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水の都・ローディリウスの物語  作者: 嶺上 三元
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マリドメリルの街へ 2

マリドメリルは、メールウィンとの国境に接したエルフェロール辺境の街だが、それだけでなく、オーバーロードス島の中部と西部を隔てる大河、エラドゥイン川の流域に存在する港町としての一面もある。

キーラが治めているエルフェロールをはじめとして、ローディリウスの支配下に存在している土地は、オーバーロードス島という巨大な島の中央地域に存在している。

 Mの字を描くように東西に広がるオーバーロードスの中でも、エルフェロールは中央のV字形をした地域全域を領土としている

 そのVの字を挟む様にして存在している東の土地には、ドワーフやドラゴニュート、オーガと言った異種族が暮らしており、西の土地には、ヒュームが構成している複数の国々がある。


 その中でもメールウィンは、エルフェロールと人類諸国との境界線を占めるほぼ唯一の国であり、エルフェロールの建国以来、メールウィンは潜在的な敵国として存在していた。

 とはいうものの、メールウィン自体は東部諸王国の中でも格別に強い国というわけではなく、あくまでもエルフェロールの隣国ということでしかない。


 そんなメールウィンがエルフェロールの敵国として今まで渡り合えてきたのは、背後にいる人類諸王国からの度重なる援助を得ているからである。

 言い換えるならば、エルフェロール一国はオーバーロードス島の東部に存在する全ての国々に匹敵する大国であり、メールウィンに対する示威行為は、人類諸王国に対する威嚇であった。


 そんなメールウィンを臨むエルフェロール辺境の街、マリドメリルは、キーラが率いた偵察部隊を街を上げて歓待した。

 しかし、そんな街中に溢れかえる歓声に、キーラは喜びの意を示すよりも先に、思わず面食らってしまった。

 その理由は、街そのものの様子にあった。


「……聞いてはいたが、随分と物々しい状況だな。以前に訪れた時から比べ物にならないほどに街の様子が様変わりしている」


 マリドメリルの街は、随分と物々しい雰囲気に包まれていた。

 街の至るところにはバリケードらしき障害物が設置され、街中のあらゆる建物の窓に嵌め板が取り付けられていた。

 まだ街に入ったばかりなので詳しい事情はまだ把握してないが、それでもほんの僅かに街を視察しただけでも、事態が自分の思っている以上に悪化していることを察し、キーラなは黄金の兜の下で眉間にシワを寄せた。

 そうして、キーラたちが一通り街を練り歩いた末に、マリドメリルの練兵場についたキーラとその麾下の部隊は、練兵場にいる兵士と共に待ち受けていた街の領主であるジルースと合流した。


「久しいな、ジルース。少し見ない間に随分と様変わりしたな、この街もお前も」


 練兵場に訪れたキーラの前に跪く領主に声をかけると、マリドメリルの領主は静かに言葉を紡いだ。


「……滅相もございません。キーラ様よりこの街を預かっておきながら、御身にご足労をかけるような事態を引き起こし、この身を恥いるばかりでございます」


 そう言って頭を下げるジルースは、随分と憔悴している様子だった。

 かつてのジルースは、腹の突き出た肥満した身体と、福々しい顔つきが特徴的なふくよかな男だった。

 しかし、かつてのジルースは肥満した体格とは裏腹に、艶々とした肌と手入れの行き届いた金髪が目を引く陽気な男で、見た目からして人を和ませる雰囲気を持った、まさに福男といった雰囲気をさ漂わせていた男だった。

 だが今、キーラが目にしているむ目の前の男には、そんな雰囲気が微塵も無かった。

 血色の良かった顔には濃いクマが浮かび、肌も髪も随分とくすんだ色をしている。

 太った体格こそ変わらないものの、顔も体も丸い以前の健康的な肥満に比べて、手足と腹のバランスが崩れたように感じる。

 これは手足の方が痩せ衰えたのか、腹の脂肪がつき過ぎたのか。或いは、その両方か。

恐らくは、ここ最近の激務が彼を城館の一室に貼り付け、その健康を大きく蝕んでいるのだろう。

 どす黒い疲労と追い詰められたジルースの姿に、キーラは重々しく馬から降りて彼の下に駆け寄ると、その肩に手を置いてマリドメリルの領主を労った。


「ひとまずは顔を上げてくれ、ジルース。ともかく、まずは現状を把握したい。視察がてら私に今のマリドメリルについて教えてくれないか?」


 キーラからの言葉に、ジルースは泣きそうな顔でキーラの顔を見上げると、力無く、はい。と頷いた。


 キーラとジルースの視察は、予定よりもかなり大きなものになった。

キーラが当初考案していた予定では、キーラはジルースの用意した供回りのものを連れて、自身の率いた偵察隊のみをに引き連れて視察を行うつもりだったが、ジルースの憔悴ぶりと街の様子を見て変更する事にした。

 それほどに、街の中に漂う鬱々とした雰囲気は重く、少しでも街の住民を元気づける必要あるとキーラは思ったのだ。


 実際に、キーラが視察のためにマリドメリルの街を練り歩くと、狂ったような熱気と騒ぎでキーラたちは住民に迎え入れられた。

 その熱狂的な住民たちの様子は、キーラという女王への人気とは別に、この土地でしか分からない強烈な危機感の現れであるように思われた。

キーラのその予感は的中していたようで、マリドメリルの街に漂う緊迫感は予想よりも遥かに上であったようだ。


 マリドメリルの街を視察したキーラは、ジルースの住む領主の館に入り、用意された客間に入った。

 ジルースの屋敷はエロールンの貴族の館よりも手狭な作りだったが、領主の館としては立派な作りをしていた。

 質実剛健ながらも所どころに植物を象った飾り付けが施された館の内装は、エルフらしい気遣いと美意識が感じられ、キーラは少しだけ気持ちがくつろぐようだった。

 だが、客間の上座に座ったキーラは、早速ジルースや連れて来た供回りの者たちを呼び寄せると、今日の視察で集めた情報をまとめる会議を始めた。


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