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第27話 豊稲羽

「ここまで連れてきてくださって本当にありがとうございました。今は何のお礼もできませんが、仕事を見つけたら必ずお礼に伺います!」


「本当にそれでいいのかい? 稲魂神社で……というわけには行かないが、それでも何かの縁だ。仕事を見つけられるまでは稲魂神社にいてもいいんだよ。仕事探しの方も手助けできると思うけど」


 豊稲羽の大門をくぐり街へ入ったところ大通りで樒真さんが俺たちと別れようとするあやめたちへと、仕事の斡旋と当面の衣食住についての提案をする。あやめたちはまだ幼い──つっても俺たちもそう変わらない歳ではあるんだが──、いくら何でもいきなり放り出すのは……という樒真さんの思いやりだったのだろう。しかし、


「いえ、ここまで一緒に連れてきてもらっただけでも感謝しても仕切れないです。それなのに、これ以上助けていただいても私たちには返しきれません……。なので、これからは私たちの力でどうにかして見せます!」


あやめは樒真さんの提案に首を振ってそう答えた。あやめたち──というよりあやめは、旅の最中も普段は楽しそうにしているのだが、この先の話となるとずっとこの調子でどこか俺たちから一線を引いた態度で俺たちのことをどこか信用しきってはいないようだった。

 香乃葉さんに相談してみたが、おそらく村から追い出されたことで警戒心が強くなっているのだろうということでこれ以上できることはないだろうということだった。

 

 樒真さんは、あやめの様子から確固たる意思を感じ取ったのだろう。一つため息を吐いたあと、懐から小さな紙と筆を取り出すとそこに何やらサラサラと書き記し、あやめへと手渡した。


「……そうか。それなら仕方ないね。……なら、せめてこれを持っていきなさい。何かあった時、これを持ってこの街の中心にある稲魂神社を訪ねるといい。これを持っていればここにいる誰かへと話が通るだろうから」


 受け取った紙を不思議そうに眺めていたあやめだったが、樒真さんの話を聞くと、目を見開いた後にそれを大切そうに胸へと抱いて樒真さんと俺たちへと深々と頭を下げた。


「皆様、本当に今までありがとうございました。さっきも言いましたが、落ち着いたら必ずお礼に伺いますね! ……ほら、風太もちゃんと挨拶して」


「うんっ! みなさま、ありがとうございました! ……かたなのおにいちゃん、げんきでねっ!!」


「……風太も、ちゃんと姉ちゃんを助けて元気にやるんだぞ? 

 あやめも、樒真さんが言ってたけど何かあったら俺たちのことを頼ってくれよな?」


 あやめと風太は俺の言葉にもう一度、頭を下げると俺たちの元から離れて行った。槌田原とは規模の違う豊稲羽の大通りだ。2人の小さな背中はすぐに人混みに紛れて俺たちからは見えなくなってしまった。


「……行っちゃったね。2人で大丈夫……かな?」


 2人を見送っていた俺に隣に立つ紅音がそう声をかけてきた。


「そうだな。……まぁ心配だけど、あやめはしっかりしてるし、何があっても樒真さんの書いたあの紙……何かの書状もあるし俺たちに連絡が来るだろうから大丈夫だと思う。

 ……いつまでもこうしてても仕方ねぇな。俺たちもそろそろ行こうか」


 俺はもう見えなくなっている2人から意識を逸らして、みんなにそう告げた。俺の言葉に、香乃葉さんたちも一つ頷いて、街の中心部の方へと方向を変え歩き出すのだった。


 さっき樒真さんが言っていたとおり、稲魂神社の本社はこの豊稲羽の中心に位置しているらしい。俺たちはこの街道からそのまま続いている大通りを中心に向かって歩いていく。

 この豊稲羽は七縁国の五つに割った五道のうちの一つ東木道の経済、流通、政治の中心地だ。それだけあって、この大通りも綺麗に整備された広々とした道の左右にたくさんの店々が立ち並んで繁盛している様子で町を行き交う人々もこの広々とした道の反対側が見えないほどの賑わいを見せている。

 俺と紅音は文字通り、初めて都会に出てきた田舎者なので豊稲羽の様々な街並みや見たこともない店の品々、行き交う人々などあちこちに忙しなく目を向けながら大通りを歩いていく。香乃葉さんたちは、そんな俺たちの様子を微笑ましいものを見ているかのように温かい目で見つめていたのだが、俺と紅音はそんなことには全く気づかず、あれは何だこれは何だと2人で大はしゃぎをしているのだった。


 こうして、大はしゃぎでいろいろなものを見ながら歩いている内にいつのまにかあたりの様子が変わってきていた。店が立ち並んでいた大通りだったのが大きな邸宅や施設が立つ街の中心部へと変わり、人々の雰囲気も町人や旅人といった雰囲気の人たちだったのが高そうな服を着た金持ちやしっかりとした衣装を見に纏った役人などが目立ち人の行き交いよりも牛車などの方が多く見られるようになっていた。

 

 そんなきっちりとした雰囲気の中心街だが、そのさらに中心にはその雰囲気の中では目立つ区画が存在していた。

 ──森……いや、離れたところからでも見える高さの備えた地帯……小さな山がそこへ聳え立っていた。


「珠生様。こちらがあなた様のお母上様であらせられる稲霊姫命がおわす地。──稲魂神社、その本社にございます」


 その山の前、稲魂神社へと続く階段の前で稲魂神社の巫女である香乃葉さんが俺にそう告げた。この山が見えてきた頃からおそらくそうなんだろうなと薄々感じてはいたんだが、やっぱりここが稲魂神社だったのか。流石、木行の女神の神社……というべきか、この山に生える木はその一本一本が目に見えてわかるほどに生命力に満ち溢れ、この山全体が強い霊力が満ちていることが感じられる場所だ。


 神社へと続く石畳の階段、その前に建てられた大きな鳥居。その鳥居を潜り抜けた瞬間、外からでも感じられていたこの山の持つ生命力や霊力が先ほどまでよりも一気に強まった。強い霊力に満ちる場所は、そこへ近づいただけでも人を威圧されて場合によっては体調崩してしまう場合もある──と、前に師匠からそう教えてもらったことがある。

 ……けど、この山の霊力は違う。この山の霊力は、俺たちの気分を落ち着かせてくれているのを感じる。正に前世でいうところのパワースポットってやつだ。……それに、この気配は……


「ふふふ。感じられますか? 珠生様。それは、この山に住まう準精霊たちです。珠生様はこの山、いえこの東木道の主人たる稲霊姫命のご子息。その珠生様がお姿をお見せになったので挨拶に集まってきたのでしょう」


 体の周りに集まってくる霊力の塊──準精霊に、俺が驚いている様子を見た香乃葉さんが俺にそう教えてくれる。

 ……これが、準精霊か。確かにここまで師匠を運んでくれた紙の人形に入って行った準精霊もこんなふうに霊力の塊だったな。というか三竹村でも時々見かけたわ、準精霊(こいつら)

 準精霊は俺の周りへとどんどんと集まって……っていうか群がっているが、このままでは先に進めない。


「わざわざ挨拶に来てもらってありがとな。……でも、俺この先に行きたいんだ、今はここを通してくんねぇか?」


 準精霊たちに向かって、俺はここを通りたいことを伝える。するとその言葉が届いたのだろうか、準精霊たちは俺の周りをクルクル回ったあと、階段の前を開いてくれる。


「ありがとな、お前ら! また後でちゃんと挨拶聞くからな!」


 俺は準精霊たちにお礼を言った後、石畳の階段を登り始める。すると、その後ろを香乃葉さんたちだけでなく準精霊たちもついてきた。紅音と樒真さんたちはその様子を驚いていたが、ただ1人香乃葉さんだけは楽しそうにニコニコと微笑んでいるのだった。


 稲魂神社の立つこの山は山と言っても小さな山であるなのでこうして階段を登って十数分もしない内に頂上──稲魂神社の鳥居が見えてきた。

 そして階段を登り切り、鳥居を越えるとそこには広々とした境内には、青い屋根をした大きな社殿とその隣にこれまた大きなお屋敷──おそらく稲守家のものだろう──が立っており、その社殿の前には二十数人ほどの人々が立っていた。

 その人々は、近づいてくる俺に気がつくと綺麗に揃ったお辞儀をする。そして、人々の中心に立っていた壮年のどことなく香乃葉さんや樒真さんに似た男性が一歩前に出て重々しく俺に告げた。


「稲霊姫命を奉じる稲魂神社の祭司である我ら稲守一同、あなた様をお待ちしておりました。──我らが神子、珠生様」

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