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水の都・ローディリウスの物語  作者: 嶺上 三元
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エルフェロールの女王キーラ 2

「ローディリウスへ使いを送ると言えど、まだ戦を起こすつもりはない。ただ、現状が差し迫っている以上、エルフェロールの現在の軍力では心許ない。根本的に問題を解決しようと思えば、ローディリウスの本軍の力を借りる他ない。その事をまずはエクスカリパー様に伝える必要がある。ただそれだけのことだ」


「了解しました。つまり今回は、あくまでも戦争に備えというだけで、まだ開戦の意思は無い。ということでよろしいでしょうか?」



議員の一人から飛び出た質問にキーラは肯定の返事と共に鷹揚に頷いたが、そこで、「だが。」と言葉を切った。


「ローディリウスへの使いとは別に、一度、メールウィンとの国境線に視察の為の偵察部隊を送る必要がある。その部隊の指揮は私が取る。私が主都を離れる間、諸事の代行を首席秘書に任せる。何か異論はあるか?」


 その途端、会議場は一度水を打ったように静まり返った後、すぐに豪雨のような喧騒が会議場に鳴り響き、キーラの発言を撤回する意見が相次いだ。

だが、そんな会議場の議員の怒声が止むと、キーラは悠々とした様子で言い放った。


「お前らは何を勘違いしてるいるか知らんが、エルフェロールの軍権は私にある。私にとっては、軍を動かす事は私に与えられた正当な権利だ。分かったか?分かったならば、今すぐ出立の準備を整えよ」


「しかし、キーラ様!万が一の事が御身に起ればどうなさいますか?!御身は我らにとって代えの利かぬお方!御身の無事こそ、我が国の無事です!」


 議員の一人がそう訴えかけるものの、キーラは気に留める様子もなく左手を振った。


「私の個としての武力が極めて高いものである事は、この場にいる者が知らぬはずはあるまい。私を殺せるようなものが早々いる訳もなかろう」


 それは、ともすれば傲慢どころか、世間知らずとさえも言えるような答えだったが、実際のところ、彼女のその言葉に反論できるものなはいなかった。

 キーラがこの一〇〇年、エルフェロールの女王として君臨し続けられた理由の一つは、確かにその圧倒的な強さにもあった。

 かつてのエルフの里最強の男であったガルガウェインを殺し、その里を支配下に収めたキーラは、瞬く間にその絶対的な武勇と共に数多の戦に勝ち抜き、エルフ族を統一した。 

 そのキーラの武勇の足元に届く者は、エルフェロールはおろか、オーバーロードス島の全土を探してもおるまい。

 だが、それを知ってもなお、そんなキーラからの返答を、議員たちは頑なに突っぱねた。


「なればこそです!そもそも、最強の存在に対して戦いを挑む者が、正面から立ち向かうような真似をするはずもございません!毒を盛られるやもしれませぬし、騙し討ちをかけられるかもしれませぬ!」


 まるで赤子ができたばかりの父親のように心配ごとを重ねる議員たちの様子にキーラがは思わず苦笑した。


「相も変わらず、心配性な連中ばかりだな、我が家の宿老どもは」


「当たり前です!御身は我らの寄る辺なのです!力無きもの、弱きもの、知恵なきもの、そして拠り所のないものたちの、唯一の庇護者にして導き手なのです!その御身に何ごとがアレばと思えばこそ、反対するのです!」


 これこそが、議員たちがキーラを慕い、そしてその身を心配する本当の理由だった。

 エルフェロールという国を建て、エルフを始めとする数多くの異種族を率いたキーラであったが、彼女は決して力による掟や、恐怖による服従を強いる事は無かった。

 公平な法制度の整備に、安全で快適な街づくり。多種多様な異種族が暮らす為に必要なものを揃え、もがき苦しむ大衆たちを民として迎え入れた。

 親なき子に家を与え、食なき病人に温かな寝床を用意し、戦争や犯罪に怯える女たちの身を守った。

 必ずしも全てが上手く行った訳ではなかったが、それでも多くの者が救われたのだ。

 いや、或いは全てが上手くいかなかったからこそ、キーラは深く慕われていた。

 なぜならば、エルフェロールの国は、キーラが作り、民に与えたものではない。

 多くの民がキーラと共に作り、手に入れたものだ。街も、国も、民も、キーラと共に歩んでこそ生まれたものだ。

 そう言う実績こそが、エルフェロールの人々にキーラを国主として認めさせ、英雄として崇めさせていた。

 それだからこそ、エルフェロールの中心人物たるキーラを失うことを、何よりも多くの民が恐れていた。

 しかし、そんな訴えを聞いてなお、キーラは自分の意見を益々強固にした。


「ならば尚更、私が直々に偵察部隊を率いる必要がある。軍の用意を急がせろ。無論、私の武具の用意もだ」


「何故にですか?!ここまで言ってもなぜに私どもの意見を聞き入れてくれないのですか?!」


「民の安寧の為だ!」



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