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「君を愛することはできない」と婚約者殿に断言されました。早期のご通達に感謝します

「君を愛することはできない」

 月に一度のお茶会の席で、我が婚約者ラウル・ピウスはそう断言した。


今日のティーセットは、カーテンもクッションも若草色の織物(ファブリック)で統一された応接室に合わせて新緑と野薔薇の模様で、お母様好みの少々ロマンチックなデザインだったが、テーブルの空気はロマンチックとは程遠かった。

 彼が生真面目に主張したところによれば、自分の永遠にして真実の愛は別の女性に対してのもので、たとえその女性を伴侶とすることができなくても、彼女への愛を貫くために、自分は他の女性と契りを交わすことは、政略結婚であったとしてもできない……のだそうだ。

 すげぇな。お前、貴族の長男なのに、そんなこと言っちゃうのか。筆頭宰相の親が禿げるまで考えて捻り出した国内の政治バランスの最適解を何だと思っているんだ。

 いやまぁ、これまでの付き合いで、そういう奴だとは知っていたけれど。


「そうですか。本当に真剣なご決意なのですね」

「そうだ。だから……」

「わかりました。ご協力しましょう」


 混乱も遺恨もなく丸く収めて、貴方様がご自分のお心に沿ってお望みを叶えられるように、今後の方策をともに検討いたしましょう。大丈夫、きっと道はあります。

私がそう提案すると、婚約者殿は鼻白んだ。


「……まさか……また勉強会か?」

「覚悟と信念がお有りなのでしょう?崇高な目的のためには泥臭い手間と労苦を惜しんではいけません」

「嫌だ!私は優しいエリスちゃんに癒やされながらゆっくりお茶をするような学生生活がしたいんだ〜!」


 "エリスちゃん"?ああ、先日、遅れて入学してきた編入生の女生徒か。

 なんとまぁ。私との婚約前からの付き合いのある相手でもいたのかと思ったら、びっくりするほど底の浅い話だった。これは婚約者殿の気の迷いを晴らしてさし上げたほうが世のためかと少し考えたが、彼の気性を鑑みて、諌めればかえって意地になるであろうと判断した。


「では、つつがなくそのような生活が送れるようにするために、可及的速やかに段取りを考えましょう。障害は大きいですが、できることはたくさんあります」

「それはやることが沢山あるって意味だよな?な?」

「ご理解が存外早くて嬉しゅうございます。これまでの勉強会の成果ですね。引き続き精進しましょう」

「うわーん」


 婚姻予定だった学院卒業までには、まだ時間的な猶予が十分にございます。早期のご決断と迅速な通達ありがとうございました、と礼を言うと「お前、喜んでないか?」と言われた。

 失礼な。この年齢で婚約者がいなくなって嬉しいやつがあるか。


「そんな事はございません。いいからまず謝れ、バカ者が」

「ひいっ、ごめんなさい」

「ついでに、エリスちゃんとやらの馴れ初めと、今どこまで仲が進展しているのか、全部吐け」

「は、はいぃっ」


 話が終わる前に、ティーテーブルに置かれた真鍮製の小ぶりの保温用茶器(ティーアン)の中身はすっかり冷めてしまった。


 絞り上げてなんとか出させた主観オンリーの供述書に、他の生徒や従者などからの第三者視点での証言からの情報を加えて総合的に分析した現状を元に、私達は両家の親族に話をした。

 予想通り我が父は激怒し、先方のご両親は頭を抱えたそうだが、男性側の一方的な事情による婚約解消であるために十分な賠償を行うことと、どちらの醜聞にもならないように、公には時期をみて穏当な理由を公表することを、セットで提案したため、刃傷沙汰や政治闘争に発展することもなく、比較的円満に合意に至った。

 そこはわがまま言わずに添え!とか言われて、無理やり結婚させられても困るので、終始一貫して、相手の思いが成就する道を作って差し上げたいのだという論旨で、すべての対応策を提供し続けた甲斐があった。

 もともと両家のパワーバランス調整と、対外的に内政が円満で安定していることをアピールしたいがための縁談だったので、そこはどちらの当主もわきまえていて、私達の提出した素案にきちんと肉付けして、見事に内々で解決してくれた。


 私達の婚約は無事に解消された。

Q:短編版とどこが変わったの?

A:なんと登場人物に名前がついたよ


すみません。この先、ちょっとずつ追加パート入ります。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 後書きで入る合いの手にクスクスしています。 解像度が、どのように上がっていくのか、先が楽しみです。
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