3話 正論だけど、今はこんな正論いらないよぉ!!!
「さて、おむつもつけ終わったことですし、いろいろとあなたに説明しますね」
おむつはつけなくてもよかったんだけどなぁ。ただそれを言うとあたりが強い切り返しで心が痛みそうだからやめておこう。私は何も言わずに頷いた。
「まず、私という存在ですが、私は精霊のリリといいます。」
よくわからない四音の言葉が聞こえてきた。まぁ、うすうす気づいてはいたんだけど、やっぱりここは異世界とかそういうたぐいのものらしい。ただ、精霊といえば私の想像の中ではもう少し人っぽくない形をしているのだと思っていたが、そんなことはないみたい。その少女ことリリは話をつづけた。
「そして、ここからが本題ですけど、私はあなたを召喚しました。なぜ召喚したかというと…」
「なぜ召喚したの??」
私はとっさにそうやって返すと、少女の顔つきが突然変わり、不敵な笑みを浮かべる。
「街中であなたをおもらしさせたときに気が付いちゃったんですよね、あなたにもっといたずらがしたいという私の中の気持ちに…」
「えぇ~~、それだけで召喚なんてしたの!? もぉ、早く返してよぉ!!」
私は声を荒らげた。
「無理です。片道切符です。落ち着いてください。その理由が七割ですが、実は3割は別の理由なのです。これまたあなたをおもらしさせたときに気が付いちゃったんですよね……」
あっ、このながれさっきと同じでろくでもない理由が来る流れだ。
「なによ、次の理由は」
私は若干ふてくされたようにリリにたいして相槌を打つ。
「七瀬海色、あなたには特殊な力があります。それは、おしっこを我慢していればしているほど魔力が高くなる、すなはち、我慢していればしているほど強い魔法を放てるということです。この世界の住人は普通血液に魔力が蓄えられるためある程度の上限は決まっているのですが、あなたはどうやらおしっこにためるみたいです」
????????????
えっと、なにをいっているんだろうこの少女は……
「なんですか、そのぽかんとした表情は」
「いや、もうなにがなにかわからなくって。もしかして、それで私がお風呂でその……しちゃったこと気が付いたの……?」
「そうです。私があなたを召喚したわけで、あなたは私と主従関係にあり、私はあなたの魔力を確認することができるのです。なのであなたの魔力が急激に下がったのを見ると一目瞭然でしたよ」
なにこれ、すごく恥ずかしいんだけど……
私がおしっこしたらいつでもどこでもばれるってど
んな羞恥プレイなの。
「で、どうやったら私はおうちに帰れるの?」
これがずっと気になって仕方がなかった。どうせさっき片道切符だとか言われたからもうほとんど希望はないんだろうけど、一応……
「先ほど、あなたがおしっこを我慢すれば我慢するほど魔力が上がるといいましたね。この世界からあなたが元居た世界へ行くには相当な量の魔力が必要となります。そんな魔力を持っている生物はこの世界にいないです。まぁ大勢で魔力を集めればその量の魔力はたまりますが、大勢でやると魔力の損失が大きくなり、実際は不可能。
唯一残された方法は……」
少女がじっと私のほうをみた。なにか察した気がする。でも私は何も言わずに少女が言うのを待った。
「あなたが、今の3倍以上おしっこをためれるようになった時、必要とする魔力は補えます…」
ほらぁ、やっぱり~。えっ、さすがに三倍とか無理でしょ。1.5倍くらいならできるかなとか思ってたのに…
しばし沈黙が続いた。その間に私が若干の覚悟を付けた。がんばっておしっこをより多く我慢しようと……
って、だめだぁ。おしっこのことばっかり考えてたらトイレに行きたくなっちゃった。
「ね、ねぇ。おトイレ行きたいんだけど、貸してくれる??」
「えっ、もう行っちゃうんですか? まだ65%しかたまってないですよ??
3倍にするんじゃないんですか?? そのためには100%を超えても我慢しているぐらいの勢いがないとだめですよ」
「正論だけど、今はこんな正論いらないよぉ!!!」
私はリリの前を離れて、家の中のトイレを探しに行くため立ち上がった。
おしっこの出口を抑えていた力がなくなり、とたんにおしっこがしたくなる。これで65%って絶対嘘じゃん……
もうもれる直前だよぉ。
私はもこもことしたおむつの上からできる限りの力で押さえながら歩いた。
おむつのせいと前押さえのせいでとっても歩きにくい上にとっても不格好なんだろな。
正直とっても恥ずかしかった。恥ずかしかったけどもう、仕方がなかった。
この家、意外に広くってドアがたくさんあるせいでどこがトイレか全然わかんない。
私は手当たり次第に扉を開けていきトイレを探す。もう膀胱が内側からじんじんして我慢なんてできそうにない。
「おトイレ、どこぉ……」
ーーちょろっーー
少しおしっこが出た気がする。あぁ、おしっこちびっちゃった。
じわっとした感触が直接伝わってくる。あぁ、これが布おむつの感触かぁ
「七瀬海色、いまちびりましたね! せっかく68%になっていたのに65%に逆戻りですよまったくもう」
先ほどいた部屋からリリの大きな声が聞こえてくる。
「うるさいうるさい!! もう、早くトイレの場所おしえてよぉ」
「私が教えると思いました?? あなたには魔力量を強めてもっと強くなってもらいたいのに」
「別に強くなりたくないからぁ!!」
そう力んでいった瞬間だった。
少しのおしっこが出始めてじわっと再びおしっこの出口が熱くなる。それが呼び水となり、とうとう私の膀胱は決壊した。
くぐもった音が自分の耳に入る。
「うぅ……」
私の下腹部で勢いよくおしっこが出ているのがわかる。
布おむつはどんどんとおしっこを吸っていき重くなっていく。
「七瀬海色!! あなたお漏らししましたね! それも赤ちゃんみたいにおむつに」
なんて言葉攻めだろうか。
「だって、リリが教えてくれないんだもん……」
泣きかけたかすれて消えそうな声でそう言った。
その間にもおしっこはおむつに吸収され続け、とうとうその水流は収まった。
紙おむつならこんな感じじゃないはずなのに、すごく濡れている感があって肌に張り付いてきて気持ちが悪い。もう、こんなの実際にお漏らししている感覚と同じじゃん。
(まぁ、おむつにおしっこしているだけでもれっきとしたおもらしなんだけど……)
行くそうにも重なった布にぐっしょりとおしっこが染みついているのだろうか、とても重い。
それに足を閉じた時にじわっと絞られてくる感覚が少しこそばゆい。
「はぁ、全くどうしようもない赤ちゃんですね。ほら、おむつ替えしてあげますからリビングに戻ってきてください」
私は歩きにくくて、蟹股になりながらさっきの部屋へと戻った。
「さて、さっきみたいに寝転んでください」
もう、失念して言われるがままねころんだ。
「まだ、4%ほど残ってますよ。しー、しー、しー」
小さいころにそう言ってもらった記憶からなのだろうか、自然とおしっこが出てきた。
少し冷めていたおむつが再びじわりと温かくなる。
「はぁ、私どうなっちゃうんだろ」