20/23
結び
吹き下ろす風が冷たさを増して
身を覆う服も厚さを増してく季節
まだ薄暗い明け方の道を
空が色付く方に向かって歩いてく
東雲の空が紫紺の色から茜に色付き
揺らめく地平の線上には
黄金の太陽が姿を現すと
視界の端にもう一つ
黄金色が目についた
庭先に咲く金木犀の花
幾重にも降る金色の星は
溺れそうになるほどの香りを放つ
茜の空と星の香りは
否が応でも私を記憶の沼に引き込む
告げられなかった幼い恋の
甘くて苦いその記憶に
またねと言ったあなたの背中に
何も言えずに見送る「私」と
「私」のその背を見つめる私
私は「待って」と手を伸ばす
伸ばしたこの手もこの声も
届くことはないけれど
振り返ることのないあなたと「私」
過ぎ去った時は変わることはない
風が吹き抜け星が散る
香りが渦巻き空へと消える
沈んでいたはずの私の記憶は
沼の底より引き戻されて
茜色した空を目にして
気付けば頬を涙が濡らした
あのまま金木犀の香りの中で
あなたの傍へと駆け寄れるなら
溺れてあなたの下にいけるのなら
私はこの手を何度でも伸ばそう
茜の空に舞う金の星に
金木犀
手招き溺れるその香り
届かなくても
君に手を伸ばし




