Page.9 雪神島のサンタクロース(中編)
昼休み。港で輪になって座り込んだ土木作業員達が、カップ麺をズルズルと食べながら雑談を交わしていた。
「おい、この島って人口10人だよな?」
「ああ、それがどうかしたか?」
「俺さ、この島に来てから真琴ちゃんのお母さん以外、誰も見たことがないんだよ……。だから本当に10人も人が住んでんのかなって思ってさ」
「あーそれな。一応老人が住んでるらしい。けどな……」
歯切れ悪く言った作業員が、輪になっている作業員達にチョイチョイと集まるように手招きをする。その意味深なジェスチャーを見た作業員達は、一斉に輪を狭めて集まると、皆、頭を低くしてヒソヒソ話状態へと移行した。
「これは現場監督から聞いた話なんだけどな、なんでも監督がここの工事を始める前に家々に挨拶回りに行ったら……」
「行ったら……?」
「住人が……あー、アレなんて言ったっけな、ほら、VRゲーム機あるだろ? 何て言ったっけな?」
「あぁ、《RX-HMD》か?」
男の一人が、両手で帽子でも被るかのようなジェスチャーをしながら答えた。
「おう、それそれ! ……で、監督がこの島に来た日に島民の家々に挨拶回りに行ったら、どの家も玄関ドアが開けっ放しだったんだとさ」
「こんな孤島の廃村じゃあ戸締りなんて習慣がないんじゃね?」
「いや、それは俺も思ったんだが、そこじゃなくてだな……実は監督がふとした出来心で家の中をそっと覗いちまったんだよ。そしたら……」
「そしたら?」
「死体でもあったのか?」
作業員たちが固唾を飲む。
「……家の中でRXを付けた年寄りが、寝たきりのままピクリとも動かなかったそうだ」
「こわっ!」
「なんじゃそりゃ」
「ちなみに話しかけても反応がまるでなかったらしい」
「それ死んでるんじゃねーのか? つーかよ、何でこんな孤島にRXがあるんだよ?」
「知らねぇよ!」
「ヤバいな。こんな離島の廃村でどの家行っても寝たきり老人がVRしてたとか、ちょっとしたホラーだろ」
「てか住人が本当にそんなのだったら、あのクソ動画はやっぱデマで確定か?」
「クソ動画?」
「ほら、出発前に見せたヨーチューバーの動画あっただろ? 『雪神島には絶対に行くな、凶悪な住人が襲い掛かってくるぞ!』って錯乱してたヤツ」
「あぁ、アレか。ま、あれはただのタイトル詐欺だろ。あの動画には雪神島なんて全然映ってなかったし、船内荒らしも自演で確定ぽいみたいだし。大体やり方が古典的なんだよ。いつの時代のヨーチューバーだよ、つかむしろ、お前が言う老人が全員VRにダイブしてるって話の方が怖いって」
「そうだよなぁ……」
「まー俺っちは真琴ちゃん以外どうでもいいわ。島の年寄りはそのまま衰弱死コースで」
「こらこら言葉を慎め。変に責任問題になっちまったら監督が俺らに代わって頭下げるんだからな。そんな姿見たくねーだろ? だから老人の方も気ぃつけとけよ!」
「「「うーっす」」」
リーダー格の男が注意を促すと、全員が体育会系らしい返事をした。
そして再び、カップラーメンをズルズルと啜った。
「……しっかしまぁ、ゲームしながら死ぬなんてある意味理想だよなぁ」
「そうかぁ?」
「ところで、俺らって何でこんな日向でメシ食ってるんスかね?」
「……」
「海が……綺麗だろ?」
「……そうっスね」
………
……
…
土木作業員達がカップ麺をズルズルと啜りながら港でヒソヒソ話をしている同じ頃……。
「……はい、ではこれより『大江戸テレビ@Web増刊号 クリスマスプレゼント大作戦!』の特別生配信を始めたいと思います。さてさて──」
ノートPCの画面に向かって、相羽がいきなり訳のわからない事を喋りだすものだから、不思議に思った真琴はいつものボロのパジャマ姿のままでフラフラと相羽の隣に近づくと、そのままノートPCの画面を覗き込もうとした。
「あーダメダメ! まだそこで座っててね」
ノートPCがどんなものか確認したかった真琴だったが、相羽にやんわりと遮られると、すごすごと後ろへ下がった。
>今なんか見えた!
>すごい可愛かった
>真琴ちゃんだ!
>キターーー!!
>真琴ちゃーーーん!!
>かわいい!
だが、ノートPCに接続されているWebカメラが真琴の姿を一瞬だけ捉えると、配信サイトのコメント欄には真琴についてのコメントが滝のように流れていった。
「あ……。見た? 見えちゃいました? 参ったなぁ……じゃあ今のはナシで。見なかったことにしましょう!」
相羽は半笑いで誤魔化すと、何事もなかったかのように仕切りなおした。
「えーっとこの配信を見ている方で『今見始めたとこです! これ何の放送ですかー?』って人の為に、もう1度最初から説明するとですね、今日はなんとなんと! 以前、テレビの方の『大江戸瓦版』の特集で取り上げた御堂真琴ちゃんのお家に訪問しています。ちなみに前回の特集では──」
「お母さーん!! また相羽さん、取材だったの!? 全然聞いてないよー! ていうかお母さん、やっぱりボクに隠し事してたんだ! ひどいよー!」
相羽が流暢に喋っていると、話を聞いた真琴は「えっ?」といった表情を浮かべると、すかさず母の文子に向かって文句を言い始めた。
画面外から、子供じみた真琴の可愛らしい愚痴が全世界に配信されると、コメント欄には再び「真琴ちゃんwww」「かわいい」「声だけ聴くと普通の子供と同じだよなぁ」といったような感想が、滝のように流れた。
そして話を遮られた相羽は、苦笑いを浮かべながら画面外にいる真琴を見ると、
「あーごめんね真琴ちゃん、でも今日は特別な日だからね、お母さんにも秘密にするようお願いしてたんだよ。だからお母さんに当たらないでね?」
と、Webカメラの画面外にいる真琴をやんわりと宥めた。
しかし、相羽の説明に真琴は釈然としなかったのか、ほっぺをプクーッと膨らませるのであった。
「ふーん……。なんか最近島のみんなの様子が変だなって思ってたけど、やっぱりボクに隠し事してたんだ。最近みんな忙しい忙しいって言ってさ、急にボクの家に来なくなっちゃったし」
「ははは、そうなんだ……」
島のみんなが来なくなった理由を知らない相羽は、ごまかし笑いで受け流す。
「え、えーと、じゃあ真琴ちゃん、ちょっとこっちに来てくれる? これから隠していた『秘密』の種明かしをするからね」
「秘密……ですか?」
これ以上真琴に不審がられるのは良くないと思った相羽は、当初想定していた段取りを変更して、先に真琴をノートPCの前に座らせると、視聴者に紹介することにした。
相羽に来るように言われた真琴は、フラフラとおぼつかない足取りで相羽の傍へやってくると、4本足の丸椅子の上に置いてあるノートPCの前にちょこんと座ろうとする。が……。
「わっ!?」
目の前のノートPCの画面を見た真琴は、思わず可愛らしい声で驚いた。
まさかノートPCの画面に自分の姿が鮮明に映っているとは思わず、真琴はフラッとバランスを崩しかける。
「真琴ちゃん、だいじょうぶ?」
とっさにバランスを崩した真琴を支えようとした相羽だったが、真琴はどうにか自力で体勢を持ち直す。
「大丈夫です、ちょっとびっくりしちゃいました」
びっくりしたのはこっちだと思いつつも、相羽はホッと息を撫でおろす。
一方、鏡以外で自分の姿をまともに見たことがなかった真琴は、ノートPCに映っている自分の姿を物珍しそうにじーっと見つめていた。
>真琴ちゃん大丈夫だった?
>真琴ちゃーーーん!!
>かわいい!
>うわー髪めちゃ奇麗!
>あたし女だけど、やっぱ超美少女だわー。
>肌白すぎ。怖いぐらい綺麗だけど……やっぱり病気だからなの?
ノートPCのコメント欄に、流れるように視聴者のコメントが流れていく。
その怒涛のように流れていくコメントに気付いた真琴は、自分の姿よりもコメントの方に目が釘付けになってしまった。
どのコメントも、真琴がこれまで読んできたお堅い本や物語(※注)の回りくどいセリフとは違って、今までに見たこともないフランクな文面ばかり。
ここまで躍動感溢れる、悪く言えば乱れた日本語のコメントの数々に、真琴はカルチャーショックを受けた……。
(※注:物語といっても、真琴が読んできたのは主に源氏物語などの古文や漢詩、あるいはシェイクスピア等といった英文の文学小説である)
「真琴ちゃん、このカメラで撮ったものがこっちの画面に写ってるんだ。そしてこの画面に映ってるのと同じものを今、世界中の人達が見てるんだ」
相羽はノートPCの隣に置いてある小型のWebカメラを指さしながら真琴に言った。
「世界中の人がコレを見てるんですか?」
真琴がノートPCの画面に指さしながらそう言うと、相羽が「そうだよ」と優しく答える。
けれど真琴は頭上に「?」マークを浮かべながら、不思議そうにカメラのレンズをもう一度じーっと見つめた。
>めっちゃこっちガン見してるww
>かわいい!
>ああ^~ もっと見つめて欲しいんじゃあ^~
>パジャマがヨレヨレすぎる。新しいの買ってあげたい。
>むしろ真琴ちゃん飼いたい
>おまわりさん、コイツです
「む~~。ん~~?」
唸りながら首をかしげる真琴。
その間、ノートPCには少々不適切なコメントも流れ始めたが、カメラのレンズを見つめていた真琴は、幸いにもそれらのコメントを読むことは無かった。
少しして真琴は、再びノートPCの画面へと視線を移す。
すると画面に映っている真琴の目線は、正面ではなく明後日の方向をじっと見つめていた。
「ボク、ずっと変なトコ見てるー」
そう言いながら、明後日の方向を見て喋っている自分の姿がよほど可笑しかったのか、真琴は思わずニヤッとした可愛らしい笑みを浮かべた。
鏡で自分の姿を見ている時とは違って、正面を見ていない自分の姿が目の前に映っているのがよほど気になったのか、真琴はもう一度Webカメラを見ると、今度はさっきよりも素早い動作でバッ! っとノートPCの画面を見直した。
だかやはり、真琴がどんなに早く動いても、画面に映っている真琴の姿は明後日の方向を向いてた……。
「う~~///」
正面を向いた自分の姿が見れないことに、真琴の中で妙な楽しさと同時に、どうしようもないフラストレーションが沸き上がる。
真琴がWebカメラを覗いている時にはノートPCには正面を向いた真琴の映像が流れ、ノートPCを見ている時はWebカメラから視線を外しているので、明後日の方向を見ている真琴が画面に映る。
その原理そのものはすぐに理解した真琴ではあるが、それでも真琴はどうあがいても視線を合わせない自分の姿がもどかしくてたまらない様子だ。
真琴が2~3回ほど挙動不審にキョロキョロとノートPCとWebカメラを交互に見つめていると、ノートPCのコメント欄には「かわいい」とか「真琴ちゃんもう一度カメラ見てー」といったコメントが次々と流れていく。
その小動物みたいな反応に苦笑した相羽は、真琴に声をかけた。
「どうしたの? 真琴ちゃん」
「あ、相羽さん、あのですね! さっきからここに写ってるボクが、前を向かないから……」
「大丈夫、真琴ちゃんがそこのカメラを見ているときは、ちゃんと正面を向いた真琴ちゃんの姿が映っているからね。あ、ほら真琴ちゃんこっち見てごらん? 世界中の人が真琴ちゃんを見てメッセージを送ってくれてるよ」
>真琴ちゃんかわいい
>大丈夫だよー! カメラ見てー!
コメント欄を見た真琴は戸惑いつつも無意識に微笑みを浮かべ、ちらちらとWebカメラとコメント欄を交互に見たりしていた。
「あの、このおかしな文章って、やっぱり世界中の人がボクに送ってくれてるんですよね?」
「そうだよ。インターネットって聞いたことあるかな?」
「はい! そっかーこれがインターネットなんだ……すごいなぁ」
変な文章の正体がネットを介した視聴者からのものだと確信した真琴は、じっくりとコメント欄を読み始めた。
これまで、教科書に載っているような理屈や図だけではピンとこなかった真琴だったが、ここに来てようやくインターネットというものが実際どういったものなのかを理解した。
「んー……でも相羽さん、インターネットって世界中に繋がっているそうですけど、その割には日本語ばかりですね」
「あーうん、世界中の人と繋がっていたとしても、これを見ている人は殆どが日本人ばっかりだからね。あ、でも真琴ちゃん? ほらここ、アメリカから見てるって人もいるよ?」
「あ、ホントだ! 英語で書いてるー! Hi Nice to meet you!」
>発音かわいい!
>真琴ちゃん英語上手!!
「やっぱりボク、このカメラで見られてるんだー」
>Bonjour!
「ぼんじゅーる? えっと、フランス語は分かんないですよー」
>Chao!
「チャオ! って、イタリア語も分かんないよー」
>(やぁマコト、エターナルスフィアⅢはもうクリアしたのかい?)←※英文のコメント
「(まだですよ。丁度ペルクナスを倒したところだよ!)」←※英語
流れるコメントに反応する真琴。
英文のコメントも混じり始めるが、何事もなかったかのようにペラペラと英語で答える真琴。
「あー……真琴ちゃん、お楽しみのところ申し訳ないんだけど、最初の番組紹介の続きをさせてもらってもいいかな?」
「あ……。はい、ごめんなさい!」
「ありがとう。別に謝らなくても大丈夫だからね」
真琴が会話を楽しんでいる間、「さっさと進めろ」と書かれた山崎のカンペを見た相羽が、その指示に従って真琴に割って入ると、Webカメラの向きを微調整してカメラに向かってアナウンサーらしく喋り始めた。
「えーさてさて真琴ちゃん、今日は何月何日か知ってるかな? すごく特別な日なんだけど……」
「12月24日ですよね。ということは、クリスマス・イヴです!」
「大正解! 今日はクリスマス・イヴだね真琴ちゃん」
「はいっ!」
「おー、元気な返事ありがとう。それでクリスマスと言えばサンタクロースだけど、今夜そのサンタクロースがね、世界中の子供たちにプレゼントを配って回るのは真琴ちゃん知ってる?」
「もちろん知ってますよー!」
難しい問題を答えるときは淡々としている真琴だが、相羽の俗っぽい問いには、なぜか自慢げにドヤ顔で答える真琴。
「でも、ボクのとこは雪が降らないからサンタさんは来ないってお母さんが言ってたから、まだ一度もサンタクロースを見たことがないんですよねー」
>えっ?
>あっ……。
>真琴ちゃん、それ嘘やで……
>サンタさんは雪が降らなくても来るんやで……
>真琴ちゃん、サンタさんの正体は……おっと誰か来たようだ。
「えっ……あれ?」
真琴の一言に、ノートPCのコメント欄には総ツッコミ。
中には親切にサンタについてきちんと説明をしてくれるコメントもあったりしたが、想定外の反応に真琴は戸惑うばかり。
しかし真琴はすぐに、母文子にずっと誤魔化され続けていたことに気が付く。
「もう! おかーさん!! 雪が降らなくてもサンタさん来るんだって! また嘘ついてたんだ! ひどいや!」
画面の外から「あら、そうなの? 知らなかったわ」というわざとらしい声が聞こえてくると、真琴はプクーッと頬を膨らませた。
「まぁまぁ真琴ちゃん落ち着いて。僕らがここに来たのはね、最初の番組紹介でも言ったけれど、真琴ちゃんにクリスマスプレゼントを届けにきたからなんだよ」
「い、いきなりそんな事言われても……ボク、プレゼントを入れる靴下の準備なんてして無いですよ?」
「大丈夫! 実は今回のクリスマスプレゼントはね、以前、真琴ちゃんの取材を見た全国のサンタクロースさん達からなんだ」
「へ?」
「僕達はサンタさんにね、真琴ちゃんにプレゼントを渡してきてほしいって頼まれたんだよ」
「えっ? えっ……? じゃあ相羽さんがサンタさんなんだ!」
「あ、いや、違うよ、サンタさんの代理……かな」
「代理って代わりってことですよね。でもサンタさんに頼まれたってことは、相羽さんはサンタさん見たんだよね?」
「あ、いやー……」
サンタに食いつく真琴に対し、サンタ(の中身の人達)を見たことがない相羽は、歯切れ悪くドモる。
そもそも今回のプレゼントは、有志による寄付によって企画されたもので、相羽は寄付をしてくれた人達を見たことがないのだ。
「サンタさんってどんな人なのかなー?」
わくわくしながら言う真琴を見て困った顔をする相羽。
>俺がサンタクロースだ!
>いやいや俺がサンタクロースだ!
ノートPCのコメント欄にはサンタを自称するコメントがいくつも流れたが、真琴は画面を全く見てなかった……。
ちなみに今回の企画の発端は、ネットで寄付を呼び掛けた匿名の代表者が「真琴達にクリスマスプレゼントを贈って欲しい」と持ち掛けて来たのが始まりだ。
そしてそこに、どういうワケか事情を知った《エターナルスフィア》シリーズの開発会社「エスカトン」が、ネットでESO2の特番として配信したいと割り込んできて実現したのが、今回のクリスマスプレゼント企画の一応の全容なのだが、この企画には裏がある……。
そもそも、ネットで真琴への寄付を呼びかけた匿名の代表者の正体は「鳥口雄夫」という男。
そしてこの鳥口という男は実は《エターナルスフィア》の生みの親でもあり、またパラオ港でESO2のプロデューサーである藤島に、宣伝の一環として真琴に実況プレイをさせようと「助言」した張本人なのだ。
だが相羽や撮影スタッフ達は、今回の配信企画の裏事情は一切知らずに配信を続けている……。
ともあれ、鳥口はパラオで藤島から《RX-HMD》を1台受け取ると、真琴の様子を確認しに雪神島に向かったのだが、数日の航海を経て鳥口が雪神島に到着すると、どういうわけか島民達が全員死んだようにESO2のベータテストをやり込んでいたものだから、自分もコイツらクソじじぃ共に負けじと、そのまま雪神島の別荘でプレイを始め、そのまま音信不通となってしまった……。
余談ではあるが、鳥口が現役の頃、エターナルスフィアの開発が難航する度に、バカンスと称してスタッフをこの島へ連れ込んでいたのだが、これはスタッフがマスターアップするまで夜逃げしないようにする為であったという……。なんという鬼畜の所業だろうか。
そんな中、鳥口は雪神島の住人達と深い交友関係を築き上げたので、島の老人たちとの関係は、いわゆる「腐れ縁」でもある。
そしてまた、鳥口が音信不通になるのは現役の頃から「よくあること」だったので、藤島を始めとする鳥口を知るエスカトンの社員達からは、鳥口が「失踪」することについて、別段問題視される事はなかった。
一方で、言い出しっぺの鳥口が裏で色々仕組んでいた事など一切知らないプロデューサーの藤島は、ただただパラオで鳥口に言われた通りに真琴にESO2のプレイ動画を配信させるために多大な労力をかけて、そしてようやく今日の配信にこぎつけたのであった……。
要するに、「最新ゲームのプレゼント」なんていう善意と愛情で包まれた企画は、包みを開ければ生みの親の鳥口の寄付の呼びかけで始まった自作自演でしかなく、そして言い出しっぺの鳥口がいつものように消失すると、プレゼント企画はゲーム会社「エスカトン」と相羽達TV局によって実現したという、ビジネス臭の甚だしい代物だったのだ。
「サンタさんかー。さぁどんな人なんだろうねー?」
真琴の期待に、相羽は子供をあやす様に答えた。
「あー! 相羽さんまでとぼけちゃうんだ! またボクにだけ教えないつもりでしょー!」
「いやいや、今言っちゃうと真琴ちゃんの楽しみが無くなっちゃうでしょ?」
「あ、そっかー」
ともあれ、ロクでもない大人の事情が積み重なって、心温まる真琴のプレゼントは淡々と進行している……。




