第9話 モブ、初めてスキルを使う
ギルドでのジョブ診断が終わり、適性ジョブが『村人』だと分かった俺。今度は、冒険者カードというものを発行する流れになった。
ナイスバディなギルド職員から渡されたカードは、手のひらサイズで薄い金属製。名前やジョブ、登録番号が記載されており、さらに「レベル」や「スキル」といった項目があるらしい。
「これが冒険者カードか……なんかゲームっぽいな。」
俺はさっそくカードに目を通してみた。
冒険者カードの記載内容
カードには、以下のような情報が記載されていた。
【冒険者情報】
•名前:ヤマダ・ツネアキ
•ジョブ:村人
•レベル:1
•スキル:採取Lv.1、工作Lv.1
「……なんだこれ。完全に農業と日常生活向けじゃないか。」
リーナが俺のカードを覗き込み、少し笑いながら言った。
「まあ、村人のジョブなんだから当然でしょ。」
「スキルの詳細とかも書いてあるんですか?」
俺はギルド職員のナイスバディなお姉さんに尋ねてみた。
「カードにはスキルの簡単な説明も記載されていますよ。」
本当だ、カードの端に小さく刻まれている。
【スキル】
・採取
農作物の収穫効率を高めるスキル。作物や草木の状態を見抜く能力も付随。
・工作
裁縫、修理、建築などにより、簡易な道具を作るスキル。一般知識も付随。
「……いや、戦闘に一切役に立たなさそうなんだけど。」
お姉さんは説明を続ける。
「冒険者カードには、あなたのレベルが記録されます。クエストをこなしたり、敵を倒すことで経験値を得て、レベルが上がります。」
「レベルが上がるとどうなるんですか?」
「新しいスキルを取得したり、既存のスキルが強化されたりします。また、体力や魔力、攻撃力などのステータスも少しずつ上昇します。」
リーナが補足する。
「ただ、ジョブによって成長の方向性は変わるからね。村人は戦闘能力があまり上がらないけど、その代わり生活スキルがどんどん充実するはずだよ。」
「それ、冒険者としてどうなんだよ……」
俺の不満げな声に、クラウスが大笑いしながら肩を叩く。
「まあ、モブらしくコツコツ頑張れってこった!」
言い方はムカつくが、クラウスの言っていることは正しい。
「よし、とりあえずモブらしく地道にクエストをこなしてみるか!」
俺は早速「初心者向けクエスト」を受けることになった。内容は、ギルド近くの森で「薬草」を採取するというもの。
「まあ俺にはこれが一番向いてるよな。」
「確かにスキルが役立つかもね。」
リーナが答える。
「モブにはお似合いの仕事だな!」
クラウスがニヤニヤしながら口を挟む。
「クラウス黙ってろ!」
俺はクラウスをいつか超えてやろうと思った。
ギルドから少し離れた森に着くと、リーナとクラウスが俺にアドバイスをくれた。
「薬草は、日陰の湿った場所に多く生えてるよ。」
「ほら、モブのスキルでなんとかしろよ!」
「モブのスキルって言うな!」
そう言いつつ、試しに『村人』のスキル「採取」を使ってみることにした。
「えーっと、どうやるんだ?使うってどういう感じ……?」
どうやってスキルを使うのか分からないが、こういうやつの定番は、だいたい唱えればできる。
俺は戸惑いながらも、少しカッコつけて唱えてみた。
「採取ッ!」
………何も起こらない。
クラウスが言う。
「おいリーナ、あいつ、ただスキル名を唱えただけじゃないか?」
「そうみたいだね……」
どうやら違うみたいです。恥ずかしい!
俺は正直に尋ねることにした。
「なぁ、どうやったらスキルを発動できるんだよ。」
リーナは呆れたような顔をしながらも教えてくれた。
「唱えるだけじゃダメだよ。魔力の流れを感じないと。」
リーナのアドバイスとしては、
①魔力の流れを感じる
②発動したいスキルを頭の中で念ずる
③スキル名を唱える(自分で考えた言葉でも良い)
④スキル発動
とりあえずこんな感じだ。
スキル名を唱えるのは、スキル発動を自覚するためだとか。
だから自分で考えたスキル名でも良いらしい。クラウスはその典型例だろう。
他には、スキルによって消費される魔力が違うらしい。
魔力――いわば生命エネルギーみたいなもの――が枯渇すると倒れたり気絶したりするのだとか。
けど、俺の使う村人スキルなんてそんなに魔力を消費しないから連発しなければ問題ないだろう。
あと、大魔法などは詠唱が必要らしいが俺には関係ない。
さて、気を取り直してもう一度だ。
魔力の流れを感じ、発動したいスキルを念ずる。
そして、目をかっぴらいて叫ぶ!
「採取ッッッ!!」
すると、視界や感覚が少し変化した。
「えっ、なにこれ……なんとなく分かる!?」
目の前に広がる草むらの中で、どれが薬草か直感的に分かるようになった。まるで薄く光っているように見える。
「これか……これがスキルの力か!」
俺はスキルに導かれるまま、手際よく薬草を採取していった。普通の人間なら見逃してしまうような隠れた薬草も見つけられる。
「おいリーナ、あいつめっちゃ採ってるぞ。」
「すごいね。意外と村人スキル便利かも……?」
二人が驚く中、俺は一心不乱に採取を続けた。気づけば、ギルド指定の薬草を目標以上に集めていた。
「すげえ……俺、もしかしてこのスキルで食っていけるかも?」
ギルドに戻り、採取した薬草を納品した俺。ギルド職員が目を丸くしていた。
「初心者でここまで採れるなんて、すごいですね!」
よかった。俺の村人スキルでも使い道はあったんだ!
報酬を受け取り、冒険者カードを見ると、そこには「レベル2」の文字が記されていた。
「おおっ!初めてのレベルアップだ!」
リーナがカードを覗き込み、少しだけ微笑む。
「やるじゃない。」
「まあな!」
レベルアップした俺は、新しいスキルを手に入れた。
【新スキル】
・料理Lv.1
そこそこ美味しい料理を作る能力。食材の組み合わせを理解する能力も付随。
「……なあ、これも生活系のスキルじゃないか?」
「まあ、村人だからね。」
リーナが苦笑する。
クラウスは大笑いしていた。
「おいおい、料理スキルって……冒険者である必要ないだろ!フハッハッハ!!」
「うるせえ!料理だって重要だろ!」
でも……これでキャンプ中に美味しい料理が作れるかもしれない。それに、スキルが成長すれば何か役立つこともあるかも……そう思いたい!
その後、ギルドで食事をとっている時、リーナがふと呟いた。
「村人のジョブを極めた人って、聞いたことないんだよね。」
「どういうこと?」
「村人ジョブは地味だし、冒険者としては弱いっていうのが定説だから、そのまま冒険者を諦める人が多いの。」
「じゃあ、もしかして……俺が初めての“村人マスター”になる可能性もある?」
「まあ、可能性はね。」
クラウスがニヤリと笑う。
「でも、そこにたどり着くまでに挫折しないでくれよな!」
「うるさいぞ!俺はやってやるからな!」
確かに村人ジョブは地味だし、戦闘に向いていない。
だが、このジョブにしかない可能性だってあるはずだ。
俺はそれを信じて、極めてみせる!
本当に初心者です…温かい目で見守ってください…
こんな自己満の小説を読んでくださりありがとうございます。
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