第11話 三竹村、村長宅にて
「珠生、お前ちょっと村の人たちに挨拶回りしてこい」
釣りの修行から帰ってきた次の日の朝、紅音の作ってくれた朝食を食べていると重衛のおっさんに突然そう言われた。
「え? なんだよ突然? 今日から第二段階を常に使うための修行をするんじゃないのか?」
昨日は、あの釣りの帰りからずっと第二段階を常に意識して使い続けようとしているんだけど、これが難しい。
霊力の放出、これ自体は特に問題ない。なんてったって、霊力を薄く体に纏わせるだけだからな。大した量の霊力を使っている感じもしない。けど、その霊力の放出量の調整と薄く纏うように霊力を操作する──これがなかなか難しい。日常生活をしながらもう一つの動作を同時に行うわけだからな。なかなか集中力を使う。だから、何か修行をするんだと思ってたんだけどな?
「ああ? 修行? そんなんもんねえよ。この第二段階の常態化っていうのはよ。ただただ慣れるしかねえもんだよ。意識せずに常に発動してられるようになるまでじっくりと頑張るこったな」
「──うっ。……まぁそういうもんだよな。わかった、ゆっくりと頑張ってみるよ。……で? 村への挨拶回りっていうのはどういうことなんだ?」
「そりゃあ簡単だよ。お前が第二段階を常態化できるまで、次の段階へは進めない。次の修行はできない、ってわけだ。というわけで俺はその間、山に入って狩りでもしてこようってわけだ。そろそろ、仕事しないといけねえしなぁ。後、ついでに町へ行って買い物もしてくることにする。」
──山に入って狩りをしてくる、か。そう言えば重衛、最初に会った時に言ってたっけか。山で獣や穢獣を狩ってるって。と、味噌汁を飲みながら俺はそんなことを考える。
「山に入るって、今回はどのくらいになりそうなの? お父さん」
「あー。町にも行くわけだからなぁ大体10日ってところか? つーわけだ。俺もいないわけだからその間にお前、いい機会だから村のみんなに挨拶回りしてこい。もちろん第二段階は常に使いづけておけよ」
「なるほどね。事情はだいたい分かった。けどよ? 俺、この村のことなんも知らねえぞ?」
この村に来てもう数日経つが、この村の地理や人も何もわからねえ。なにせ、もともとこの村に来た時は動けなかったし、動けるようになってからも修行が始まったりでほとんどこの村で出歩いたことがない。そんな状態だからなぁ。挨拶回りをしろって言われてもどこに行ったらいいのかわからねえ。
「おう、そこは問題ねえよ。俺はいけないが、代わりに紅音を案内につけてやるよ。頼めるな? 紅音」
「うんっ! 任せて、珠生っ!」
「そっか! それは助かる。ありがとな! 紅音」
というわけで、朝食を食べ終えると俺たちはすぐに身支度を済ませて家を出た。華垣家は、この三竹村の外れに位置していて、すぐ裏手には昨日釣りに出かけた木陰山があり、村を通ることなく、山に向かうことができた。しかし、村の挨拶回りといっても、いったいどこから回るのか──と思っていると、
「まずはね? 村長さんに挨拶しにいこっ!! こっちだよ! 珠生!」
だそうだ。この三竹村は、四方を山に囲われた村で木霞山脈の中に位置しているそうだ。なんだか暮らしづらい場所にあるような気がするが、おっさんが言うにはこの国ができるより前、木霞山脈の近くを支配していた豪族が結構な悪徳領主だったらしく、そこから逃げ出した人々がここへ逃げ延びて村を築いたらしい。
こんな山の中に隠れ住んで村を起こしたためか、この村はこの村だけで完結できるよう様々な施設があるらしかった。そんなことを思いながら紅音と村を歩いていると、いつのまにか、村長の家に着いていた。村長の家は三竹村の中心にあり、華垣家からは少し距離があるのだった。
「──いてくれ。……おや? そこにおるの華垣殿の家の紅音ちゃんかい? 今日はどうしたんだい?……それと、そっちの子はもしかして……?」
村長宅の角を曲がり、家の前に出ると、そこには重衛のおっさんよりも、少し年上だろう──と言う年齢の男性がいた。穏やかな雰囲気を身に纏った、人斬り殺してそうな顔のおっさんとは違い、温和そうな顔つきの男性だ。男性は農民にしては身綺麗な服──和服なんて前世の記憶の知識では知らなかったがこの体の知識でなんとなく分かった──を着ていた。にしても、この人は俺のことを知っているようだ。おっさんから聞いたのだろうか? と言うことは、だ。おそらくこの人が──
「村長さん、こんにちはっ! 今日はね、珠生の挨拶回りに来たんだっ! それで、こっちが珠生。この間、お父さんが連れてきた子でね。お父さんの弟子になったんだ。」
「初めてまして。名前は珠生って言います。重衛師匠に弟子入りさせてもらうことになりました。これからよろしくお願いします。」
やはり、この人が村長さんみたいだな。農民にしては服が綺麗すぎるもんな。──いやぁ、それにしても、前世の知識があってよかったな。これがあるおかげなーんにもわからない俺が、ある程度敬語を使って喋れるんだからよ。
「はい、よろしくね。私は村長の竹蔵だ。珠生くんは大体、紅音ちゃんと同じくらいの年頃かな? と言うことはうちの子とも大体同じくらいだね。──あっ! そうだ。ちょうど家族がみんな家にいるから挨拶していくといい。──おおい、例の華垣さんのとこの子が来たぞー!」
村長さんは、そういうと家の中に入っていき中にいるのであろう家族にそう呼びかけた。すると、家の中からドタドタと言う足音が響き、少しすると家の中から5人のひとびとが外へ出てきた。5人は、珠生の目の前、村長の横に並び立っていた。
「──さてと。珠生くん。これがうちの家族。まずは──」
村長の言葉に、村長と同じ歳ぐらいの女性が一歩前に出る。
「妻の光だ。」
「光と申します。あなたが、例の華垣さんのところの子ね? 華垣さんには獣や穢獣から守っていただいているから、何かあったらうちにいらっしゃい。」
村長の奥さんである光さんが俺にそう挨拶すると、隣にいた3人が前に出る。そして、そのうちの1人である村長を少し若くしたような穏やかな雰囲気の青年が俺に声をかけた。
「じゃあ次は俺だな。俺は、息子の竹松。一応この村の次期村長──ってことになってる。
それと、村の若者を集めて獣や穢獣から町を守るための自警団をやっている。指導を重衛殿にお願いしているから君と会うことも多いかもな。
まぁ、俺はこのくらいにしておくとして。こちらは俺の妻のちよ。それから、息子の竹一だ」
「ちよと申します。うちは、旅商人の娘でこの村には嫁いでからきたさかい、あんまりお役には立てへんかも知らへんけどよろしくお願いね?」
「竹一です! 3歳です!」
と、村長の息子さん一家が挨拶してくれる。確かにこんな山の中の村じゃ獣や穢獣から身を守るための自警団とか必要だよな。俺もおっさん1人でこの村守ってんのかなぁとか考えてたわ。それにしても、あれだな。まだ20歳ぐらいに見えるってのにやっぱり、前世より大人として扱われるのが早いんだな。
そして、最後に残った1人──俺と紅音と同じくらいの少年が前に出る。
「俺は、竹助。お前、紅音んとこに住んでるんだってな? お前が何者かは知らねえがな! 俺の村で好き勝手出来ると思うなよっ!」
そう言い切ると竹助は、俺を睨みつけてきた。──? 俺、こいつに会ったことないよな? なんで、こんなに敵視されてるんだ? 何か気に食わないことでもしてしまったんだろうか? そんなことを考えていると──
「こらっ!! 竹助!!! お前、初対面の相手になんてこといってんだっ!!」
と、村長さんが竹助を叱り飛ばした。
「申し訳ないね、珠生くん。いつもなら初対面の人にこんな風に食ってかかるような子ではないんだ。できれば、仲良くしてやってほしい」
「俺は、全然気にしてないですよ。よろしくな、竹助!」
「ふんっ。お前なんか知るかよ、ばーか!!」
「こらっ! 竹助っ!」
竹助は俺にそう言い残すと、走り去っていった。どうやら竹助には、めっぽう嫌われてしまったらしい。うーん、ほんとになんでだろうな? 俺、何も言ってないと思ってるんだけどなぁ?
「はぁ、全くあの子は。──と、まぁ今走り去っていった竹助を含めたこの6人が私の家族だ。これから、よろしく頼むよ? 珠生くん」
「はい。──改めて、俺は珠生です。重衛師匠にお世話になっているので、こちらこそこれからよろしくお願いします。」
俺は、そう言って村長家の皆さんに一礼をした。そしてその後、しばらく村長さんたちと雑談を楽しみ、俺と紅音は村長宅を後にするのだった。




