影武者
王と影武者にされた男の話
王は死ぬのが怖かった。
戦が始まる前に、王は自分によく似た容姿の男を街から連れて来た。
王には左頬に大きな刀傷があったので、震える男にも同じ場所に傷を付けた。
血が噴き出し、痛みにのたうち回りながら男は「この恨みは忘れない。」と王を睨みつけた。
これから自分の代わりに死ぬ男に何を言われても王は何も感じなかった。
城は墜ちたが、王は数人の部下と逃げ出し生き延びた。
王は討ち取られたという報告を聞き、王は影武者が使命を果たしたと満足した。
その後、王だった男は小さな村に辿り着き身分を隠して生活をした。
何年も、何十年も暮らしていくうちに村は段々と栄えやがて街となり、城ができ王が君臨するようになった。
ある日、王だった男は城に呼ばれた。
跪き、頭を下げ王の言葉を聞く。
「大きな戦がある。お前は余の影武者として斬られてもらう。」
驚きのあまり思わず顔を上げて王の顔を見ると、左頬には王だった男と同じ大きな刀傷があった。
血と怨嗟を身に纏い、遂に実体を得た影。
願う事はたった一つ。
「次は、お前の番だ。」
王は嗤いながら頬の傷をなぞった。
〈終〉