夜の図書館:特別展示より「寄せ集めの机」
この短編は「特別展示」に収められた物語です。
夜の図書館の棚は、時に不思議なつながり方をします。
離れた棚同士が、ひと晩だけ一本の道で結ばれることがあるのです。
そんな夜には、それぞれの物語から持ち寄られた“モノ”が一箇所に集められます。
寄せ集められた机の上で、モノたちは小さな声を交わしているのかもしれません。
けれど、それを聞けるのは──その夜に迷い込んだ者だけ。
──モノは、物語を渡り歩く。
港町の海面に月が揺れ、波の音が低く響く頃。
古い倉庫の壁がゆらぎ、扉が静かに開いた。
夜の図書館。
今夜は、棚の並びがいつもと違う。
いつもの迷路のような回廊が、まっすぐな一本道になっていた。
その先の広間には、一枚の大きな机が置かれている。
机の上には、見覚えのあるモノたちが並んでいた。
真鍮の鍵。
色褪せたリボン。
片方だけのイヤリング。
ひびの入った小さな砂時計。
封が切られていない白い封筒。
ランプの光に照らされ、それぞれが淡く輝いている。
まるで「ここにいる」と名乗っているかのようだった。
机の端には、一冊の分厚い記録簿が置かれている。
ページをめくると、モノたちの名前と日付、そして「持ち主不明」という記載が並んでいた。
ふと、背後から足音が近づく。
振り返ると、フードを目深にかぶった人物が立っていた。
その手は迷いなく机に伸び、真鍮の鍵を取る。
「……やっと、揃った」
小さく呟くと、人物はリボンとイヤリングも拾い上げた。
その動きは、何かの順序をなぞるように正確だった。
「どこへ……行くんですか?」
思わず問いかける。
しかし、フードの奥から返ってきたのは短い言葉だけだった。
> 「扉を、開けに」
次の瞬間、広間の奥の壁がゆらぎ、暗い通路が現れた。
人物は迷いなくその中へ消えていく。
後には、机の上に残されたモノと、静まり返った夜の図書館だけがあった。
特別展示は、夜の図書館の棚が偶然つながったときだけ開かれます。
モノたちがどこから来て、どこへ向かうのか──
それは、まだ語られない物語の中にあります。
扉は、もうすぐ開かれるのかもしれません。
また次の棚、次の一冊で、お会いできますように。
廻野 久彩 (Kuiro Megurino)