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想い色  作者: 日浦海里
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色褪せぬもの


色褪せた写真に残る白無垢の君の姿は今も美しく


 窓を開けると、陽の光を孕み菜の花色に衣替えしたカーテンが風に揺れて波打った


 これから訪れる冬に備えて、落葉樹の葉は地中の命の布団に早変わりしたというのに、吹き抜ける風が肌を冷やすことを除けば、降り注ぐ陽の光も、遠く霞む薄浅葱の空も、その先の春を思わせる陽気だった


 いや、もしかするとそれは、この先に訪れる春なんかじゃなく、ずっと昔の春だったのかもしれない


 出窓の側に飾られているくちなし色の額縁に納められた写真を手に取る

 本当は写真の中の君のように、真っ白だった額縁だけど、日に焼けてすっかり色が変わってしまっていた

 けれど、それだけ長い年月を共に過ごした証のようで、これはこれで味がある、そう思う


 色褪せた写真には、白無垢を着て少しはにかんだ笑顔を浮かべた君の姿が写っている

 写真を見て、笑顔のぎこちなさを僕が笑うと、見知らぬ人に囲まれて緊張していたのだ、と君は拗ねていた


 その姿が可愛らしくて、お詫びに頬に口づけをすると、君は真っ赤になってその場を逃げ出したっけ


 あまりの豹変ぶりに思わず笑ってしまったら、からかわれたと思ったのか、君は怒ってしばらく部屋に籠もってしまった

 怒りを解いてもらおうと、素直に気持ちを話しても、なかなか出てきてくれなくて。でもそれは、あまりにあけすけに愛を囁くから、恥ずかしくて余計に出れなくなったのだと、後で僕の胸に顔を埋めながら教えてくれたっけ

 それを聞いて、僕が笑ったら、また拗ねさせてしまったけれども


 日に焼けて、写真は色褪せ、あの日の白無垢も色を変えてしまったけれど、君の姿はあの頃のままだ

 きっとこれからも、変わることなく





「朝ごはん、出来ましたよ」


 そのまま物思いに耽ってしまっていたのか、隣の部屋からの声に、意識が今に引き戻される


 僕は写真を元の場所に置くと、食卓のある茶の間に足を向ける

 いや、今はダイニングだったか


 冬が近づき、部屋の奥まで差し込む陽の光に照らされたダイニングに、茶碗を並べる君の姿を見つけた

 君はあの頃から変わらぬ美しいままで


「おはよう」


 あの頃から変わらない想いを込めながら、僕は彼女に微笑んだ




時過ぎて褪せて移ろうものあれど

色褪せぬのは君への想い

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― 新着の感想 ―
 写真が色褪せるほどの年月を経ても、なおそう言える。  きっとどちらも互いに素直に気持ちを伝え合い、過ごしてこられたのでしょうね。  からかうような言葉も。拗ねる様子も。「どうして」を伝え合うことがで…
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