買われたしようやく顔が見えた
この物語はフィクションであり、実在の人物・団体とは一切関係ありません
「おいガキ!!うるせぇぞ!!」
「ひっ…!」
ついうっかり大声を出してしまったら奴隷商のおっちゃんに怒られてしまった…いやこっわ。
ほら、他の子たちもこんなに震えて…うん、ごめん。私が大声出したせいだよね…
…さて、状況を整理しよう。
整理も何もないと思うが…ここは奴隷商の馬車、私は奴隷。以上。これに尽きるな…
あ、でも手とか体見る限り、結構幼い…?10歳くらい…なのかな?
ってうわっ、裸!?なんで私だけ裸なの!?周りの子はボロいけど布をまとってるっちゃまとってるじゃん!
…女の子、だよな…うーん、髪が長くてよかった…
それに赤ん坊からスタートじゃ無くて助かったっちゃ助かったけど…元々の身体の持ち主はどこへ?
…考えてもいいことはなさそうだな。
ひとまずこの馬車が止まるまで待機するしかないかぁ…
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一晩中走り続けた馬車はようやく停車したらしい。
まったく、がったんごっとん揺れてまともに寝ることも出来なかった…体中が痛い…。
「さっさと降りろガキども!!」
そして奴隷商のおっちゃんが鞭をたなびせながら怒鳴ってくる。だから怖いって。
おっちゃんに命令されるがまま私たちは馬車から牢屋が付いた移動小屋に乗り換えた。
なのでようやくそこで外の光景が見えたのだが…。
なんていうか…予想外だった。
なんか勝手にイメージでてっきりアラビアンな街並みを予想していたが、いざついてみるとそこは私のイメージとは真逆。
建物の壁は白く色とりどりのペナントで飾られ、軽快な音楽が聞こえてくる。ところどころにいる人たとは皆笑顔で談笑していて、どこからともなくお菓子の焼けるようなにおいが漂ってくる。
ていうかなんなら遠くの方にめっちゃデカいザ・お城みたいな城が立ってるから城下町かなにかなんだろう。
私たちが入ってる檻の移動小屋はどうやら広場の中にあるらしく、他にもいろんな屋台が立ててある。
これは…完全な祭り開催中だな。
どうやら私らはオークションに出されるような高級品ではなく、この祭りの見世物兼売り物らしい。
移動動物園や金魚すくいのテンションで売られるのはよくわかんないけどなんかヤダな…。
倫理観どうなってんだこの世界。
そうしてまた数時間が立った。
特に何も言うことないんだよ、だって檻の中だし、動けないし。そうこうしているうちに祭りは開催したようで広場には多くの人たちでにぎわっいた。
よく見ると、ここに来ている人たちは大抵みんな、身なりが整っている。城下町だからそれなりに金持ちの人が集まってるのだろうか。
私たちの檻の前にも多くの人たちが集まっていて、全員めっちゃ見てくる。とても気まずい。
視線にはいろいろ混ざっていて、好奇、蔑み、興味、哀れみ。色んな視線にさらされるのはいい気がしない。
ていうかそもそもここに集まってるの悪趣味そうな人たちばっかなんだよ。いやまぁ奴隷見に来る人達なんてそんなもんなんだろうけども。
で、でも…もしかしたらイケメンで優しい人に買われるかもしれないし…!
そう考えていると、客の中の一人と目が合った。
でっぷり太ってるおっさん、着てるものとかお付きのものの数からして結構な金持ちだと思うが、私と目が合ったとたんニヤッと気味の悪い笑みを浮かべた。
あ、終わったわ…
絶対あのおっさんに買われる…もうお終いだ、私の人生…
「おい、さっさとしろ!出てこい!」
「うっ…あぐっ…!」
首輪の鎖を引っ張られ、檻から引きずり出される。力が強いので首に食い込み苦しい。しかも、まともに立てないため私は地面に転がされた。地面はレンガで出来ているが細かい砂や小石が、裸のままの私の肌に当たっていたい。
「旦那、コイツで間違いないですかい?」
「ああ、まさにこの子であっていますよ」
背中を踏まれながら前髪を掴まれ、無理矢理顔を上にあげさせられる。逆光でよく見えないが私を買ったおっさんが、ニヤリとまた趣味の悪い笑みを浮かばせた気がした。
その後はおっさんの後ろに控えてる家来っぽい人に私の鎖が渡され、重厚な手枷を付けられた。
暫くすると支払いかなんかが済んだらしいおっさんが戻ってきて、私の顎を思いっきり掴んでくる。どうせならイケメンにされたかった。
「いいか?お前は俺の奴隷になったんだ、これからは俺がお前のご主人様だ、わかったな」
「は……はい…」
こんなご主人様は嫌だトップ10に入る素質があるおっさんだ。字面だけ見ると同人誌で何万回と見た覚えがある台詞なのに、言う人が変わるだけでこんなにも絶望感溢れるものになるとは…。
そのあとは半ば引きずられながらおっさんと家来の後をついていく。逃げられるもんなら逃げ出したい。
と、急に前方の歩みが止まった。
「エーベルハルト卿、少しいいかね?」
「は、はい…っ、どうされましたか…ライナー様」
私が絶望に浸っているところ、おっさんに誰かが声をかけたらしい。
ライナーと呼ばれた青年は、じっとこっちを見てくる。え、私?いやいやんなわけ…にしてもこの人めっちゃ美人だな…長い水色の髪は後ろでまとめてて目は…多分エメラルドグリーン。色素の薄いイケメンだな…
ていうかこっちはこっちで後ろに控えてる人多いな、こやつも金持ちか?
「そちらの奴隷、私にお譲りいただいても?」
「は…」
「え?」
やばっ、思わず声出ちゃった…バレてはなさそうだけど…。
というかそういうのアリなの?奴隷の譲渡って。
おっさんも困惑してるし……いやまてよ、これはチャンスでは?このライナーって人、おっさんの態度からしておっさんより立場が上。つまり、私の持ち主がこのおっさんからイケメンに変わる可能性大!!
ライナーさん、どんな人かは全然存じ上げないけど今の私にとってはまさに救世主、後光が射してる…!
おもわず彼に期待の眼差しを向ける。
と、そしたら彼と目が合った。
あ、やべ…今の身分はどんな理由で殺されるかわかったもんじゃないから咄嗟に目をそらした。
なのでその時ライナーさんがどんな顔をしていたのかは知る由もないのだ。
「もちろん料金はお支払いさせていただく、悪い話じゃないだろう?」
「え、い、いや…ですが…」
「エーベルハルト卿、貴方に拒否権があると?」
「…………」
そういわれるとおっさんは青い顔して私の鎖をライナーの方の家来に渡した。痛い痛い、そんな強い力で引っ張るな。
にしてもおっさん弱えな…弱み握られてんのか、いい年した大人が…。
「ほら、早く乗れ」
「えっ相乗り…?……あの、私奴隷なんですけど…」
「なんだ?歩いていきたいのか?」
「あっいえ乗ります乗らせてください」
なんやかんやあってライナーさんに譲渡された私は、馬車に乗れと言われています。しかしなぜでしょう、この馬車見るからに豪華な王像御用達みたいな見た目をしています。しかもライナーさんはすでに乗り込んでいます。私奴隷なのにコレに乗れと?相乗りで?
いいのか?それは。
そう言う意味で確認したらめっちゃ睨まれた。
ライナーさん怖い…最初は救世主だと思ってたけどよく考えるとこれってあんまり状況変わってないじゃん。まぁ確実にあのおっさんよりはマシな方なんだろうけれど。見た目的な意味で。
ともかく乗らないわけにもいかないので馬車に乗り込む。いい加減足も痛いし裸のまま外にいたくないし。
その時、馬車の窓に私の顔が写った。その時私は初めて自分の顔を認識した。
大きく釣り目がちな赤い瞳、幼いがどこか妖艶さも含んだ顔つき、手入れさえしたら化けるであろう長い黒髪。
「は?私可愛すぎか??」




