第7話 霊術(後)
刀狼との戦いで負った負傷から復帰した俺は、紅音と共に、おっさんに霊術について教わっていた。
「相剋? 相生?」
「相剋と相生ってのは要するに陰陽を抜いた五行の相性のことだ。まず、相生だ。
相生ってのは、自然の巡りの中で五行の属性がお互いを生み出していく流れのことだよ。まず、木が燃えて火を生む。火が燃えて後にできる灰は土を豊かにする。土の中からは金属が生まれ、金属には雫がついて水を生む。そして水は気を成長させる。
この恵の輪のことを『五行相生』と呼ぶ。この五行相生の流れを使えば、より強い技を使うことができるってわけだ」
なるほどな。ようは、木が火を強くし、火が土を強くし、土が金を強くし、金が水を強くし、水が木を強くするってことだな。──ってことは、
「つまり、俺と紅音が同時に技を出すことで紅音の技を強くできるってことだな?」
「おう、理解が早いな。そう言うことだ。」
「はえー。つまり、私と珠生は相性が良いってことだね!」
「んー、まぁそう言うことだな。次に五行相剋だ。相生は主に、協力、共生の要素が強かったが、今度は対立の要素が強い相性だ。
まず、木は土の栄養を吸い取る、次に土は水を汚し流れを堰き止める、水は火をかき消す。火は金属を溶かし、金属でできた刃は木を切り倒す。
この流れは互いを打ち消しあい、1つの元素に力が集まりすぎないようになっている」
今度は、木が土に強く、土が水に強く、水が火に強く、火が金に強く、金が木に強いってことだ。互いを生かす相生の相性と違ってこっちは、いわゆるって感じの相性だな。
「ということは、俺は土行の相手に強く金行の相手に弱いってことだな?」
「そう言うことだ。さらに言えば、だ。属性は1人につき1つしかない。ってことは、さまざまな相手と戦うには複数人──できれば違う属性──で組んで戦うのが必要になってくる」
「そこで、俺と紅音ってことか。意外と強かだな? おっさん」
「どういうこと? なんで私たちの名前が出てくるの?」
「いいか? お前の火行は、水に相性が悪い。だが俺は木行だから水行に対して少なくとも対等に戦うことができる。
逆に俺は金行に相性が悪いがお前がいれば有利に戦うことができるってわけだ。つまり、おっさんは俺たちに組んで戦わせたいってことだよ。俺を弟子にしようとしたのもそれが理由だな?」
「カハハハハッ! まぁそういうな! お前のその馬鹿みたいな霊力を鍛えてみてぇってのも本音だ。
──まぁともかく、珠生のいう通りだ。基本的に組んで戦うならば、相生において隣り合った属性同士が良いとされてんだ。そういう意味でもお前らは相性がいいよ」
「ふーん、よくわからないけど珠生と協力すればもっと強くなれるってことだねっ!」
「まぁ、そういうこった。これで、相剋と相生については、分かったな。基本、霊術ってのは、この七行と相剋、相生の相性が重要になってくるんだ。しっかり覚えとけ?」
「「おう!/はいっ!」」
「んでよ? まぁ霊術の相性については分かったけどよ。具体的にこれからどんな修行をするんだ?」
「まぁ、落ち着けよまだ説明は終わってねぇんだ。『精霊』についてだ」
おっさんが勢いづいた俺を片手で制しながらそう言った。まだ何かあるらしい。
「精霊?ってあの目に見えない自然の霊みたいなやつのことか?」
「まぁ、それに近いな。いいか? 精霊っていうのは、自然に集まった霊力がより集まって魂を得て存在を確立したもんのことだ。精霊にも属性があってな? それぞれ対応した神様に仕えてるんだよ」
「ふーん、なるほど? 精霊についてはなんとなく分かったけどよ? それが俺にどう関係してくるんだ?」
「おう、そう早まるなよ。精霊自体が関係するわけじゃねぇ。いや、関係はしてるがそこが重要なわけじゃない。お前の刀の話だよ。」
「俺の刀? ありゃあ確かに変な刀だけど……あれがあるがなんかあんのか?」
「えっ!? 珠生って刀なんか持ってたの!?」
「おう! つっても、俺が使おうって思った時にしか出てこねぇんだよ」
「そう、それだ! 戦闘時などの使用者が使おうと思った時にのみ現れる刀──そいつは、おそらく『霊器』だ」
「「霊器?」」
「霊器ってのは、精霊が自らの霊力を用いて作り出した道具のことだ。霊器は、その精霊に応じた属性と能力を備えてるんだよ。
精霊は自らの属性と呼応する者に自分の霊器を託す。そして、大きな特徴として──霊器ってのはな? 使用時に使用者の意思によって召喚されてよ、それ以外の時はこの世から姿を消してるんだよ。……つーわけだ。珠生、お前さん、いっぺんあの霊器出してみろ」
「今かよっ! 全くもっていきなりだなおい! ……まぁいいや。よく見とけよ?」
そう言って俺は、左手に意識を集中させて太刀を出現──させることができなかった。どれだけ集中して意識しても刀は俺の左手に現れない。
「……あれ?」
「……でないね?」
俺と紅音が顔を見合わせて、頭に?を浮かべる。すると、しばらく俺を見つめ何かを考えていたおっさんが、ふと得心がいったとばかりに手を打った。
「あー! なるほどな! そういうことか!」
「なになにっ!? どういうことなの? お父さん!」
「あー、その前に、だ。珠生、お前さんがこの刀を抜いたのはどんな時だ?」
と、おっさんが俺に向かって聞いてきた。刀を抜いた時って言ったら──
「……えーっと、……最初は確か、木槌山で目覚めて、とりあえず川を下って町を目指そうとしてる時に熊に会った時だな。……それで2回目は、あれだな。おっさんに助けられた、刀狼と戦った時だ」
「──なるほど。やっぱりな。お前さんが刀を抜いた時ってのはつまり、命懸けだった時だな?」
「……うん。確かにそうだ。でも、それがなんだっていうんだよ?」
「お前さんが刀を抜いたのは自らの生死がかかった時。つまりは、火事場の馬鹿力ってやつだな! カハハハハッ!」
「でもよ、「なんで今は使えない、だろ?」──そうだよ。」
「まぁ要するに、だ。お前は、まだ刀を扱えるほど霊力が扱えない。──が、命の危機に火事場の馬鹿力が働いて刀を使えた。
だが今は、その命の危機もない状態だからな。普通に霊力の扱いがわからないから使えないってだけだな」
「──マジか……! じゃあ俺は、どうすりゃあいいんだ?」
「まぁ、おそらく単純に霊力の認識がまだ弱いんだろうよ。刀狼の妖力は、見えてたようだからおそらく霊力を感じる目は目覚めているんだろう。
でも、まだ他の感覚が開いていないんだろうな。っていうことは、だ。やることは一つしかねぇよな?」
「──! 分かった! 修行だねっ!」
紅音が元気よく、声を上げる。……それにしても修行か! 何するんだろうな? 目は目覚めてるって言ってたからな? あれかな? 目隠しをして攻撃を避けるみたいなやつ! なんにしてもテンション上がるなぁ、おい!
「修行かぁ! 何するんだ! おっさん!?」
「そりゃあ、決まってんだろ。──釣りだよ」
そうか釣りかぁ! なるほどなぁ、釣りか!…………釣り?
「…………釣り?」




