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第10話 間話 神子を探して

「と、いうのが現在わかっている神子様の情報だ。香乃葉(このは)によれば、稲霊姫(いなたまひめ)様は稲魂神社の手勢のみで内密に神子様を保護してほしい、とのことだ。よって、俺が捜索を任されることとなった。そこで、お前にも着いてきてほしい。来てくれるか? (かえで)?」


 父の柳宗(りゅうそう)より、神子捜索の命を受けた稲守(いなもり)樒真(みつざね)は部屋に戻り、自身の部下である稲葉(いなば)(かえで)を呼び出し事情を話していた。


 楓は、樒真が霊導院(れいどういん)に入る前より樒真に仕えている少女である。稲葉の家はその名前が示す通り稲盛の血縁、分家の一族で稲魂神社の分社で祭司を行っている。樒真も楓も共に17歳。歳も近く、樒真と仲も良かった楓が、樒真の側仕えとして選ばれたのだった。


 そんな楓は樒真から聞かされた稲魂神社、ひいては国全体を揺るがす大きな事態に目を丸くしながらもそれを表情に出さずに返答する。


「はっ。お任せくださいませ。それにしてもこのような慶次。とうとう我らが稲魂神社の悲願がようやく叶うのですね」


 万感の思いを込めた楓の言葉に樒真は重々しく頷いた。


「ああ。初代帝である、天陽世命(あめのはるひのみこと)の神子様がお生まれになって200年。香乃葉が五つになった際には、今代もダメかと家中全体が落ち込んだものだがとうとう我らが稲霊姫(いなたまひめ)様にも、神子がお生まれになった。そして、その神子様を捜索することこそ俺たちの与えられた重要な任務だ。わかっているな? 楓?」


「はい。稲魂神社、ひいてはこの国全体の行く末にすら、関する重要な任務と心得ております。──若様。それでいつ出発なさるのですか?」


「神子様も確認された地点から移動なさるかもしれないからな。明日の朝にはここをたつ。目的地は、木霞郡。木霞山脈の木陰山だ。」


 樒真の宣言に、楓はハッ!と一声答えた後、旅の支度に向かうのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 翌日、旅支度を整えた樒真たち一行は、稲魂神社本社の敷地内の稲守家の屋敷前に集合していた。今回、神子捜索に向かうのは、樒真を隊長とし、楓の他に分家筋より3人を含めた計5人の部隊であった。今回は、稲霊姫の願いから隠密性を高めるため、稲守一族とその分家筋の一族からのみ部隊員が選ばれていた。


「では、父上。行ってまいります」


「うむ。よろしく頼んだぞ、樒真」


「お兄様。必ずや神子様をお探しして差し上げてくださいね?」


「ああ。必ずや神子様を見つけ出して見せる」


 捜索隊を見送りに来た柳宗と香乃葉に樒真はそう言った。今回、樒真たち捜索隊は神子を発見しても接触はしないということになっていた。捜索隊は神子を発見、もしくは神子の情報を手に入れたのちに帰還し、神子への接触は巫女である香乃葉を連れ立って行う、という手筈になっていた。


「あら、樒真様? どちらかへ向かわれるのですか?」


 不意に、樒真の後ろから声がした。樒真たち一行が振り向くと、そこには樒真や楓と同じ年頃の少女が立っていた。


 少女の名前は、河守(かわもり)沙夜(さよ)。水行の神、水卦守命(みけのかみのみこと)を奉じる水卦川神社(みけがわじんじゃ)本社の当代巫女の妹にして、樒真の婚約者であった。


 ──まずい。樒真は不意に現れた小夜に対してそう思った。樒真と沙夜の仲は上手くいっていないわけではない。むしろ、良好と言って差し支えないだろう。しかし今は、神子捜索に向かおうという時であった。今回の任務は、稲霊姫命より稲魂神社の人間のみ情報を共有することを頼まれたものである。


 この国の人間──特に、神職に関わるものにとって神からの願いはとても強い意味を持つ。いくら婚約者とはいえ、沙夜は現時点では水卦川神社の人間──つまりは、他人。今回の任務についての情報を知られるわけにはいかなかった。


「──はい。申し訳ありません、沙夜さん。これから任務でして、すぐに出なければならないのです。今日は、どうされたのですか?」


「いえいえ。お気になさらず。こちらこそ突然押しかけてしまい申し訳ございません。今日は、たまたまこの近くへ用事があったの寄らせていただいたのです。でも、これから任務だったのですね。ご無事のお帰りをお祈りいたします」


「ありがとう、沙夜さん。今日は行けませんが今度ゆっくりとお話しましょう。」


「まぁ! それはとても楽しみですわ! ──楓さん、樒真様をよろしくお願いしますね?」


 樒真の後ろに立っていた楓に向かって、沙夜が微笑みながらそう言った。


「──ええ。若様のことはお任せください、沙夜様」


 楓もまた沙夜の目を見てはっきりとそう言い切った。沙夜と楓の目線が勝ち合い、一瞬火花が散った。


「──それではみなさま、改めて本日は突然押しかけてしまい申し訳ありませんでした。本日はこれで失礼させて頂きますね? 樒真様」


「ええ、また会える時を楽しみにしています。沙夜さん」


 沙夜は一堂にもう一度礼をすると外に停めた籠に乗り込みこの場を去って行った。沙夜が去ったのを確認した樒真は、


「ふう。誤魔化せたかな? それでは父上、沙夜。行ってまいります」


「ああ。行ってこい」


「いってらっしゃいませ、お兄様。神子様をよろしくお願いいたします」


 こうして樒真たち捜索隊一行は稲魂神社を出発するのであった。




 樒真たちが出発したちょうどその頃、籠の中で揺られる少女──沙夜は、扇子を口元にあて1人考えをまとめていた。


「お姉様から聞かされた時には驚きましたが、家中の中でもなかなかの立場の者のみで組まれたあの部隊。

 おそらく樒真様の任務は、水卦守様の神託通りの内容通りのようですね。──つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということ。

 ……とりあえず、一度本社に戻って報告しなければいけないようですね」

 

 そんなことを考えながら沙夜は籠に揺られ続けるのだった。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 木霞郡。東木道(とうもくどう)に位置し、木霞山脈や現在珠生たちのいる三竹村があるこの(ぐん)は、東木道の中心となる街がある木霊郡(もくれいぐん)の隣に位置していた。稲魂神社を出て2日、樒真たち捜索隊は木霞山脈の木槌山の麓にある町、槌田原(つちだはら)に到着していた。


「ふう。ようやく槌田原(ここ)まで、ついたな」


「ええ。木霊郡と木霞郡の間には山もありますし、何より今回は秘密裏の任務でしたから馬を使って目立つわけにもいきませんでしたからね。さて、若様早速この町で聞き込みをなされますか?」


「いや、まずは神子様の確認された地点まで向かおう。それから神子様がどちらへ向かわれたのかを考え行動しよう。とは言ってもこれから山に入るにはもう遅い時間だ。それは明日にして今日はとりあえず、しばらくの宿を探そうか。楓、この町の稲魂神社の分社はどっちだい?」


「はい。こちらにございます若様。」


 こうして、樒真たちはその日稲魂神社の分社で一夜をすごすのだった。──そうして、翌日。捜索隊は木槌山へと登り、神子が最初に確認された地点へと来ていた。


「ここが神子様が最初に確認された場所か。みんな、何か痕跡はあったか?」


 辺りに何かが落ちていいないか探しながら樒真が他の者たちにそう聞いた。しかし、反応はあまり乏しくなく、他の隊員たちも──いえ。や、──こちらもまだ。など、誰も痕跡を発見できていないようだった。


「ここには何もなさそうだな、仕方ない。では、もう一つの確認場所へ向かおうか、楓!」


「はい。こちらです、若様。」


 捜索隊は、楓の先導を受けもう一つの確認場所へと移動する。神職に身を置く人間は、基本的にそのほとんどが霊術士である。ましてや、七行大神を奉じる神社の本社の祭祀家系や本家に分家筋など霊術士でないという可能性が考えられないほどである。


 つまり、ここにいる全員が霊術士であり、常人を超越した身体能力を獲得していた。その身体能力を持って捜索隊の面々は舗装もされていない山道をとてつもない速度でスイスイと進んでいった。そうして、すぐに2度目に神子が確認された場所へとたどり着いたのだった。


「ここが、次に神子様が確認された場所だね」


「はい、若様。どうやら神子様は、町を目指して川を下っておられたようですね。ここまでくる途中に何度か川が見えましたから」


「ああ。おそらくその通りだろう。そしてさきほどの場所で神器を抜かれた理由は獣だったそうが、この場所ではどうやら穢獣との戦闘があったようだな」


「ええ、確かにここには薄くですが妖力の残滓を感じます。──しかし、妙ですね? 数日前に穢獣が退治された割には妖力の残滓が少ない。何かあったのでしょうか……?」


「ああ。確かにそれは気になるが、今はそれよりも神子様だ。ここは一旦祓いの儀式をして置いて神子様を追おう。おそらく、川を下ってここまでたどり着いたのなら今は山をおりているだろう。槌田原に戻って聞き込みを開始しよう。」


 樒真はそう結論づけて、あたりの浄化を開始する。その後、山を降りた捜索隊一行は、槌田原の町で神子の情報についての聞き込みを開始するのだった。

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