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第23話 出発

 香乃葉さん達との話し合いの翌日、俺と香乃葉さん達一行──紅音は師匠の看病のために居残った──は今後の話をするために村長の家を訪ねた。一連の話を聞いた村長さんは、


「なるほど。珠生くん達2人の霊術の修行と重衛殿の治療のために、あなた方ともに稲魂神社へと向かう……と。

 そして霊術を使える人間がこの村からいなくなってしまうから、稲魂神社から霊術士を派遣していただけると」


と、話の整理をする。俺が神子であると言うことをどうやら、稲魂神社の面々はできる限り内密しておきたいらしい。そこで、対外的には俺と紅音の霊力の才を買って、それを鍛えると言う名目にしておくらしい。──村長の話に樒真さんは頷くと、


「ええ。我々稲魂神社は現在この東木道を治めています。彼らがここに留まるかどうかに関わらず、この村には霊術士を派遣して保護する責任があります。ですが──」


「──同時に私たち三竹村にも、この村には税を払う義務がある、と。

 この村は七縁国ができるより以前に私どもの先祖が興した村です。今まで七縁国とはほとんど関わりを持たずにやって来ましたが、こうなっては仕方ないのかもしれませんね。

 ……わかりました。樒真様……とおっしゃいましたね。こちらで、しっかりとお話させていただけますか?」


 そう言うと、村長さんは樒真さんと共に部屋に残り話し合いを行うようだった。話し合いを行うが樒真さんなのは、本来樒真さんが神子創作部隊の隊長だからで、昨日香乃葉さんが主に話していたのは稲魂神社の本社の巫女として、ということらしかった。


 村長さんの家をでた俺たちは、香乃葉さんにこの村のことを案内することにした。案内をしている間、香乃葉さんはいろいろな場所を真剣に観察したあと、俺にどうやってこの村で過ごして来たのかと問いかけて来た。なぜそんなことを聞くのかと聞いてみると、


「──神社に戻った後に稲霊姫様にしっかりと、珠生様の生活についてご報告差し上げねばいけませんから」


ということらしい。って言ってもそんなに特別なことをこの村でして来たわけじゃねぇから大して話すこともないんだけどなぁ? そんなことを考えながら、村の至る所で飛んでくる香乃葉さんからの質問に答え続けるのだった。


 そうして、村中を案内して周り、夕方になってようやく華垣家に戻ってくると家の前に、2つの人影があるのが見えた。近づいていってみると、それは竹松さんと竹助の村長さんの息子兄弟だった。


「──竹松さんに竹助、お2人ともどうしたんですか? こんなとこで」


「ああ、珠生くん。……重衛殿がまだ目を覚まされてないと聞いてお見舞いにね。

 ……重衛殿や君には息子を……竹一を、助けてもらった。本当ならすぐにでもお礼に伺うべきだった。

──息子の命を助けていただき、本当に……本当にありがとうございました」


 竹松さんは俺に向かってそう言うと、深く頭を下げてくる。その姿からは、俺や師匠(重衛のおっさん)への──いや、息子(竹一くん)を救った者に対しての深い感謝の気持ちが伝わって来た。


「──そんな気にしないで……いや、守る事ができて良かったです。

 ……とは言っても俺はあの妖と戦ってただけで、竹一くんを守ってくれてたのこっちの香乃葉さんなんですけどね」


 俺が苦笑しながらもそう言うと、竹松さんは俺の隣に立っている香乃葉さんに意識を移す。


「──そちらの方は?」


「こちらは、稲魂神社の巫女の稲守 香乃葉さんです。

 あの時、俺と妖が戦ってるそばで師匠の治療をしてくれてたんです。

 竹一くんのことも守ってくれてたんですよ」


 俺がそう紹介すると、香乃葉さんは一歩前に出て竹松さんへと軽く会釈する。そして、竹松さんは俺が言った香乃葉さんが竹一くんを守っていたと言う情報に目を見開いたあと、慌てて香乃葉さんへと深々と頭を下げる。


「──! そうでしたか! あなたが、例の……。

 あなたにも、息子を助けていただいたそうで、重ね重ねありがとうございました」


「いえ、私はあの男の子──竹一くん……でしたか? のそばにいただけで妖を倒してあの子を守り切ったのは珠生様ですから。あまりお気になさいませんよう」


「そう……ですか……? とにかく2人には助けられた。本当にありがとう。もう、色んな村人から伝えられていると思うが、みんな本当に感謝しているよ。

 だが、君たちはそうも言っていられない状況だろう。……重衛殿については回復の目処は立っているのかい?」


「──それついて……なんですけど……」


 俺は師匠の治療と俺たちの修行のために稲魂神社に向かうことになったことを2人に伝える。──すると、今まで話を聞いていただけだった竹助が突如として声を上げた。


「──ッ!? 稲魂神社に行くって、それっていつまでだよッ!?」


「んー、正直わかんねぇ……けど、師匠もどのくらいで治療が終わんのかもわかんねぇし、治ったとしてももう穢獣狩りはできねぇだろうからなぁ。もうここには戻ってこねえかもしんねぇ。

 昨日決まった事とはいえ、こんな突然になって悪かった」


 俺がそう言うと、竹助は一瞬身を固まらせたあと、


「──そうか」


と一言だけ言って走り去っていった。


「──おいっ! 竹助ッ!? すまない、珠生くん。あいつも、心の整理がついていないだけだと思うんだよ。許してやってくれないか?」


「はい、わかってます。──本当に突然で申し訳ないんですけど、3日後には街を出ることになると思います。香乃葉さん達の予定もあるんで」


「そうか。そんなに早く出ないといけないんだね。

 出発の日は見送りに行かせてもらうよ」


 こうして、この日は竹松さんとも別れて家に帰った。その後、俺たちは稲魂神社に向かう準備をして出発の日まで過ごすのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 出発の日の早朝、俺と紅音、そして稲魂神社の面々は華垣家の前に集合していた。俺たちは稲魂神社のある木霊郡の豊稲羽(とよいなば)を目指すために、まず木霞山脈を越えて槌田原(つちだはら)って町に向かうらしい。そのために、裏に目的の町に続く木影山があるこの華垣家に集合することになった。


「──では、珠生くん紅音ちゃん、気をつけて行ってくるんだよ? 

 重衛殿もちゃんとお医者さんに診てもらえればきっと目覚めるだろう。だから、2人は安心して霊術の勉強をして来なさい。

 稲魂神社の皆様、この2人のことをよろしくお願いします」


「──この2人は霊術に関して確かな才を感じました。私どもの神社でしっかりとその才を育ててみせますからご安心ください」


 見送りに来てくれた村長さんの言葉に樒真さんが村長の目をしっかりと見つめてそう返す。村長さん達は、こんな朝も早いと言うのに家族総出で見送りに来てくれた。

 村長さん達は見送りに来るだけでなく、俺たちに選別の品を持たせてくれた。俺には青い色の着流し、紅音は赤い小紋という俺たちの瞳の色に合わせた着物をそれぞれもらった。(みつ)さんとちよさんには立派なお弁当を作って持たせてもらった。

 村長さん一家は竹一くんを守ったことを大変に感謝してくれているらしく、こんなに色々な世話を焼いてくれているらしい。本当にありがたい。


 そんなこんなで、村長さん達とそれぞれ別れの挨拶を交わしていたのだが、ふと気づくと今まで端の方で俺たち──というか俺から視線を逸らして立っていた竹助が俺のそばまで近づいて来ていた。


「……よう」


「……おう。……こないだは、お前も伝える暇なんてなかったってのに、あんな態度とって……悪かったな」


 竹助はそう言って俺に頭を下げる。……伝えてなかった俺の方が悪かったっていうのに義理堅いやつだよな。


「……あの時も言ったけど、俺の方こそ伝えてなくってごめん」


「……お前、紅音も一緒に行くんだからあいつのこと守ってやれよ?」


 竹助は俺に向かって突然そんなことを言ってくる。……守ってやれって、そんなことなんで竹助(こいつ)が木にするんだ?


「……? まぁあいつになんかあったら俺も出来ることはするけどよ……? ……うーん、よくわかんねぇけど、とりあえず紅音のことは俺に任せといてくれ!」


 竹助は俺の言葉にうーんと頭をかいた後、


「まぁ、お前はそういうやつだよな。とにかくそういうことだ。紅音のことは任せたから、三竹村(こっち)のことは任せとけ! 

 ──あ! あと! 今度勝負する時は強くなって俺が勝つから覚悟しとけ!!」


 そう言うと竹助は、俺の方に拳を突き出してくる。突き出された拳を見た俺は小さく笑った後、


「俺ももっと強くなっから、お前には負けねぇよ!!」


 そう言って突き出された拳に己の拳を合わせた。そうして俺たちが笑い合っていると、樒真さんから声をかけられる。


「──おーい、2人ともそろそろ出発しようか!」


「もう、行かなきゃなんねぇみたいだな。向こうに行っても元気でやれよ?」


「──おう!! お前も元気で暮らせよなっ!!」


 七行暦206年酉の月、俺と紅音は三竹村を後にしたのだった。




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