女の子はこうして欲しい。モテたいならやれ!モテは努力だ!
我が元婚約者殿が、強すぎるライバル達を出し抜いて、見事、エリス・ドートルード男爵令嬢のハートを射止めるためには、基礎の基礎からの猛勉強が不可欠だった。
私達は偽装婚約を続けながら、しばらく特訓の日々をおくった。
庭園の小さなせせらぎの際に設えられた涼しい四阿は、白い柱と蒼いタイル張りの丸屋根からなる古典的な意匠で、クッションをたっぷり置いた籐製の椅子は快適だった。白い柱の脇に置かれた観葉植物の艷やかな葉に木漏れ日がキラキラと輝いている。
にも関わらず、我が元婚約者殿の目はどんよりと曇っていた。
どうした? 貴様、モテたいのだろう。根性出せ。モテは努力だ。
さあ、簡単な選択問題の一問一答でサクサク行くぞ!
「二人での気楽な会話で、女性からの好感度が上がるのはどっち?1番“自分のカッコいい武勇伝を聴かせる”、2番“彼女のとりとめのない話をただうなずきながら聞く”」
「1番」
「ハズレ」
「なんで?アピールしたほうが良いんじゃないのか?」
「好きでもない男の情報に、女は興味ありません」
「でも、キャッチーなつかみ、ちょっとしたユーモア、スリルある山場、小粋なホッとするオチのある話って、面白いだろ」
「男の人はそういうの好きですよね」
「君も好きじゃん」
「私を基準にしない!目的の相手がそうじゃなかったら意味がないんです」
「ただ頷くって退屈じゃない?」
「共感は女にとっては愛情の表明です。論理もなく、山場もオチもない、思いつくままに話題の飛ぶ話でも、真摯に聞いて、寄り添って相槌を打ちなさい」
「うえぇ」
「その際、結論と正論と解決策を提示してはダメですよ」
「それいつも君が要求するやつ!」
「普通の女の子はそんなもの会話で必要としていないんです。要点はこれです。"そうか"、"すごいね"、"それはひどい"、"よく頑張ったね、君は偉いよ"……どれだけ論理が破綻していても自己矛盾していてもダブルスタンダードでも、そこを指摘せずに、その場は全肯定! 具体例が見たければオルソー殿が女性としている会話を思い出してご覧なさい」
「…………本当だ。マジかアイツ。その基本パターンのアレンジと褒め言葉と流行り物の話をしているところしか思い出せない。私には無理だ」
はい、そこ。絶望しない。
次の問題、行くよ。
私は控えていた使用人を呼んで、サイドテーブルにドリンクを何種類か並べさせた。
「さて、この中で爽やかな夏の午後に彼女に勧める飲み物はどれ?」
「1番」
「ハズレ」
「でも、これは夏の定番だよ。君もよく飲んでいたじゃないか」
「ドートルード嬢は酸味の強い飲食物が苦手なの忘れたの? レモネードは貴方の好物。正解は2番の果実水」
「飲み物なんて、勝手に用意されるじゃないか」
「あのね。飲み物を淹れるのは使用人でも、あらかじめその使用人に指示を出すのは、もてなす側の主人なの」
「難しすぎる」
「好きな相手のことなら、些細なことでも覚えられるでしょう? 相手をよく見て、相手が心地良くいられるか気遣うだけでいいのよ。好きな人が嬉しそうにするのを見るのは喜びでしょ。やりなさい」
彼が疲れきった様子だったので、私は少し休憩しましょうと提案した。
あらためて用意されたお茶を黙って飲み、お茶菓子を一口食べたあとで、彼はポツリと「美味しい……いつも」と呟いた。
「ありがとう。嬉しいわ」と応えたら、彼の機嫌は上向いた。やはり感謝というのは、些細なことでも言葉にして伝えることに意味はあるらしい。
次のエピソードから、短編版にない話に本格的に入ります。
主人公の女友達が登場します。
悪役令嬢ポジションにいる王子の婚約者ベアトリスと、騎士団長子息の婚約者シエナです。
お楽しみに!




