元、王城に到着。
単身謁見の間に入った。
(おやおや、謁見の間が貴族達で溢れかえっていますね。いよいよこれは廃嫡決定ですか。
取り敢えず、立ったままの作法で)
「イルリット・ファム・ミウラール。
ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下の召喚により参りました」
(八年ぶりのご対面。さて陛下はどう出て来るでしょうか)
「イルリット第三王子。傅くが良い」
「はっ」
(はいはい。傅きますよ。八年振りの親子の再開でも、そんなもんですよね)
「えぇぇぇ」
「おぉぉぉ」
(驚くことは無いと思いますが、いよいよですか。
第一王子のメドーダスと第二王子のイグアスが玉座の妃の横に立っている時点で確定でしょうね。何ですかあのラフすぎる衣装は)
「イルリット第三王子。面を上げよ」
「はっ」
「イルリット第三王子に申し渡す。明後日の午前零時を以て廃嫡とする」
「おぉぉぉ」
「やっぱりかぁぁ」
「そうなるわなぁ」
(皆さんは既にご存じだったようですね)
「理由を宰相であるダーレスから申す。皆心して聞け」
「では、理由を申します。
結論から申しますとイルリット第三王子は不貞の子であることが判明いたしました」
(そうですか。妖精教会が認めていますので確実にあり得ませんが、誰も驚きはしないと。今朝早くに集まったのはその為)
「八年前に死んだ第一王妃マーリレスはウォーガット自領内で半年前に土砂崩れに巻き込まれ死んだリーマス・ファ・ウォーガット騎士爵と不貞を行い、子を成したことが判明いたしました。
マーリレスの実家であるバルナウス公爵家は八年前に没落した事は周知の事実です。
よって王家の血を引かぬイルリット第三王子は廃嫡となります」
(母方のバルナウス家は王家の血を引いていますが?それをも否定ですか?滅茶苦茶ですね。
ああ、生きていらっしゃる事をご存じ無かったですね。
二人の兄も嬉しそうで何よりです。その上、イジルバーバラ妃の笑い泣きに遠慮がありませんねぇ。扇で隠しきれていませんよ。
イジルバーバラ妃。笑っていられるのも今の内かもしれませんよ。
それと実の父であっても母を公衆の面前で愚弄した事。徹底的に許しませんよ。
それに国土防衛に尽力した死者を冒涜した事を絶対に許しませんからね。今は冷静に)
イジルバーバラ妃の泣き笑いが落ち着いたので。
「続けます。
寛大なピグダット・ファム・ミウラール国王陛下は子には罪は無いとして父であるリーマス・ファ・ウォーガット騎士爵の領地を継ぐ権利を与え、イルリット・ファ・ウォーガット騎士爵としてウォーガット領の領地を与えると申されておりますが受けますか?」
(良し来た。計画を発動)
「イルリット・ファ・ウォーガット騎士爵としてミウラール王国に貢献する事を此処に誓います」
「おぉぉぉぉ」
「助かったぁ」
「よっしゃぁ」
「ふぅぅ」
「よくぞ申した。わしが・・・余が育てただけの事はある。
六年前より大使として各国に赴き、高等部を首席で卒業したお前ならば、西のバールデシタ帝国との国境を守れるであろう。心して守り抜け」
「感謝の極み」
「大使の任であるが、次期大使が決定し、引継ぎ終了までは大使の官職であり全ての責務を負う。諸外国からの問い合わせや問題への対応。解決は今まで通りとする。
引継ぎ完了後は大使の職は免除し、諸外国へ赴く必要はもう無い。その後はウォーガット領に専念せよ。
貴族規範に基づく手当は勿論支給する。
廃嫡となった身ではあるがイルリットには一切の罪は無いとピグダット・ファム・ミウラール国王の余が認め、ミウラール王国の全ての法に照らし合わせた騎士爵とする。
ミウラール王国の騎士爵として恥じぬ働きをせよ」
「誠心誠意、全身全霊を以ってミウラール王国の民の力になるよう尽力いたします」
「よう言うた。余の言葉は書簡に認めておる。読み返し、よもや忘れぬように」
「はっ」
「長女のアジレッタから騎士爵の短剣を下賜する。受け取るがいい」
玉座横からトレー?に短剣を乗せ出てきた十三歳の少女。
私が最も嫌う女性。向こうも嫌いなようですが。
(はぁぁ。恐らくまともには頂けないのでしょうね)
「あぁぁ失礼ぇぇドレスの裾がぁぁ
五メートルほど先でわざとらしく躓きトレーから短剣が飛び上がった。
(あぁあ。短剣が飛び上がった。仕方ありませんね)
傅いた姿勢からクラウチングスタートの様に一気にダッシュ。そして一気に反転。元の位置で傅く。完璧。
「あの姿勢から受けたの?」
(それ言っちゃダメですよ。アジレッタちゃん)
「はい。確かに受け取りました」
(お可愛そうに。ただ一つの仕事も達成できず叱責を受けるのでしょうか。
これを落としていたら私の責任で何もかも取り上げていたんでしょうね。皆さんのお顔が悔しそうです)
「これにより正式にイルリット・ファ・ウォーガット騎士爵としてピグダット・ファム・ミウラール国王の余が認める。
異論有る者は前に出て理由を述べよ。十秒待つ」
(いやいや、典範、規範によれば短剣を下賜する前に確認を取りますよね)
「十秒経ちました」
「イルリット・ファ・ウォーガット騎士爵を含め、異議なしと認める。
以後の異論、抗議は一切を認めぬ。
余の決定に逆らった場合は王家を含め一族三親等までを処刑対象とする。
書記よ、書き留めたか」
(ふぁ?王家も含めて?私にとっては超好都合ですが少々おかしくありませんかねぇ)
「はい。こちらがコピーでございます」
「うむっ。余のサインと蝋印を認めた。
ダーレスに渡せ」
「はっ。こちらでございます」
(あぁあ。不動の決定項となってしまいました。感謝しておきましょう。ありがとうございます)
「ダーレス宰相。続けよ」
「はい。続けます。
イルリット・ファ・ウォーガット騎士爵。
失礼。廃嫡が決定いたしましたが明後日の午前零時までは継承権第一のイルリット第三王子でした。
イルリット第三王子。
今、従者が渡した書簡に詳細が記されております。
先程の陛下のお言葉も綴られております。宣誓に基く正規の書簡です。
簡略的に申せば明後日の午前十時までに特別屋敷を出て行く事です。
二頭引きの馬車一両と金貨百枚はピグダット・ファム・ミウラール国王陛下の恩情です。
特別屋敷内及び周辺の私物はお持ちください。増改築なさった物で不用品は置いていっても構いません。一切の請求は致しません。
但し、現在身の回りの世話を行っている近衛兵十名。使用人十名は連れては行けません。
お一人でウォーガット領へ向って頂くことになります。
後は書簡をご覧ください」
「ピグダット・ファム・ミウラール国王陛下。恩情を賜り有りがたき幸せ。御恩はミウラール王国に貢献する事でお返しいたします」
「うむっ。これにて終了とする。散会せよ。
お前も、下がって良いぞ」
「はい。失礼いたします」
(陛下。覆すことの出来ない内容を自らが認めたことを後悔する事になりますよ。私のカメラにも音声付きで録画されていますからね。言い逃れは出来ませんよ)
百有余年の間疲弊し続ける中、貴族は贅沢を貪り、国民は極貧の苦渋を舐め続け失業者は三十パーセントを超え、食料自給率も三十パーセント以下のミウラール王国。
歴代国王は他国に頭を下げる事を拒み続け、重税でその場を凌ごうとした。
そして食料に関して行った政策が【他国から相場の倍で購入】
『どうだ。他国のクソ野郎共。わしに頭は上げられぬだろう。わぁぁっはっはっは。わぁぁっはっはっは』
だった。
例えば日本円で百円で買えていた食パン一斤が一気に一万円になった。これは中間に悪い業者や貴族が食い込んだためでもあった。
一か月の給料が十万円そこそこの家庭では買えなくなった。
そして食べ物は魔物の肉になった。冒険者に頼めば足元を見られる。その為、死亡率が跳ね上がった。
女性ばかりの家庭が増え、女性をターゲットにした犯罪率も跳ね上がった。
農業も生産業も衰退の一途をたどった。
先代国王時代からその傾向は少し改善され、食パンは一斤五百円程度まで下がった。
先代国王が他国に頭を下げ、相場相当で購入できるようにし、中間に存在した業者や貴族を排除し、場合によっては処刑までも行ったからだ。
先代国王は妃を伴って国内を見て回り、そして生産業にも一か八かとも言える大規模なテコ入れをして、ようやく国全体の歯車がかみ合うようになった。
ミウラール王国の起死回生の転換点は母が提案した国費投入の治水工事と街道整備。そして荷馬車の生産と国軍の強化と冒険者ギルドの強化と地位の向上。
どれだけインフラを整備しても魔物の氾濫が起きれば一瞬で破壊される。
極貧時代に『魔物は食材』が定着したお陰と母が肥料にする事にも成功し捨てる部位が無くなったことで一石二鳥どころか無数の恩恵をもたらすありがたい魔物君達になった。
勿論被害は有る。
先代国王に可愛がってもらっていた母は猛勉強をして外交の事業も継承した。
そして先代国王の勧めもあり、王太子妃ならば動き易いだろうと一人っ子の父と結婚した。相思相愛でもあったらしい。
その後母は寝る間も食事も惜しんで世界を飛び回り友好関係を結び、輸出入を増大させ食料自給率も百五十パーセント迄のし上げ、失業率も十パーセントを切った。
税収も確固たるものになって豊かで平和な国に変えた。
(陛下。イジルバーバラ妃。メドーダス。イグアス。アジレッタちゃん。
そんな母を愚弄した事を決して許しませんよ。
そして私の母の恩恵を無償で受けて、贅沢を満喫した生活が一変しますよ。
母方のお爺様や姉のおじ様を蔑み、おじ様の弟様を苦境に立たせ、母を愚弄し、死者を冒涜し、私をゴミのように扱って来た事を反省し、殺してくれと言っても絶対に許しませんから。
私の事はまぁいいか。思惑もあったし自業自得?なんか違うかな。
そこのなぁぁにもせずに税金を貪る贅沢三昧の無能貴族連中も絶対に許しませんからね。覚悟なさい。
ここの貴様ら全員。母が造り上げたこのミウラール王国の富と平和を享受するに値しない。私が許さない)
一部の貴族達が扉からそそくさと出て行った。
残った貴族達は出口に向かって歩く私を眺めながら。
「私はやばかった。ウォーガット領に行かされると思っていましたよ」
「私も候補だったらしい」
「これでウォーガット領の件は終了だな」
「イルリットが死んだら?」
「「「やばい」」」
「あれが噂に聞くイルリット第三王子なのか?」
「全く別人じゃないのか?」
「猫を被っているようにも思えないぞ」
「そう言えばイルリット第三王子が開発したケーキとかガラス製品はどうなるんだ」
「特許で許可無く作れないんだろ」
「あの特許も国は手出しできないからな」
「何かしたら諸外国から大目玉喰らうぞ」
「国同士の問題でそれこそ各国から戦争を吹っ掛けられるぞ」
「外交は誰が担うんだ。イルリット第三王子が駆けずり回っていたんだろう」
「思えば国最高の重要人物じゃないのか」
「ウォーガット領の事で頭がいっぱいで、国政の検証が全く出来ていないぞ」
「事務方がこの国を動かしてるのはイルリット様と言っているらしいぞ」
「今更だぞ。第一王子のメドーダス様で務まるのか?」
「第二王子のイグアス様も女性相手だったらおちゃのこさいさいのようだが」
後方の玉座では。
「ダーレス。全てが一気に片付いたな」
「はい。メドーダス殿下の優秀な発案かと存じます」
「まぁな。俺様にかかればざっとこんなもんよ」
「感服致しました」
「母上どうでしたか俺の発案」
「やはりあなたは完璧よ。もう笑いが止まらないの」
「母上。俺は?陰でめっちゃくちゃ頑張ったんだけど」
「勿論、イグアスも良くやりましたわ。褒めてあげますわよ」
「褒美に侍女達を回してよ」
「侍女はいけませんと言っているでしょ」
「そうだった」
「遊びに行ってらっしゃい。お金は出してあげますから」
「ひゃふぉぉい」
「俺も俺も」
「解りました。この日を記念すべき盛大なパーティーまでには帰ってくるのですよ」
「「りょうかぁぁい」」
「アジレッタ」
「は はい。お母様」
「何ですかあの失態は」
「申し訳ございません」
「にっくきあの女のガキの、最期の晴れ舞台を笑うチャンスであったのに」
「申し訳ございません」
「お小遣いは減額」
「そんなぁぁ」
(私が謁見の間を出るまでに聞こえるように話しますかねぇ。
アジレッタちゃん、ごめんねぇって、笑う為の演出だけだったの?)




