第6話 霊術(前)
重衛のおっさんの弟子になってから数日、俺は重衛のおっさんとの激しい修行を行っていた──ということはなく、おっさんの家で療養を続けていた。どうやら、あの刀狼とか言う穢獣との戦闘で、かなりのダメージを負っていたらしかった。
おっさん──この村には医者はいないらしい──によるとら刀狼に叩きつけられた傷もそうだが、それよりも体の損耗の方が激しいらしかった。まぁ、あの時は身体能力に物言わせた無理な動きに、その後霊力とか言うのが目覚めたばかりなのに激しい戦闘を行ったのもあったからな。かなり、体に無理をさせてしまったのだろう。思い返せば刀狼との戦闘、最後ぶっ倒れたのは傷や痛みからって言うより、突然体が動かなくなったって感じだったしなー。目覚めたばかりはまだ興奮して体の状態に気付かなかったのだろう。
目覚めたその日は、紅音と喧嘩するぐらいには動き回ることができたが翌日からは、まぁー大変だった。なんせ腕や足どころか指一つすら動かねえってんだから、もう笑うしかないって感じだ。何がキツイってよぉ、体がうごがねぇから厠にすら行けやしねえ。と言うことはだ、誰かに介護してもらわなきゃ行けねえってことだ。……まぁこの話はやめておこう。介助してくれたは、おっさんだったとだけ言っておこう。
まあ、そう言うわけで俺はしばらくこの布団を棲家としてほとんどここから出ることができない生活を送っていた。だが、少しずつ動けるようになっていき、ついに布団から出て動けるようになった。
よっしゃあ! これやっと霊術とか言う術の修行ができるぜ! テンション上がるなぁ! だってよぉ、霊術だぜ?絶対魔法みたいなもんだろ、これ。この前、軽く説明してた時も指から火出してたし。刀狼との戦いの時も、剣に炎纏わせて斬ってたし。いいよなぁ、あれ。炎を纏った剣、男ならみんな夢に見るやつだよなぁ! 俺もできるかなぁ。
「いや、お前多分木行だからあれは出来ねぇぞ?」
うっきうきで庭──田舎だからだろうか。この家には結構広い庭があった──に出た俺におっさんがそう言った。
「え!? 俺、あの炎の剣出来ねぇの!?」
「おう、そうだな。」
「なんで!?」
「言ったろ? お前の属性が木行だからだよ」
「木行?」
そういえば、この間説明してくれた時もなんかそんな風なことを言ってたような……? あの時は、火行の術? とか言ってたっけか?
「そうだ。霊術ってのは七行の元素の力を霊力に注ぎ込んで作り出すってのは、この前説明したな? んで、人や獣はそれぞれ持っている性質、『気』によって分けられるんだ。つまり、木気、火気、土気、金気、水気の五行の気に、陰気と陽気の7つだな。まぁ陰気と陽気を持ってる人間は特別な家系にしか生まれねぇから、まぁ気にしなくてもいい。そして
この7つの気によって生じる元素の力が『七行』だ。ここまではわかったか?」
「おう。でも、俺が木行ってのはどう言うことだ?」
「それはな? お前さんの目だよ」
おっさんが俺の目を指差して言う。
「目?」
「おう、昔っから目は口ほどに物を言うって言うだろう?ありゃあ、本当なんだ。目にはその生き物の本質が現れる。んで、七行の要素ってのはそいつの瞳の色に現れるんだよ。
そもそも七行ってのはそれぞれを表す色があるんだ。木行が青、火行が赤、土行が黄、金気が白、水気が黒。んで、陰と陽が、黒と白。これは金行と水行に被っているがこれも気にしなくてもいい。陰行と陽行なんざ、ほとんど見る機会もねぇからよ。
ちなみにこりゃあ余談だがよ? この国の人間に黒い瞳が多いのは水行のやつが多いからだ。この国は島国だからな。水の影響を受けやすいってことなんだろうよ。」
「なるほどな。それで俺の瞳の色が青だから、木行になるってことか。で、俺が木行ってのはわかったけどよ? なんで、その火行の技が使えないんだ?」
「そいつは単純な理屈よ。人はそれぞれ気を持ってるって言ったな? そいつは1人につき1つの性質の気しかもてねぇんだよ。
つまりそれを元にした七行の力も1人につき1つってことだ。霊術ってのは七行の力を使わず、そのままの霊力を使った術──霊行と、それぞれの持って生まれた七行の霊術しか使えねえってことだ。
──で、だ。俺の火厳流の技は、火行の霊術とそれを元にした剣技が主体だ。だから、お前には火厳流はつかえねぇよ。」
「はー、なるほどな」
俺の七行は木行だから、火行の術は使えない。そして、家業の術を前提とした火厳流の剣術も俺には使えない──かぁ。あー、マジかぁ……俺もやりたかったなぁ炎の刀でズバァァァンって、敵と戦うの。──?……ちょっと待てよ?
「……じゃあ、あんたの弟子になったのって意味ねぇじゃねぇか! どう言うことだよっ!」
「カハハハハッ!! そう来ると思ったぜ。まぁ落ち着けよ。確かにお前は俺の火厳流を継ぐことはできない。けどなぁ、属性が違ったって同じ霊術には違いないんだ。ある程度指導してやることはできる。
剣術についてもそうだ。お前さんの戦い方は少し見ただけだが、その馬鹿みたいな霊力量と運動神経に、任せた無理矢理な戦い方だ。それで、あそこまで刀狼をぶっ倒せるんだから、ちゃんと剣と霊術の修行をすれば必ず強くなる。
まぁ技に関しては、俺は木行の技はあんまりしらねぇからよ。お前さんが自分で作っていきゃあいいさ。カハハハハッ」
「……自分でってよぉ。適当なこと言いやがって……」
「まぁ、良いじゃねえか! かっこいいぞ、我流。男なら憧れるもんだろ?」
「まぁ、それはそうかもしらないけどよぉ。……まぁ良いや。それで? 木行ってのは何ができるんだよ? 木を生やしたりできるのか?」
「それがな? 木行は五行の中でも幅が広くてよ。もちろん木や植物を生やしてってのもあるが、他にも雷と風の要素があってそいつがどんな力が使えんのかは鍛えて身ねぇとわからねぇんだ。すまねぇな」
「ふーん。なるほど? つまり俺がどんな風な戦い方をするべきかってのはまだ決められないってことだな? ──いいねぇ! 面白ぇじゃねぇか」
「まぁ、そういうこった! ここまでは、理解できたか?」
「応! まぁ大体わかったよ。──んで、なんだが。あいつはずっとなにしてんの!?」
俺が指を刺した方には、俺たちの会話の間ずっと、刀の素振りを続けていた紅音がいた。
「え? 何って、素振りだよ?」
「おう、まぁそれはわかるけどよ? もしかしたらとは思ってたけどやっぱりお前も剣術習ってんのか?」
見るからに活発そうな紅音だ。剣術や霊術を習っていてもおかしくない──とは、思っていたがまさかその通りとはな。
「おうよ、こいつは才能があったからな。7つの頃から教えてんだ」
「まぁ、師弟関係でも、私が姉ってことだね!」
「それについてはお前と俺は同じ歳だろって言ってんだろうが!」
「そうだけど、私の方が先に教えてもらってるからお姉さんだもん!」
「なんだとこのやろ──」
「てめぇら、もういっぺん叱られたいか?」
「「すみませんでした!」」
俺と紅音は、同時に頭を下げる。おっさんの拳骨マジでいてぇんだよ。しかも、その後しばらく痛みが引かねえしよ? なんだあれ?
「──ともかく、だ。お前も霊術とか剣術使えるってことだな? おっさんと同じで赤い瞳ってことは、火行の属性か?」
「うん! そうだよ! って言っても私が使えるのはまだ基本の4つの技だけだけどねー」
「ほー、そうなのか」
なるほど、火厳流の基本の技は4種類あるんだな。──っていうか、10歳で、4つも技使えるってすごいんじゃないか? おっさんの言った通り、こいつ才能あるんだな。
「まぁ、ともかくだ。紅音も俺の弟子ってことになる。2人とも、仲良くやってくれよ?」
「「おう!/はいっ!」」
「──よしっ! それじゃあ、だいぶ逸れちまったが、話の続きだ。……ええっと、霊術と七行の話まではしたんだったな? ってことは次は相剋と相生だな」
「相剋? 相生?」