第7話
「マスター、『the Now』追加。一合」
「いつになったらタイショーと呼んでくれるんだ」
湯豆腐をツマミに『the Now』を一口。美味い。
店にあるモニタでは火星放送会社のニュースが垂れ流しされていた。
『……トンプソン・プラント社の開発により低コスト化が可能になったアルミニウム合金γで、船舶の安全性に革新が起こる見込みです。この合金を用いたデブリシールドは高性能ながらもコストが高く、一部の船舶にしか搭載されていませんでしたが、低コスト化により一般船舶への搭載が可能になると発表がありました。試験的に宇宙軍火星キアネ基地の船舶に搭載する計画が発足し、基地司令官のコメントでは、毎年多くのデブリ事故が発生する火星圏、木星圏を救う希望になる。今後はトンプソン・プラント社の更なる開発、コスモメトリクスの製造能力をもって多くの船舶に搭載されることを期待すると――』、
「マイケル、いいのか? コスモメトリクスに手柄を上げるようなことをして」
アランの言い分はわかる。好き勝手やって、その上、分け前まで取るなんて虫が良すぎる。
「仕方がない。何事にも落としどころが必要だ。ペレの誘拐監禁、殺人未遂を不問にして合金の製造まで譲ったんだ、文句は言わないだろう。どちらにせよトンプソン・プラント社には製造能力はない。折角開発した新技術を腐らせるよりずっといいと言っていたらしいしな」
「誰が?」
「トンプソン・プラント社の常務取締役。基地司令官と仲が良いらしい。ゴルフ仲間だそうだ」
つまり最初からこれを期待していたわけだ。ペレ管理部長の独断暴走は想定外だったらしいが。
グラスを持つとすでに空だった。
「マスター。もう一合」
「伝えるのを忘れていた。『セーコー』が入っているぞ」
「もっと早く言ってくれ。それを一合、それとサシミを」
フフン、やっとこの組み合わせを楽しめる。はたしてこの出会いが何をもたらすか。期待で胸が膨らむ。
「サケより僕の話をちゃんと聞けよ。マイケルはそれを知っていたのか?」
「それってなんだ?」
「だから、二人が仲が良いって話だよ」
「いや、帰ってきてから聞いた」
「じゃあ、知らずにペレを拘束したのか?」
「構わないだろ、どっちにしろ犯罪行為だ。何も悪い事はしていない。それに基地司令官が絡んでいたんだ。どうとでもしてくれる」
「全く、呆れたよ」
アランは肩を竦ませるが、丸く収まって美味いサケが飲める。俺にはそれだけで十分だ。