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第17話 災禍襲来

 その獣にとって生きるとは奪うことだった。初めて奪ったのは獣がこの世界に生まれ出てすぐのことである。目を開けた時に、すぐそばにいた者たちの命を奪い、そしてそいつらを喰らった。貧弱な声でただただ泣き喚くだけのそいつらは獣にとってとても耳障りだったのだ。そいつらを喰らって静かになったと思っていると、そこへ何かが現れて唸り声を上げた。それは、自分よりも大きな獣だった。その獣はこちららを睨見つけているようだった。それがなぜ自分を睨みつけているのかはわからないが、獣にとってそれは不快なものでしかなかった。──だから、獣はそれの首に噛みつき首の肉を抉り取った。それは、情けない声を上げながら首から血を流して倒れ伏した。それを見て獣はようやくしずかになったと感じる。そうして獣は煩わしいものの命を奪い、喰らって生きてきた。何十、何百と喰らったころ、不思議なことが起こった。突然獣の体が大きくなり獲物を引き裂く爪もより鋭利に大きく進化していた。だが、獣にとってそれはどうでもいいことだった。穢獣(けだもの)はただ周りの生き物の命を奪って喰らい続けた。

 その日も、穢獣は目障りなものたちを斬り裂き、潰してその命を喰らっていた。だから、その獲物(こども)も普段と何も変わらない、目障りな食糧でしかないはずだった。しかし、その獲物は自らの体に牙を突き立ててきた。穢獣の体の周りを羽虫のように飛び回り、その小さな体躯に見合わぬ大きな爪で穢獣の体を斬りつけてきた。穢獣にとってそれは大した傷をつけるものではなかったが、その態度は穢獣に怒りを抱かせるに充分なものだった。穢獣はその腹立たしい獲物が、足を滑らせたのを見逃さずに自らの爪を叩きつける。


 しかし、その一撃ももう一匹の小さな生き物によって威力を下げられてしまった。全くもって腹立たしい。もう一度やつを叩き飛ばさなければ、獲物(あれ)は動きを止めない。仕方なく獲物のそばに近づいていくと、突如獲物の纏う空気が変わった。それを感じた──次の瞬間。穢獣の視界の半分が突如として消え去った。


 それは、穢獣にとって初めての深手であった。穢獣は一瞬、何が起こったのかわからなかったがそれを理解した瞬間、常に怒りを感じ続けてきた穢獣にとっても感じたことのない激しい怒りに包まれる。絶対にこの獲物をズタズタに引き裂いてやる──穢獣は、そう決意した。


 しかし、先ほどまで目で追えるようになっていた獲物の速度はさらに向上し、穢獣には終えない速さになっていた。獲物が穢獣の体を更に切り裂いていき、遂に穢獣の命が尽きようとした時、突如として獲物の動きが止まり地に倒れ伏した。


 穢獣にとってそれは千載一遇の好機であった。穢獣は力の入らない体に無理矢理力を入れて、その忌々しい獲物の命を奪いに動く。獲物はわずかに動く頭を動かして、こちらを睨みつけてきた。


 その視線は以前にもどこかで見たような気がしたが、もはや穢獣にとってはどうでもいいことだった。穢獣はその獲物に爪を突き立てる──寸前、穢獣の体が焼けつくような凄まじい熱を帯びた痛みと共に穢獣の体は引き裂かれる。穢獣は薄れゆく意識の最中、自身の体を斬りつけた炎の()を持つもう一匹の生き物を見た。そして、その生き物に憎しみを募らせながらその命を潰えた──はずだった。


 次に目覚めた時、穢獣の体は大きく変わっていた。体は前よりも小さくなり、頭は今までよりもずっと冴えているのを感じた。しかし、穢獣の頭の中にあったのは一つの考えだけだった。


──必ずあの獲物と邪魔していきたあの敵を引き裂いてやる!!──


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 山狩の最中、村の方から上がっていた煙を見て、焦って戻った俺たちの目に入ったのは──穢獣の群れによって焼き払われた三竹村の姿だった。災禍に飲まれ、炎に巻かれる村からは穢獣どもの雄叫びと村人たちの悲痛な叫び声が木霊していた。


 ──なんだこれは!? どうなってる!? 今朝、家を出た時には村はいつも通り静かで穏やかな村だった。それなのに、こんな……!! ……どうして!!──その瞬間、俺の頭の中にイヅナの顔が浮かぶ。……また、俺は失うのか? 修行して、霊術を身につけて、ようやく力を手にしたっていうのに……!! それでも、まだ足りないってのか!? 


「……ふざけるな(・・・・・)!!」


 俺の口から自然とその言葉が漏れ出ていた。……そうだ、俺はもう何かを失うのはごめんだ!! その思いは俺の頭──気持ちだけでなく、俺の体を動かす。無意識足に力が入り、村へ向かって駆け出す。その俺の動きとほぼ同時に隣にいた紅音も走り出した。


 ──しかし、俺たちのその歩みはすぐに止められることになる。おっさん(師匠)が、俺たちの前に立ちはだかっていたのだ。


「待てッ!! お前ら、早まるんじゃねぇッ!!!」


「──ッ!! ッなんで止めるんだよ!! おっさん! このままじゃ、村がッ!! 間に合わなくなんだろうがッ……!!!」


「っそうだよっ!! お父さん!! 早く行かないとみんながっ!!!」


──ドゴォォォォ!! 師匠(おっさん)の霊術によって轟音を巻き起こしながら、俺たちのそばの地面が抉られる。


「……ふぅ。……ちったぁ、気は落ち着いたかよ?」


「「……ああ(うん)……」」


「……そうか。いいか? 俺は何も助けに行くなっていうんじゃねぇよ。闇雲に突っ込んで行っても助けられるもんも助けられねぇって言ってんだよ」


 おっさんは、俺たちがおちついた様子を見て腰の鞘へと自身の霊刀を納めながらそういった。


「……じゃあどうするって言うんだ?」


「──まずは避難場所を用意する。俺たちの住む家なら多少の結界が張ってある。──俺は、結界を張るのは苦手なんで、たいした守りになるかはわからんがな。」


「──そんなもんがあったのか。でも、それなら多少は大丈夫なんだな。なら、ここからは──」


 その俺の言葉を引き継ぐようにおっさんが三本指を立てて見せる。


「──三手に別れて、避難誘導を行う。正直、お前らはまだ半人前と呼ぶことすら烏滸がましい力量なんだがな? 

 それでもこの村で単独で穢獣を倒すことができんのはここにいる俺たち3人だけだ。遊ばせておくわけにもいかねぇからな。

 ただ、お前らを守ってる余裕はねぇから行くんなら、手前の身は手前で守れ。それでいいな? 珠生、紅音!」


「──押忍ッ(はいっ)!!」


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 2人と別れた俺は、雷の霊力を使い俺にできる最高速で自分の担当である村の東側へ向かった。


「我流 隼雷【天翔(てんしょう)】ッ!!」


 倒れ込んだ村人の男へと穢獣の凶爪が襲おうとした瞬間──そこへと走り込んでいた俺の一撃が穢獣の体を引き裂く。俺はその勢いのまま周りに集まっていた穢獣を根こそぎ斬り倒す。


 ……なんつー数だよ!? 今、倒した穢獣で村に入ってから俺が倒した穢獣は、10を超えた。ここに来るまでの間だけでこの数だ。村全体で見ればいったいどれだけの数の穢獣が襲ってきてんだ? 


 ──とにかく今は村のみんなを避難させなきゃ行けねぇ。今、襲われていた村人を助け起こし、俺は大声で叫ぶ。


「みんなーッ!! こっちだァ! 村外れの華垣のおっさんの家まで避難しろーッ!!」


 村からここまでの間にいた穢獣は俺が倒しておいたので、避難をする分にはある程度は安全に進めるだろう。俺が辺りを見渡していまだに逃げ遅れている人がいないかと思っていると、ふと俺の方へ向かって走ってくる人影を見つけた。あれは──!


「珠生くんっ!」


「──竹松さんっ!! 無事だったんだな!!」


「珠生くんこそ無事でよかった。重衛殿たちは?」


「今は手分けして村の避難誘導に向かってる。それよりも、何があったんだ? 今朝は、こんな兆候なかったって言うのに?」


「ああ。それは──」


 竹松さんの話によると、どうやらこの穢獣の群れは突然、村に襲いかかってきたらしい。数はゆうに100を超え、竹松さんたち村の自警団も必死に戦ったがなすすべもなくやられてしまい、今に至る──と言うことだった。


「──なるほどな。しかし、なんでまた突然こんな数の穢獣が……?」


「……それは俺たちにはわからない。と言うより今になってはあまり考える意味がないと思う。

 それよりも、珠生くん。このまま村の中で戦うなら気をつけてくれ。穢獣の中に妙に強い奴がいる」


「妙な奴?」


「ああ。狼の穢獣なんだが体躯の割に速度と力が尋常じゃないんだ。何かを探しているようで俺は直接戦ったわけじゃないが、霊力の使えない俺でもはっきりわかる。あれが今回の群れの中で1番強い。

 ……避難場所は、君たちの家だったね? 俺はそろそろ避難誘導に戻るけど、くれぐれもその穢獣には気をつけてくれ!」


 そういうと、竹松さんはまた避難誘導をするために俺のそばから離れていく。……狼の穢獣か。まさかな──そんなことを考えていた時だった。


「きゃああぁぁぁっ!!」


 突如を俺の耳に入ってきたその悲鳴の方へ顔を向ける。そこには、かつて俺が勝負をしたあの高台で、10体以上の穢獣に囲まれた竹助たち村の子供の3人組がいた。


 くそっ!! なんだってあんなところにっ! 俺は、心の中で悪態をつきながらも雷の霊力を全力で引き出し、まるで壁を走るかのように高台の崖を駆け上っていく。しかし、俺よりも穢獣たちの方が竹助たちに近い。俺は必死で崖を登り切り、竹助と穢獣の上空へと飛び上がる──間に合うかッ!? 


「我流 『飛雷刃(ひらいしん)万雷(ばんらい)】』ッッ!!!」


 俺は、穢獣たちと竹助の間を縫うように飛び込むとすかさず、我流剣術の中の突き技を連続で抜き放つ。──よしっ! これでっ!! と、竹助たちに襲いかかっていた穢獣を倒し、竹助の方へ目を向けた瞬間、とんでもない光景が俺の目に入ってくる。


 そこには、俺の死角だった場所に立っていたつきに穢獣が襲い掛からんとしている様子だった。──ッ! まずいっ!! すでに穢獣の鋭い爪はつきへと振り下ろされようとしている。これでは今から飛び出しても、間にあわなッ──


「つき、逃げッ──!」


 俺がそう叫んだ瞬間だった。突如、穢獣の前に人影が割り込み刀を抜き放つ。


木霊(もくれい)流 『椙断(すぎだち)』ッ!」


 その声と共に、つきに襲いかかっていた穢獣は真っ二つに叩き割られる。倒れ伏した穢獣によって土煙が巻き起こる。


「──ふぅ。なんとか間に合ったね」


──土煙が立ち消えたその場所に立っていたのは、俺と同じ青い瞳をした(・・・・・・・・・・)10代後半ぐらいの歳の青年だった──


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