ローディリウスの騎士キーラ 1
エルフの里に、その城が現れたのはまだ夜も深い、冷えた空気の充満した時であった。
当時のエルフの里を治めていた里長のガルガウェインは、蛮勇と豪胆、そして傲慢さで知られた男であったから、その異常事態に際しても、当初は特に気にも止めずにいた。
それでも、いや或いはだからこそであろうか。夜も明けて、その美しい石造りの建築物がその全容を顕にした時には、その余りの威容を見ると同時に感嘆の声を吐いた。
「よもや、これほど見事な城が一夜にして現れるとは……」
朝日の中に輝く美しい城に見惚れているガルガウェインの下に、彼の部下は如何するのか?と、聞いてきたが、それに対するガルガウェインの返答は簡潔だった。
「如何も何もあるか!今すぐにあの城を攻め落とす!我が里の前にあるものは、全て俺のものだ!きっとこれは、神とやらが俺の前に差し出した啓示であろう!この俺こそが真の王に相応しいというな!」
そう大言を吐いたガルガウェインは、目についた臣下たちを集めると、目の前に現れた城を指し示しながら更に告げた。
「何とも見事なあの城!あれこそ我が居城に相応しい、真なる王の城よ!分かったか?分かったのなら今すぐに軍を集め、あの城を落とすぞ!あの城の玉座に俺を連れていくのだ!」
突然の宣言にエルフの里の住民全員が慌てふためいたのは言うまでもない。
そもそも一夜にして何故に巨大な城ができたのか。あの城の住人は一体何者なのか。あの城にどの様な危険が存在しているのか。
諸々について調べねばならないし、調べたところですぐ様に行動に移すには問題が大きすぎる。
しかし、ガルガウェインはそんな事に構う様な殊勝な精神を持っているはずもない。
異口同音に軍隊を動かす事を臣下たちは引き止めたものの、ガルガウェインはそんな臣下たちの忠告を無視してかき集められるだけの将兵や軍馬をかき集めると、意気揚々と軍を率いて突如として現れた城の前へとやって来たのだった。