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Page.6 エターナル・スフィア


  ──「エターナル・スフィア(以下ES)」シリーズ。


 それはゲーム会社「エスカトン(通称:エスカ)」が発売したロールプレイングゲームである。 

 ESシリーズの歴史は古く、シリーズ第一作目はファミコム用ソフトとして発売された。

 初期のシリーズは、ありきたりな剣と魔法の王道ファンタジーの作風でナンバリングを重ねるが、やがてゲーム機の進化と共にESの世界観も大胆に広がっていき、産業革命時代の世界観を題材とした作品や、現代の学園もの、空賊ものを経て、戦車やロボットが登場する未来的なものまで登場するなど、新作がリリースされる(たび)に物語の舞台は際限なく広がっていった。

 そして、現在最新作の「エターナル・スフィアXXV(25)」では、機械獣と人類の存亡を掛けた闘いを(えが)いた、完全フルダイブ型の一人用VRRPGとして2年前に発売され、好評を(はく)している。




    ◇    ◇    ◇




 2049年9月27日。月曜日。

 大江戸テレビで真琴の特集が放送された翌日。


 日本最大級の掲示板サイト「π(ぱい)ちゃんねる」のES(いた)では、ESの新作も発表されないことから掲示板の勢いも下火気味で、コアなファンによる交流が細々と続いてた。


 しかし、今日のES板では、とあるスレッドだけが異様な盛り上がりを見せていた……。



──【限界集落の】真琴ちゃんをひたすら()でるスレ12【大天使】より抜粋──


>真琴ちゃんを(ひざ)の上にのせて一緒にゲームしたい。

>↑おまわりさん、コイツです。

>真琴ちゃんが眠りにつくまで同じベッドで()い寝し続けたい。

>↑真琴ちゃんならワイの横でスヤスヤ眠っとるで。ぐへへ。

>独身のオッサンだが、真琴ちゃんを養子にしたい。

>↑独身のオッサンは養子縁組できないぞ。

>↑ちくしょう、日本は独身のオッサンに世知(せち)(がら)すぎる。

>真琴ちゃんをだっこしながらES3をRTA(※)してドヤ顔してみたい。



 久しぶりにES板でスレッドが賑わっているかと思いきや、一部の紳士(へんたい)達によるロクでもないやり取りで盛り上がっているだけであった……。


(※RTA:リアル・タイム・アタック。ゲーム開始からクリアまでのプレイ時間を競う謎の競技。最初から最後まで人間が操作しなくてはならず、不正ツールを用いたチート行為は厳禁である)




………

……




 同日、深夜2時。

 パラオ共和国コロール島。


 パラオは日本の高知県から真南に位置する太平洋の小さな島国である。

 そしてコロール島は、パラオで一番の観光地である。


 そのコロール島のメインストリートから少し外れたとある港の桟橋(さんばし)に、1隻の()びついた漁船が停泊していた。

 桟橋には、がたいの良い白髪(はくはつ)の老人と、白と黒のハワイアンシャツを着た茶髪の男が、何やら意味深げに話し込んでいる。

 老人は桟橋に腰を掛けながら、スマホで「πちゃんねる」の例の真琴のスレッドを流し読みしていた。


「相変わらず(ひど)いスレですね」


 老人の後ろに立っている茶髪の男が言った。


「せやの。人間、年喰っても精神年齢はそうそう変わらんちゅうこっちゃな」

「スレタイのその子の動画見ました? 今ネットでものすごい話題になってるんですよ」

「見たで。でもまさかその動画の影響で、ワシが昔作ったゲームまでほじくり返されるとは思わへんかったわ」

「いえいえ、初期の三部作は今でも名作ですから」

藤島(ふじしま)君。キミ今いくつや? そないな誉め言葉もう年寄りしか言わんで」

「今年で38です」

「38かいな。(おも)たよりも若いな。三部作が出た頃はキミまだ生まれてへんのとちゃうん?」

「生まれてないですね……」

「けど好きなんか? ワシらのつくったヤツ」

「大好きですよ! でなきゃこうして話なんてしてませんよ!」

「そうかそうか、そら嬉しいな」


 それからしばらく、二人の間に会話が途切れ、宵闇(よいやみ)の港には、チャプチャプと寄せては返す(ゆる)やかな水の音だけが聞こえた。


「なぁ藤島君、例の新作(アレ)、ホンマはとっくに出来上がっとるんやろ? なんで発表もったいぶっとるんや?」

「来月に発表します。同時に当日、プレス向けのVRの体験会も開く予定でして、現在急ピッチで準備を……」

「アカンわそれ。遅いわ。遅すぎるで」

「えっ?」


 この御老人、唐突(とうとつ)に何を言い出すかと思えば、藤島が苦労して練り上げた新作ソフトの宣伝計画を、舌先一寸で両断したのであった。


「明日発表にしよか。体験会とかどうでもええから、まずタイトルだけでも先に発表やな」

「明日って無茶苦茶な……。しかも部外者が何しれっと決めようとしてるんですか!」

「無茶苦茶やないで。分からんか藤島君? エターナル・スフィアが話題になっとる今が絶好のタイミングや。それでやな……」


 老人は若者の耳にヒソヒソと何かを耳打ちした。



………

……



「またロクでもない事を思いつきましたね」

「せやろ? 統合マネジメントAIなんかより年寄りの言うことの方がおもろいやろ? こないな事、頭の良すぎるAIなんかには絶対思いつけへんで!」

「……分かりました。その話、面白そうなので乗りましょう!」

「せや、その意気や! ゲーム会社は遊び心が肝心や。せいぜい気張(きば)りや!」


 がたいの良い白髪の老人は、茶髪男の両肩を両手でガシッ! と掴むと、ニヤリと脅迫めいた笑みを浮かべる。

 そして老人は独り小型漁船に乗り込むと、宵闇の大海原へと船を出した。




    ◇    ◇    ◇




 翌日。2049年9月28日(火曜日)



──【限界集落の】真琴ちゃんをひたすら()でるスレ13【大天使】より抜粋──


>おまえら、ESで一番ハマッたのは何作目?

>不朽の名作である3に決まってるだろ

>4~6のシリーズも捨てがたい。5のベルノちゃんと結婚したかった。

>フロリンダを嫁に選ぶ奴は外道。絶対に許さない。

>7が好きなんだが異端かな?

>7は読み込み長くてダルい。あと機械帝国のマップは考えたヤツは許さない。

>機械帝国領のマップギミック、あそこの作りこみは凄かったんだが、未だに評価されないよな


 2日も経てば真琴の話も語り尽くされたのか、スレタイとは一切関係ない雑談部屋と化していた。


 だが……。


>おまいら、ちょっと提案というか、相談があるんだがいいか?

>↑言ってみ?

>ありがとう。真琴ちゃんに何かプレゼントをしてあげたいんだが何がいいかな?

>むしろ真琴ちゃんが欲しい。監禁したい。

>↑おまわりさん、コイツです。

>マジレスすると、プレゼントなら普通に本でいいんじゃね?

>本当に普通だな。俺だったらゲーム機をプレゼントする。

>ゲームか。けど、あの子が遊べるゲームなんてあるのか?

>本とゲームの間をとってノベルゲームの傑作「いなかまちの夜」はどうだ?

>おいやめろ! 怖すぎて真琴ちゃんショック死するぞ!

>「いなかまちの夜」とかいつのゲームだよ……。このスレ年寄り大杉だろw

>↑何を今さら。このスレに()きのいい若者が居るとでも思ってんのか?

>↑いやいるだろ。そもそも年寄りは老眼だからスレなんか見ない。

>普通にスーパーファミコムとES4・5・6とかは?

>スーファムはハード探すのが大変だな。中古の大半は海外に流出したし。

>そこは普通に最新ゲーム機のDL(ダウンロード)版落としたやつでいいんじゃね?

>DL版は邪道。オリジナル版の4にあった例のシナリオが無い。

>ああ、奴隷交易のサブシナリオか? 人身売買の話がヤバすぎて丸ごと削除されたんだっけ。

>そんな昔のタイトルよりも、ESOはどうだ?

>ESOって何?

>エターナル・スフィア・オンライン。MMOのやつ。

>あー、昔あったな。

>今もあるぞ。多くの廃人を作り出したっていう伝説のMMOやで。

>いや、ESOはこの前サービス終わったばっかやぞ。

>えっ? マジで!?

>俺が4年掛かりで作ったカラドボルグも消えたのか……。

>つーか、ESO知ってるのって俺らみたいなジジババだけやしなw

>そもそも今どきの若い子はESにMMO版があったなんて知らんやろ。

>ESO知らないとかマジかよ……。そら俺も入歯になるわ。

>50年近くも続いてたのか……。さすがに化物すぎるな。



 ──そして午後2時。「ES」シリーズの最新作が突如として発表された──



>きた! ついに新作来た!! 次はVRMMOだぞ!

>おお、ESOの続編ついに来たか!!

>マジかよ! VRとはいえ今更MMOとか流行らんだろw

>VRとか最高だろ! 俺は40年ぶりにネカマするwww

>↑「〇〇さんってさー、なんか年より臭いねー」って言われてバレるに1リル。

>今回は女キャラで自分のおっぱい触れるかな?

>↑ESXXV(25)は触れなくてマジでガッカリだった。

>なぁ、真琴ちゃんのプレゼントこれがいいんじゃね?

>それだ! VR一緒に遊べると思うと胸熱すぎるw

 :

 :

>とりあえずクラウドファンディングのサイトに登録してきたから募金よろw

>早いなw

>使用目的はVR本体とソフトと諸経費。余ったらエスカジュエルに全額課金。

>募金してもいいけど、どうやって真琴ちゃんに届けんの?



………

……



「『そこは任せろ、俺にいい案がある』……と」


 スマホから「πちゃんねる」に書き込んでいる老人は、先ほどパラオを出港した白髪の老人であった。

 その老人を乗せた古びた小型漁船は、太平洋の荒波に揺られながら雪神島へと航行していた……。




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