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第21話 女神の子

 狼の妖を倒した後、俺と香乃葉さんは師匠を連れて避難所となっている家へと急いで戻った。俺に担がれて運ばれてきた師匠を見た紅音はこちらへと急いで駆け寄ってきた。そして、己の父の右腕がないことに気がつき、小さな悲鳴をあげた。


「──っ! お父さんっ!!」


「大丈夫……とは、いえねぇけど。とりあえず、香乃葉さんが霊術で手当をてしてくれてたから、命に別状はねぇ……よな? 香乃葉さん」


 俺は、師匠を家の中まで運び寝かせながら香乃葉さんにそう問いかける。それに対して、俺について動いてくれていた香乃葉さんは、


「ええ。血がかなり流れてしまっていたので、一時は危険な状態でしたが応急処置はなんとか成功しました。流石に失った腕を生やすことはできませんが、ご心配ありませんよ、紅音さん」


と返す。紅音はその報告を聞き、現状は大丈夫なことを察して一応の冷静さを取り戻す。そして、香乃葉さんの方へと向き直り頭を下げる。


「──ありがとう、香乃葉ちゃん。あなたがいなかったら村の人たちもお父さんも助けられなかった。」


「俺からも礼を言わせてくれ。ありがとう、香乃葉さん。俺じゃあ、あのまま師匠を看取ることしかできなかった。感謝してもしたりねぇよ」


 頭を下げる俺たち2人の様子を見て、香乃葉さんは静かに微笑むと、


「頭をおあげください、お二人とも。私はやるべきことをしただけです。──それよりもこの事態はまだ収まっていません。今はこの状況をなんとかしなければ」


 香乃葉さんの言葉に俺たちは頭を上げ、顔を見合わせて頷きあう。そう、妖は倒したが村人全員の避難が完了した訳でも、穢獣を全て倒した訳ではない。樒真さんもすでに村人の救援に戻ったようだしな。


「──ああ、そうだな。俺たちもここでじっとしてる訳にもいかねぇ。とりあえず、村の人たちを助けにいかねぇとな。ここにも穢獣が来るかもしれねぇ。師匠(おっさん)のこともあるし、ここは紅音に頼んでもいいか?」


 俺のその問いかけに、紅音は一瞬悩むような様子を見せたが、すぐさま笑顔で頷いた。


「わかったっ! お父さんとうちのことは私に任せて、珠生は村の人たちを助けに行ってあげて!」


「おう! ありがとな。おかげでここのことを気にせずに戦える。村のみんなはちゃんと連れてくっから待っててくれ。──香乃葉さん! 師匠みたいに怪我してる人もいるかもしれねぇ。でも、俺は治療することができない。だから、よければ一緒に着いてきてくれねぇか?」


「もちろんです、珠生様。稲守に連なるものとして、この状況を放っておくわけにはまいりません。穢獣退治でも村の方々の治療でもなんでもお任せください。──ですが、その前に。紅音さん、こちらを」


 そういうと、香乃葉さんは紅音に対して懐から何枚かの札を取り出して紅音に差し出す。


「──これは?」


「治療用の霊符です。術式は刻んであるので、霊力を流し込めば使うことができます。これでここに今いる怪我人の方々やこれから来られる怪我人の方を治療して差し上げてくださいませんか?」


「ありがとうっ! これがあれば、私でもここの人たちは助けられそうだねっ! ──うん。ここはもう心配ないから、2人とも早くみんなのところに行ってあげて」


 俺はその言葉に頷くと左手に威鳴を呼び出す。初めて見るその光景に紅音は驚いているようだったが、今は何もいう気がない様子だった。俺は香乃葉さんと見つめ合うと一つ頷いて村の人々の救援へと向かうのだった。その後、俺たちは協力して穢獣に襲われていたり、崩れた建物などに巻き込まれてしまった人たちを助け出しつつ、穢獣もどんどんと倒していき日が暮れる頃にはなんとか村に入り込んだ全ての穢獣を倒すことができたのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 それから、数日が経った。結局、村の中に入り込んでいた穢獣は大小や強弱は様々であったがその全てを合わせると300を超えていたらしい。とんでもねぇ数だな、おい。あの1体の妖からこんだけの量の穢獣が生まれたってのかよ? なら、もう少しでも(あいつ)が襲ってくるのが遅かったら……いや。そもそも、樒真さんたちがここに助けに来てくれなかったら、数の暴力に押し負けちまってただろう。まぁ、過ぎたことだ。樒真さんたちには感謝してるが、それよりも考えないといけねぇのは、今の村の現場の方だろう。


 妖たちの襲撃によって三竹村は甚大な被害を受けた。村の建築物のほとんどは穢獣の攻撃によってどこかしらが損壊し村の中心部、村長の家付近はあの狼の妖によって甚大な被害を受けてほとんどの建物が崩れてしまった上、……俺の……俺の、最後の一撃によってかなりの範囲に地割れが起こってしまった。これに関しては、村長さんのところ行きちゃんと謝罪しに行ったのだが、


「村のみんなの命を救ってもらったっていうに、その方法にまでケチをつけようだなんて、そんな恥知らずな真似はできないよ。

 ──珠生くん、むしろ礼を言わせておくれ。君たちや、あの村の外から助けにきてくださった方々のおかげでたくさんの村人の命、そして竹一の命が助かった。この村の長として、竹一(あのこ)の祖父として礼を言わせて欲しい。

 珠生殿、この村をお救いいただきありがとうございました」


と、逆に頭を下げられてしまった。竹松さんや周りにいた他の家の人たちも同じようにお礼を言ってくれる。妖の襲撃で失ったのは何も建物や物品ばかりではない。かけがえのない村の人々の命も失われてしまった。怪我をした人たちもかなりの数に登っているだろう。それでも村の人たちは、俺たちに非難を浴びせることもなく、みんなが俺たちに感謝の言葉を送ってくれる。そんな姿を見ていると、数日前の俺自身の姿を思い出した。


 ──自分自身が救われるだけじゃなく、自分の大切な人たちが救われる、そんな時にも人は救われたという気持ちを抱く。それは俺自身、香乃葉さんに師匠を助けられて感じたことだ。


 俺は何もかも取りこぼしていたような気がしていた。でも、そんなことはなかった。俺は誰かを助けることができていた。それに助けた人を大切に思う人たちも感謝の気持ちを持ってくれている。自分で思っているよりも、たくさんの人を助けることができていた。──そのことに、俺は救われたような気がした。確かに助けられなかった人はいる、もっと力をつけてそういう人たちも助けられるようになりたい。そうは思う。だが今、村のみんなのくれた感謝の気持ち。誰かを救うことができた──その事実は俺をこれからも奮い立たせてくれる、そう思うことができたのだった。


 それからは、この数日間、俺は村の復旧を手伝ったり、紅音や香乃葉さんたちと山に残っているかもしれない穢獣が村に降りてこないかを見回ったりして過ごした。こうして徐々に三竹村は平穏を取り戻しつつあったのだが、俺と紅音の胸の内には一つの不安が渦巻いていた。──師匠(重衛のおっさん)が目を覚さないのだ。


「お父さん、今日も起きないね」


「……ああ。そうだな。……でも、傷は香乃葉さんが治療してくれたんだ。そのうち、目を覚ますさ!」


「……そう、だよねっ! 手当はうまくいったって、香乃葉ちゃんそう言ってたもんねっ!」


 失った右腕の傷は香乃葉さんが塞いでくれたとはいえ、右腕を失うほどの重症だ。数日、目を覚さないのも当然なのかも知れない。だが、家の中で眠り続けている師匠の姿を見ていると俺たちにはいい知れぬ不安が巻き起こってくる。しかし、お互いそれを口にして余計に気持ちを下げないようにしようと努めて普通に接しようとしていた。そして、お互いがそれを感じ取り華垣家の空気はギクシャクとしたものになってしまっていたのだった。


 そんな空気の中だった。突然、家の戸が叩かれる音がした。俺と紅音は、音のした玄関の方へと同時に顔を向ける。


「──誰だろう? 村長さんかな?」


「さぁ? わかんねぇ。俺、とりあえず様子見てくるよ。紅音はおっさんのこと見ててやってくれ」


「うん、ありがと」


そんな会話をして、俺は玄関へと出向いていった。そして土間で草履を履き、玄関の引き戸を開く。──そこに立っていたのは、香乃葉さんと樒真さんたちだった。後ろを見てみるとこの数日の間に目にした、樒真さんたちと話をしていた4人の男女も連れて、この村に来た一団全員でこの家に来ているようだった。俺が何のようだろうかと、考えていると一団を代表するように1人前に立っていた香乃葉さんが口を開いた。


「──少々、珠生様にお話ししたいことがありまして。失礼とは思いますが、上がらせていただいてもよろしいでしょうか?」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 紅音とも相談して家に上がってもらうことにした俺たちは、師匠の眠る居間で香乃葉さんたち一行と向き合うように座りあった。香乃葉さんは挨拶も早々に本題へと入っていった。


「単刀直入に申します。珠生様、紅音さん我々に着いてきてくださいませんか?」


 香乃葉さんからの突然の申し入れに、俺と紅音は目を見開いた後、頭に(ハテナ)を浮かべる。その様子に香乃葉さんは一つ頷いた後、また話し始めた。


「ふふっ。単刀直入とは言っても流石に突然過ぎますよね? ならば、言い方を変えましょう。お二人に着いて来ていただければ、もちろんそこで眠っておられる華垣重衛殿にもご一緒に来ていただくことになります。そうすれば、我々の責任でしっかりとした医師をつけて治療させていただきます」


「──っ!! お父さん、助けてくれるのっ!?」


 香乃葉さんの言葉に飛び上がる紅音を手で制して俺は、問いかけた。


「香乃葉さんたちには感謝してる。師匠のことも、村のことも助けてもらったからな。でも、どうしてだ? どうして、俺たちにそこまでして良くしてくれる? なんで、俺たちを連れていきたいんだ?」


 香乃葉さんは柔らかに微笑んで言う。


「正確に申し上げれば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」


「──俺一人(・・・)?」


 俺が訝しむように目を細めると、香乃葉さんは言葉を続ける。


「ええ。珠生様をお連れする(・・・・・・・・・)、それが()()()()()()()()()()()()()()使()()()()。」


「稲魂神社……?」


「──申し遅れました。改めまして、私、稲魂神社本社にて今代の巫女(・・)を務めさせていただいております稲守 香乃葉と申します」


「稲魂神社本社の次期宮司を任されている、稲守樒真と申します」


 一団の前方に座っていた樒真さんたち兄妹が挨拶してくれるが、その中に俺は聞き逃せない一言を耳にした。


「……巫女……?」


「──知ってるの? 珠生?」


 巫女という単語に反応した俺に紅音が問いかけてくる。……巫女……どこかで……?


「……はっきりとは思い出せねぇんだけど、紅音たちと出会うよりもっと前、あの山で目覚める前に……確か……誰かに……! そうだ! 誰かはわかんねぇけど、誰かが俺に言ったんだよ! 巫女を探せって!」


 そうだ。忘れてたけどあの時、なんかあったかい場所で女の人にそう言われたんだよ! 何で今まで忘れてたんだ? そんなことを考えていると、俺の言葉を聞いた香乃葉さんが口を開いた。


「……恐らく、それは我々稲魂神社の奉じる女神──木行を司る狐の豊穣神『稲霊姫命(いなたまひめのみこと)』様のお声でしょう」


「……稲霊姫命……? それに神って……?」


 突如告げられたスケールの大きすぎる言葉に俺が信じられず、狼狽していると香乃葉さんは続きざまに決定的な言葉を告げた──


「──稲霊姫命様は珠生様、あなた様のお母上です(・・・・・・・・・・)

 あなた様は、この七縁国(しちえんのくに)を見守る七行大神(しちぎょうのおおかみ)その一柱たる女神、稲霊姫命様のたったお一人の御令息──『神子(・・)』なのです」


──こうして俺の、女神の子の物語(・・・・・・・)が幕を開けたのだった──

これにて第1章は終了となります!

もし面白いと思っていただければ、評価、コメント等いただければ嬉しいです!

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