第2話
小惑星帯は宇宙ゴミで溢れかえっている。資源の宝庫である、この石ころだらけの空間は旧世紀の無計画な資源開発でゴミだらけになった。
今も細かいデブリが貨物船に当たる度にゴンゴンと嫌な音がキャビンに響く。
「あれがオニガシマ?」
「はい、弊社トンプソン・プラントの所有する小惑星オニガシマです。最大長十キロ。主な採掘資源はアルミニウム。レアメタルも多種採掘されています。その横にあるのが資源採掘船。社員の七割、約二百名が常駐しています。主業務は資源採掘と研究開発です」
「船ってあんなに大きいの?」
「資源採掘船としては中型です。全長二キロ程度ですから。大きいものだと十キロを超える船もあります」
さっきからアランがちょっかいを出しているのは総務部のミランダ・ライス。でかい。アジア系なのになんであんなに背が高いんだ? 俺より十センチは高い。俺が小柄なだけかもしれないが。
貨物船は速度を落として資源採掘船に身を寄せる。ボーディングブリッジが伸びてきて船を掴んだ。気密の正常さを示すランプが点灯。わずかな気圧差が生む空気の抜ける音を立ててゲートが開いた。
さて現場に到着したし、どこから手を付ければいいものか。
受け取った資料から得た情報によると、行方不明者はトンプソン・プラント社研究開発部のブリトニー・ライス。四日前から消息が途絶えている。そしてミランダ・ライスの妹。
当のミランダは妹が行方不明だというのに冷静すぎるように見えた。いや感情が見えないと言ったほうがいい。自分を押し殺して耐えているのか。
そう考えながら接続された通路を抜けると、思った以上に広い接舷ブロックだった。
そして、俺たちを待ち構えるやけに高圧的な男が一人。
「やっと探偵が来たか。さっさと見つけ出してくれよ」
「お初にお目にかかります。M&A探偵社のアラン・ジラルドと申します。あそこにいるのが同僚のマイケル・スミスです」
すかさず、にこやかに握手を求めにいくアランだったが、差し出した手は握られることはない。それでも笑顔を絶やさないアランは流石だ。俺には無理な芸当といえる。
「ペレ管理部長。弊社の主取引先企業コスモメトリクスから出向されており、ここの責任者です」聞いてもいないのにミランダが耳打ちしてくれた。実に気が利く。
で、あれが依頼主か。デブリを見るような目で見られているが気にすることはない。いつものことだ。
「マイケル・スミス? ふん、匿名希望みたいな名前だな。高い金を出しているんだから、しっかり仕事してくれよ。ライス、こいつらは任せた」
名前のことを俺に言われても困る。親に言ってくれ。どこの誰かは俺も知らないが。
戻ってきたアランと、よろよろと別ブロックへと漂っていくペレの後ろ姿を眺める。
「なんか面倒くさそうな人だね。それはいいとして。マイケル、どうやって探す?」
「まずは足取りの確認だろう。ライス……紛らわしいな、ミランダと呼んでも?」彼女が頷くのを確認してから言葉を続ける。
「ペレはここに来て日が浅い?」
「ええ、まだ二ヶ月です。どうしてそれを?」
「あまりにも無重力に慣れてないので。それにしても若い」
アランも相当な二枚目だが、ペレもかなりの男前だ。間違っても挟まれたくはない。
「彼はコスモメトリクス第二事業部長のご子息です」
「それほどコスモメトリクスの影響が強いと?」
「そうですね。怒らせたらひとたまりもないでしょう」
企業間のしがらみか。それは俺にはわからない。遠い目をする彼女には何が見えているのだろう?