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三題噺もどき4

日常へ

作者: 狐彪

三題噺もどき―ななひゃくはちじゅういち。

 




 時計の針はとうに真上を通り過ぎている。

 カタカタというキーボードの音に混じり、小さく窓を叩く音が聞こえてきた。

 手をとめ、はたと外を見てみると、仕事を始める前に見たときには、空に月が浮かんでいたのに、いつの間にかそれは見えなくなっていたことに気が付いた。

 代わりに重い雲が空を覆い、星も月も隠してしまっていた。

「……」

 ぽつぽつと振り始めた雨が、窓に痕を残していく。

 小さな雫は、徐々にその数を増やしていき、視界をゆがませていく。

 今日は雨の予報は出ていなかったのに……まぁ、関係ないのだが。

「……」

 その音をかき消すように、カローと何かが歯に当たるような音が脳内に響く。

 適当に取り出した飴玉を舐めていたのをうっかり忘れていた。

 もうだいぶ小さくなったと思ったが、まだまだ残っているようだ。

「……」

 その飴玉を舌先で転がしながら、作業を再開する。

 ほとんどの作業は終わり、あとは最終的な確認をしていくだけなのだが……ここを適当にすると再度直しをしたり、初めからまた見直したりと、面倒なことになる。

 手を付けた時点から丁寧にすることは大切だが、最終確認も丁寧にしなくてはいけない。

「……」

 それもまぁ割と終わりが近づいているのだけど。

 今日も、散歩には行っていないからな。

 時間だけは沢山あったのだ。

「……」

 たいした理由ではないのだ。

 なんとなく、今日は散歩に行かなくてもいいかなと思っただけで。

 先週まであって、不安とか恐怖とかよくわからないそんなものに寄って、思考が固まったり体が動かなかったりしたからではない。

「……」

 昨夜。

 私の従者が、アレに何をしたのかは知らないが。

 本人は話をしただけだと言うし、あまり問い詰める事でもないだろうし……そもそもはぐらかすのが得意なアイツに対して、説教なんてものは効かないのであって。

 口だけでは一生勝てない。なんやかんやとアイツの方が年上ではあるからな。

「……」

 今朝がた……と言っても世間では夕方になるのだが。

 起きて、ベランダにこそ出なかったのだが。

 リビングに向かうと、机の上に一通の手紙が置かれていたのだ。

「……」

 マンションの一階にある集合ポストではなく、我が家の玄関に取り付けられている、使われることのそうそうないポストに、入っていたらしい。

 先に起きていたアイツが、見つけたのだと言う。あの人から、でしたよと。

 中身は見てないと言っていたが、若干封が開けやすかったので開いたのだろう。

「……」

 シンプルな、白い封筒に、アレの紋章が入った蝋でとじられていた。

 そもそも、何かしらの用があれば直接接触してくるような奴が、手紙をよこしてくる時点で何か嫌な予感がしたのだが、それも杞憂に終わった。

「……」

 中身はまぁたいしたことではないのだが。

 つい先日まで話していたのに、ご丁寧に時候の挨拶なんてものから始まっていた。

 アレも案外この国が気に入って住み着いていたのだろか……今となっては知る由もないが。

「……」

 先日の発言の撤回のようなものと、遠回しの謝罪文。

 あの発言が事実ではないと言うちょっとした証拠と一緒に、ここには二度と近づかないと言う文言が書かれていた。……君の従者はおっかないね、だと。

 家のをおっかないと言うのは、アレくらいな気がするな。他の奴らには、いい従者だとほめられることくらいしかなかった。

「……」

 この手紙の内容すべてを、はいそうですかと納得することは出来ない。

 アレは何もかもを欺くようなことをするような奴でもあるのだ。自分の発言の撤回なんて今まで何度もしてきただろうし、それをさらに覆すようなこともしてきただろう。

 まぁ謝罪はされたことはないが……しかしこれはあまりにも遠回り過ぎて謝られている木にはならない。家の従者が怖いから謝っている感が物凄くあった。

 その手紙だが……預かっておきますねと、アレが恐れている家の従者に回収された。燃やしてもいいぞと言ったが……証拠ですからそんなことはしません。と言って断られた。

「……」

 まだ散歩を再開するには少し躊躇するかもしれない。

 ベランダにだってそうすぐに出られるかは分からない。

 それでもまぁ、少しは回復したように思えるし。

「……ご主人、休憩にしますよ」

「……」

 いつもと変わらず、こうして呼んでくれる声は、あるわけだから。

 まぁ、少しずつ。





「レアチーズケーキです」

「好きなやつだ」

「そうですよ」

「……なにかやらかしたのか?」

「なにも」











 お題:雨・飴玉・時計

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