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Page.13 ボクだって 大人になったら ないすばでー(?)

 翌日。

 真琴はベッドに寝転がると、メガネ型のHMDを着けて目を瞑り深呼吸をはじめる。


 すー、はー、すー、はー。


 真琴の呼吸が整い精神が安定すると、HMDのバイタルチェックを示す小さな緑色のランプが点灯する。

 そのまま数秒待っていると、「フィン!」という電子音が鳴ると共にESO2が自動的に立ち上がった。


 ”前回の続きから再開しますか?”


 シンプルなESO2タイトルロゴを背景に、いつものメッセージウィンドウが表示される。

 ここまではファミコム版のプレイしている合間に何度も見た画面だ。

 いつもだったら、ここで「いいえ」を選択してゲームを終了していたけど、今日は違う。

 ファミコム版のES3はクリアしたので、ここでもうガマンする必要はないのだ。


 真琴は少し緊張しつつも「はい」を選ぶ。

 するとロード中の画面へと移行し、目の前にはバージョンアップの内容を知らせるメッセージが、楽しそうなイラスト入りで表示された。



 ──バージョンアップのお知らせです!──

 ・ゲームバランスを調整しました。

 ・新しいエリアを開放しました。

 ・最大Lvが45に引き上げられました。

 ・特定の条件を満たすとオートマッチング・ミッションが発生するようになりました。

  他のプレイヤーと協力してミッションをクリアすると、勲功ボーナスが得られます。

 ・キャラメイク時の演出が修正されました。

 ・キャラメイク時の種族選択と外見設定を別々に切り分けました。これにより決定ボタンを押してもすぐに種族と外見が即座に確定しなくなり、種族の選択後に外見の設定へと移行するようになりました。

  なお、既にキャラ作成済みのプレイヤー全員に対し「容姿変更チケット」を配布いたします。

  ※容姿変更チケットの使用期限は本日から1週間以内となります。

 ・その他、いくつかの不具合を修正しました。

 ・詳細はバージョンアップ・レポートをご覧ください。


「いつも出るけど、これってなんだろう?」


 時々ゲーム内容が修正されるらしいけど、まだゲームを始めていない真琴にはいまいちよく分からなかった。


 ロードが終了して再び目の前が真っ暗になると、真琴の身体はいきなり星空がキラキラ瞬く宇宙みたいな空間へと投げ出される。

 いきなりの状況に条件反射で身体がビクッ! っとなったが、真琴の身体はゆっくりと静かに降下しながら見えない地面へフワリと着地する。

 真琴は地面の確かな感触を確認すると、キョロキョロと周りを見渡してみる。

 そしてすぐに、ここが前回と同じキャラクター作成の空間だと理解した。


「あー、もう! びっくりしちゃったんだからー! この前はこんなんじゃ無かったよね?」


 自分の身体が飛ばされた感覚に驚いていると、どこからともなく神秘的な音楽が流れ始め、続いて神々しい声が聞こえた。



  ──新たに生まれし無垢なる魂よ……汝の真なる姿をここに示せ──



「え?」


 初めて聞く声に戸惑っていると、このゲームに登場する全ての種族が真琴をぐるりと包囲するようにスゥーッと一斉に現れた。


「わぁ!」


 取り囲まれて驚く真琴。

 けれど、バージョンアップで演出が変わったというのはこの事かと理解する。

 確かこの前は、パネルに描かれた種族の絵がぐるりと取り囲んでいたはずだったが、今回は立体的なキャラクターが真琴を取り囲んでいた。


「あ、この前は確か、ゲームで遊ぶときの姿を選んでる途中で警報が鳴っちゃったんだった!」


 状況を把握した真琴は、テクテクと迷うことなく女リザーダンの元へ歩みを進める。


「そうそう、確かこれだよね、リザーダン(朱蜴族)!」


 そして女リザーダンの前で立ち止まると、真琴は女リザーダンをじっと見上げた……。


「大きいなぁ……」


 槍を片手にでん! と衛兵のように立っている女リザーダン。

 少し黒ずんだ明褐色の鱗の肌、トカゲの目そのものの獰猛な瞳、口元から覗く鋭いギザギザの歯。

 手に武器を持って二足で直立しているところ以外は、どう見ても人間からかけ離れた容姿。

 バージョンアップ前はパネルに描かれた平面的な表現だったのでそれほど存在感は感じなかったけど、こうして立体で見るとその威圧感には圧倒される。


 そんな獰猛そうな女リザーダンの前に座り込むと、将棋の棋士のように腕を組んで考える。


「む~~」


 ─リザーダン(闇の眷属)─ 

 力  :S

 素早さ:C

 体力 :B

 器用さ:E

 知性 :C

 精神 :C

 魅力 :E

 種族特性:強靭な鱗《被斬撃ダメージ-2% 火属性ダメージ-2%》


 目の前の女リザーダンは申し訳程度に人間の女性らしい体躯をしているけど、さすがに「女の子」と呼ぶには程遠い。どう見てもトカゲである。

 真琴は表示されているステータスなどには一切目もくれずに、頭の中に浮かんだ「有鱗目トカゲ亜目」という分類学用語から自動的に展開された爬虫類の進化系統図の事で頭がいっぱいになった。


「うー。この人ってやっぱり爬虫類だよね……」


 革の高級バッグみたいに、てらてらと光るリザーダンの肌を見て呟く。

 真琴の目の前には決定ボタンが「押せ」と言わんばかりにプカプカ浮いているものの、どうにもボタンを押す踏ん切りがつかない。


「トカゲってことは、やっぱり生態的に考えて虫とかゴキブリとか食べなきゃダメなのかなぁ……」


 決して爬虫類が苦手ではないけれど、さすがに食べ物のことまで考えるとリザーダンを選ぶのには躊躇(ちゅうちょ)してしまう真琴。


「うーどうしようー。えと、えと、誰かいませんかー?」


 真琴は立ち上がると両手を口に当てて、誰かに呼びかけるように言った。

 しかし真琴の声は、コンクリートで囲まれた狭い空間に反響するかのように、ただ空しく響き渡るだけで特に何も起きなかった……。


「相羽さんみたいに、誰かがインターネットに繋いでくれないとダメなのかなぁ……」


 前回は視聴者のみんなからリザーダンを推し進められたけど、今は相羽(あいば)さんや、世界中から真琴を見ていた人達もいない。

 本当にこのキャラを選んでしまっても良いのか、真琴は不安でいっぱいになった。


「どうしようー。困っちゃったよー」


 ふと隣を見ると、リザーダンの左横には和服を着た可愛らしいフォクシル(妖狐族)の少女が、右横にはちょっと強面(こわもて)な|オークム(亜猪族)の女性がででん! と突っ立っている。


 ─フォクシル(闇の眷属)─ 

 力  :D

 素早さ:C

 体力 :D

 器用さ:D

 知性 :A

 精神 :C

 魅力 :B

 種族特性:妖狐の呪術《弱体系魔法命中率+3%》



 ─オークム(闇の眷属)─ 

 力  :A

 素早さ:C

 体力 :A

 器用さ:C

 知性 :E

 精神 :E

 魅力 :E

 種族特性:荒ぶる魂《両手装備の武器重量限界+10%》



「う~~~……。リザーダンも怖いけど、こっちは怖そうだなぁ……」


 大きな斧を肩に乗せたオークムの迫力に、恐怖すら覚える真琴。


「ふしゅるるるー!」

「ひっ!」


 オークムが鼻息を大きく鳴らすと、真琴は数歩後ろに引き下がる。


「あーもう! 驚かせないでよぅー!」


 怖いのでオークムだけは無し! と心の中で決めた真琴。

 しかしだからと言って、本当の本当にリザーダンでいいのか迷ってしまう。

 少し距離を置いてじっと悩んでいると、突然ヘルプウィンドウが真琴の目の前にポップアップした。


 ”種族にお悩みですか?

  エターナル・スフィア・オンライン2では、どんな種族でも楽しめます!

  もしも迷ってしまったら、見た目で種族を選んでみても良いかも知れません”


「あ、そっか! 別にリザーダンでなくてもいいんだよね!」


 ちなみにこのメッセージ、既存のプレイヤーからは「どんな種族でも楽しめるとは書いているが、自分の思い通りには楽しめない」と、散々ネタにされている。

 ESO2では種族によるパラメータの影響が強いので、「魔法最強!」とか「効率!」といったような、理想のプレイスタイルを追い求める場合、種族選びは極めて重要な要因(ファクター)となるのだ。


 が、そんな事は一切知らない真琴は、とりあえず美術館で展示品を眺めるかのように、円状に並ぶ全種族をじっくりと歩きながら見て回る。




「なんだか、女の人ばっかり……」


 ズラリと並ぶ種族は、すべて女性キャラだ。

 これはキャラの初期設定がリアルの性別と同じように設定されている為である。

 無論、異性キャラで遊ぶことも可能であるが、ESO2では運営がリアルと同じ性別でのプレイを推奨している為、異性キャラでプレイしたい場合は、別途課金する必要がある。

 だが、この足元を見るようなエスカ社の強気の料金設定には、プレイヤーからの評価は(はなは)だ不評である……。


 そして、およそ一周半ほどぐるりと見回ったところで、真琴はヒューマ(人間族)の女性の前で足を止めた。


 ─ヒューマ(光の種族)─ 

 力  :C

 素早さ:C

 体力 :C

 器用さ:C

 知性 :C

 精神 :C

 魅力 :C

 種族特性:創意工夫《生産成功率+0.1%》


 目についたヒューマの女性は真琴よりも背が大きく、一言でいうと『大人のお姉さん』って雰囲気だ。

 均整の取れたプロポーションに大人びた凛々しい顔。

 決して露出の高い服装ではないが、服の上からでも(なま)めかしい大人の色気を感じさせる冒険服。


「ボクも大人になったら、こんな感じになるのかなぁ?」


 そう漏らしながら、成長した自分を姿を想像して照れる真琴。

 ふと好奇心でヒューマの身体にそっと触れようとした真琴だったが、女ヒューマは身体には指先1つ触らせまい言わんばかりにとササッと避けた。


「あ、逃げられちゃった……。でも、もしもボクがこれを選んだら、こんなカッコで冒険するって事なんだよね?」


 真琴はそのように思い込んでいるようだが、目の前のヒューマの女はあくまで初期設定状態の姿であり、外見をカスタマイズすれば幼女姿にしたり、筋肉隆々のマッスルレディーにすることも可能である。


 「……やっぱり(さわ)られちゃったりするのかなぁ? なんかちょっと恥ずかしいかも……」


 ESO2では外見とゲーム内でのステータスは完全に切り離されている為、マッチョな女魔法使いや、幼女の力持ちといったキャラに育てることも可能だ。

 つまりゲームの中では、筋肉は平気で裏切るし、デブはすばしっこく、とてつもなく強い幼女を作れたりする。

 なお、リビィ(小人族)などの小さいキャラを使うと、狭い道が通れたりする一方で、高い場所の物を取ろうとしても取れなかったりする辺りは現実と同じである。

 また、ゲーム的な特徴で言えば、小さいキャラの方が図体のでっかいキャラよりは被弾しにくくはなるが、小さいキャラほど一撃の被ダメージが大きくなるといった特徴がある。


「ま、まぁボクだってもうすぐ大人になることだし、このお姉さんにしてみるのもアリなのかなぁ? そ、それにやっぱり、人間(ヒューマ)が一番主人公って感じがするよね」


 自分の選択を肯定づけるかのように呟く真琴は、ドキドキしながら決定ボタンに手をかける。

 実際の自分の姿とは全く違う姿になるという、生まれてこの方想像すらしなかった未知の体験に、真琴のドキドキはますます加速していく。が……。


「?」


 すんでの所で真琴はその手を止める。

 決定ボタンを押しかけたその時、ヒューマの2つ左隣から強烈な違和感みたいなのを感じた真琴は、ふとそのキャラの方へ振り向いた。



  ──|ヴァンピラル(黒血族)



 三白眼(さんぱくがん)の赤く冷たい瞳、背中に生えた黒い小さなコウモリの羽、青白い肌と尖った八重歯。黒を基調としたゴシック調の洒落た冒険服。

 真琴がヒューマの女をじっくりと観察している間、ヴァンピラルは真琴をじっと見つめ続けていた……。

 しかし、真琴がヴァンピラルに目を向ける直前、ヴァンピラルの女は視線を真っ直ぐに戻して、他の種族と同じようにマネキンみたいに戻った。


 それでも、妙な視線を感じた真琴は、ヴァンピラルの前にテクテクと歩みを進めると、じっくりとその姿を鑑賞し始める。


「こっちのお姉さんもカッコイイけど……なんか怖いよね」


 ─ヴァンピラル(神の使徒)─

 力  :C

 素早さ:D

 体力 :C

 器用さ:D

 知性 :C

 精神 :B

 魅力 :B

種族特性:吸血伯の末裔《昼:全ステータス-25% 夜:全ステータス+25%》

 ※有料:10,000 エスカジュエル



「エスカジュエル?」


 真琴がそう呟くと、「所持エスカジュエル」と書かれたウィンドウが浮かび上がる。


 所持ジュエルポイント:72万6930


 エスカジュエルとは、開発元のエスカ社オリジナルの電子マネーで、ESO2ではキャラや武器防具の見た目を変更できたり、自分の声や性別を変更する等のオプションサービスに使用できる。(ちなみに種族の変更は不可能)

 また、ESO2は所謂(いわゆる)アイテム課金型ではないので、ゲームに有利になるもの(ものすごい強い武器や経験値ボーナスアイテム、回復アイテム等)は、リアルマネーでは一切販売していない。

 ちなみにこの謎のエスカジュエルは、真琴にクリスマスプレゼントをあげようと巨大掲示板「π(ぱい)ちゃんねる」で企画された有志達による募金額の余りがつぎ込まれている。

 けれど……。


「有料ってことは、たぶんお金がかかるって意味だよね……」


 ゲーム内でのお金ならともかく、実際のお金ともなると真琴にはその存在意義がよく分からない。

 何せ真琴の住む雪神島は、とうの昔に国から見捨てられた限界集落である。

 そもそもお金なんてものはこの島では殆ど意味を成さないし、また、病気で家の外にすら出られない真琴にとって身近に感じられるお金という概念は、せいぜい本の裏に書かれた「定価」ぐらいしか無いのだ。


「10,000ポイントってことは、おうちの本だと4~5冊ぶんぐらいってこと?」


 要するに「この種族を選ぶには、家の蔵書を5冊ほど差し出す」ぐらいの価値があるということらしい。

 さすがに、目の前のヴァンピラルの女の子が家の本5冊分に値するかといえば、そうとは思えない。

 結局、真琴はそこまでしてこの種族を選びたいとは思わなかったので、女ヴァンピラルに「バイバーイ!」と手を振ると、テクテクと女ヒューマの元へと戻って行った。

 真琴に選ばれなかった女ヴァンピラルは少し悲しい目をしながらも、にこやかに微笑んで真琴に手を振り返した。


「あっ……! なにこれー!?」


 今度はヒューマの右隣りに立っているエルフィンの、さらにもう一つ右隣にいるキャラクターに目が吸い寄せられた。

 テテテテとそのキャラクターの元へ駆け寄ると、真琴は膝を曲げてしゃがみ、じーっと覗き込む。


 そのキャラクターは、背中の羽根が特徴的で、まるで西洋人形のような造形をした小さな妖精族だった。



 ─フェアリス(光の種族)─

 力  :E

 素早さ:B

 体力 :E

 器用さ:E

 知性 :S

 精神 :B

 魅力 :B

種族特性:大自然の加護《フィールドエリア:休憩時のMP回復速度+1~12%》



 最初に見たときは、いろんな種族に目移りして特に惹きつけられることも無かったけれど、こうして改めて見ると、真琴はどこか懐かしく思えたのだった。


 それは遠い昔、絵本で見たような不思議な世界での既視感(デジャブ)

 妖精は自由に空を飛び回って、困っている人々に魔法で助けていく。

 ……そんな、おぼろげな物語の記憶。

 人間不信の木こりさんも、一人ぼっちの鍛冶屋さんも、疲れた果てた踊り子さんも、嫌われ者の狼さんも、最後はみんなで笑顔で仲良くなって……。




 気が付けば、真琴は決定ボタンを押していた……。



「あっ……」


 すると真琴を取り囲んでいた全ての種族がスッと消え、真琴の姿はみるみるとフェアリスへと変わっていく。


「わっ! わっ!」


 身体が光を放ち、ぐにゃぐにゃと変形していく(さま)に戸惑っていると、あっという間に真琴の身体はフェアリスの初期状態(デフォルト)の姿へと変化した。



「これが、ボク……?」


 変わり果てた自分の姿を見て言葉を失う真琴。


 子供のような小さな身体に、髪は緑色に変色し、背中には大きな妖精の羽根。

 目はまるで宝石のようにキラキラと輝いている。

 服装は初期装備なのか、少し古びた淡いオレンジ色のワンピース。

 顔は真琴の面影など全くない。


 ”鏡に映っている姿を触ることで、外見を変更する事ができます”


 そう書かれたウィンドウが真琴の前に飛び出すと、さっそく真琴は鏡に映った自分の姿を触ってみる。


「えーっと……、こうかな?」


 腰のあたりをそっと触ると、真琴のおなかが横にびよーんと伸びた。

 同時に、自分の身体もありえないほどの奇形になった。


「あっはははははははっ! なにこれー!」


 おかしくなった自分の姿に大笑いする真琴。

 ゲラゲラ笑いながらも、真琴は嬉々とした笑顔を浮かべ目や鼻、髪、と次々と弄っていった……。



………

……



 30分後……。




「ど、ど、ど、どうしよー!」


 目の前の鏡には、もはや妖精どころか生物ですらない「何か」が映っていた。

 もしもこの様子がネットで中継されていたら、「どうしてこうなった!」といった弾幕が飛び交っていたであろう。

 ちなみに真琴は、裁縫や図工といったモノづくりに関係するような授業は総じて苦手である。

 というのも、小学校の教師であった留美は身体の弱い真琴を気遣ってか、自身の独断で真琴に肉体的負荷の高い実習授業を一切させなかったのである。


 それはともかく、クリーチャーと化した自分の姿に慌てふためく真琴。


「どうしよう! どうしよう! どうしようー!! ピカソ助けて!」


 もはやキュビスムみたいなキャラになった真琴。どこに口があって、どこから喋ってるのかすら分からないが、紆余曲折の末、真琴は鏡の端っこにある「おまかせ」と書かれたボタンを見つけたのであった。


「お願いします! 元に戻ってください!」


 真琴は、藁をも掴む気持ちでそのボタンを押す。

 すると真琴の目の前にメッセージが表示された。


 ”今現在の姿に戻すことができなくなりますが、本当によろしいですか?”


「はいっ!」


 ”見た目はどんなイメージがいいですか?”


「えとえと、とにかく可愛いのがいいです! 昔読んだ絵本みたいなの! 今みたいなのは絶対にイヤなの!」


 ”リアルの顔に寄せてみますか?”


「えっ? えーと、可愛い感じだったら何でもいいです!」


 ”ご要望に合った外見に変更します。しばらくお待ちください……”


 そう表示されてから5秒ほど経つと、クリーチャーと化した真琴の身体が光を放って変形し始める。

 そしてその光に包まれた真琴は、他に見たこともない可愛らしいフェアリスの姿へと変身した。





「ボクがいる……」


 鏡に映っているのは、リアルの真琴をそのまんま妖精にしたような姿であった。

 髪の色こそ違うもの、髪型ですらリアルと同じツーサイドアップ。


 真琴はこの姿に満足すると、迷うことなく「決定」ボタンを押す。





 ドドドドドドドド……



 真琴が決定ボタンを押すと、地鳴りのような不気味な音が響き渡った。

 そして空間全体がぐわんぐわんと大きく揺れ始めると、真琴は突然の揺れに体勢を崩しそうになる。

 揺れはどんどん激しくなっていく一方だが、真琴の身体はまるで石のように硬直して、倒れるどころかピクリとも動くことが出来なかった。



  ──また一つ、ここに我が心に触れし聖なる魂が誕生した。

      運命よ、どうか()の魂の旅立ちに祝福を与え給え。

        願わくば、邪悪なる闇の冥王を打ち果たさんことを……。


  ──また一つ、ここに光の聖王に触れし忌まわしき魂が誕生した。

      眷属達よ、今こそ各々(おのおの)が力を示す時。

        決して恐れるな。邪悪なる光の聖王に死の制裁を……。



 どこからともなく聞こえた二つの声が沈黙すると、揺れと地鳴りは一層激しくなって、足元の地面がどんどん広がっていく。


「えっ!? えっ!? きゃあぁぁぁぁぁぁああああ!」


 それでも真琴の身体はピクリとも動かすことが出来ずに、()(すべ)無く地割れに吸い込まれていくのであった……。




※「キャラメイク」の設定についての裏話的な何か。

(本編とはあまり関係ないので読み飛ばしてもらっても結構です)


・人狼族、猫人族など、いわゆる獣人タイプの種族の外見は、「限りなく人間に近い容姿」から「限りなく動物に近い容姿」まで設定できます。猫耳少女からウェアウルフまで自由自在。

・リザーダンやオークム等のモンスター系は人間の容姿に近づけることはできない。

・ジュリス(粘体族(=スライム))は特殊で、その気になればどんな姿にも作り変えることができる。ただし、人間の姿から離れるほどゲーム世界での操作は困難になり、開発チームもその辺りは一切の動作保証はしていない。

・真琴は知らず知らずジュリスを選択していじくりまわした結果、嘔吐物(ゲ〇)みたいなクリーチャーな外見となった。

・「キャラクタークリエイションキット」と呼ばれる有料別売り課金アイテムがあれば、っゃっゃの髪やキラッキラの瞳孔、などの各パーツや、標準限界を超えてウェストを引き締めたり、身長をより高くしたりできる限界突破系のオプション機能、手持ちの写真や動画やイラストを元に自動生成してある程度まで似せてくれる便利機能のなどが扱えたりする。但し、これらは基本的にはぼったくり価格。

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