Page.11 雪神島のサンタクロース(後編)
「じゃあ真琴ちゃん、そろそろ本題なんだけど、今日サンタさんからのプレゼントを預かってきたので受け取ってくれるかな?」
「は、はい……。でもボク、本当に貰ってもいいのかなぁ」
相羽の言葉に緊張しながらドキドキする真琴。
サンタクロースは世界中の子供たちに、いったいどんなプレゼントしているのだろう?
いつの頃から疑問に思い始めたのか分からないその答えがついに明らかになるのだから、真琴の胸は高鳴りっぱなしで好奇心は最高潮に達している。
「ははは、受け取ってもらわないと逆に僕達が困るよ。……あ、ほら見てごらん、真琴ちゃんのプレゼントが来たよ」
真琴と相羽が話を交わしている間に、ディレクターの山崎が部屋の外に置いてあった箱を持ち込む。
靴下にはとても入りきらない大きな箱を見た真琴は「ふわぁ……」と小さな声で驚いた。
クリスマス柄のラッピングペーパーで包まれた緑色の箱を山崎から受け取った相羽は、それをそっと真琴に手渡す。
「はい、これが全国のサンタさんから真琴ちゃんへのクリスマスのプレゼントだよ。……持てるかい?」
「わぁ、すごい綺麗ー!」
丁寧にラッピングされた箱を受け取ると、真琴は満面の笑みを浮かべて喜んだ。
「見て見てー! これ凄くない? ツルツルだよー?」
テラテラと輝くラッビングペーパーが物珍しかったのか、その見た目と感触に真琴は興奮を露にする。そして力いっぱいにプレゼントを両手をパーにしてしっかり掴むと、今度はまるでサイコロの目をすべて確認するかのようにくるくると箱を回転させて6面隈なく確認した。
「ふわぁ、すっごく綺麗! 相羽さん、サンタさん、プレゼントありがとうございます!! すごいなぁ……」
「どういたしまして。真琴ちゃん、実はこのプレゼントは放送を見てる人達からの寄付で──」
「あっ! これトナカイ? あっ! こっちにもあった!」
相羽は真琴のプレゼントが有志によるカンパであることを説明しようとしたが、当の真琴はよほど嬉しいのか、キャーキャーと我を忘れて包装紙に描かれているかわいいイラストを見つけては燥ぎ続ける。
「キャー! どうしよう、どうしよう! コレどこに飾ろうかなぁ? ベッドの近くがいいかなぁ?」
真琴はその場で箱をかざしながら、どこに置いたらいいか真剣にイメージしている様子だ。
「んーと、あそこだとお母さんが来るときに邪魔になっちゃうし、テレビのトコはイマイチかも……」
一向にプレゼントの中身を開ける気配のない真琴を見かねた相羽は、そっと真琴に声をかける。
「あのー、真琴ちゃん……?」
「きゃっ! な、なんですか!?」
急に話かけられた真琴は、ラッピングされたままの箱を奪われまいと両腕でギュッと抱き込みながら相羽を見つめた。
「プレゼントはその箱の中に入ってるんだけど……」
「えっ……? あっ!」
すっかり中身のことを忘れていた真琴は、恥ずかしいのか相場の一言にみるみる顔を赤くする。
「あははは、綺麗な箱だから渡したくなかったんだよね?」
「///~~」
男の人にからかわれたと感じた真琴は、抱きしめていた箱で顔を隠すものの、すぐにひょいと箱から顔を出すと
「バ、バカーー!」
……と、普段の大人しそうな真琴からは想像もつかないほど大きな声で叫ぶと、再び箱を盾にして顔を隠した。
「あーごめん! ごめんね真琴ちゃん。からかうつもりはなかったんだ。だから隠れてないで顔を出してくれないかな?」
流石の相羽も真琴の様子に狼狽えると、まるで浮気がバレた夫のような言い訳みたいなご機嫌取りを始める。
「イヤッ! 相羽さんはあっち行って!」
「ま、真琴ちゃん、落ち着いて」
「ヤダッ!」
………
……
…
数分後。
どうにかして真琴を宥める事が出来た相羽。
幼い外見と子供のようなしぐさからは想像し難いが、これでも真琴は思春期真っ盛りの女の子であった事を相羽は思い知らされた。
これまでの取材経験で培った《マダムキラー》な接し方のテクニックなど、真琴が相手となると出る幕無しであった。
「じゃあ、気を取り直して真琴ちゃん、プレゼント開けてみよっか?」
「はいっ!」
相羽に散々おだて倒された真琴は、機嫌よく返事をする。
「じゃあね真琴ちゃん、あのカメラの方を向いて、みんなにもよく見えるようにしてくれるかい?」
真琴は少し照れながら無言で頷くと、カメラの方に身体を向けて箱の外側のリボンを丁寧に解き始める。
緩めに結ばれていた赤いリボンがスルスルと解けると、今度は箱の底面を上にして、ラッビングペーパーに張り付けられているシールに指をかける。
「きれいにリボンが解けたね真琴ちゃん、さてさて、中には一体何が入っているのかなー?」
相羽の実況に真琴は唾を飲み込むと、白くて小さな指でそっとシールを摘んでゆっくりと、ゆっくりと慎重にシールを剥がす。
思ったよりも簡単にシールがペロンと剥がれると、真琴は「よしっ!」と、とても小さなガッツポーズ。
続いて真琴はシールの剥がれたラッビングペーパーを丁寧に剥き始めると、ついに真琴の目の前に、プレゼントの中身が姿を現した。
「……」
しかし、その中身を見た真琴は、その得体の知れない代物にフリーズしてしまう。
てっきり可愛らしいぬいぐるみとか服やマフラー、あるいは新しい本やノートや文房具類でも入っているかと思っていたのに、出てきたのは白を基調としたテラテラした外箱。
そしてその箱には見たこともない若い男女がズラリと並んでいて、しかもそれら男女は、人間以外にも多種多様な種族が描かれており、それぞれが剣や斧や杖を手にし、美しい鎧やらローブやらを身にまとっている。
そんな様子がデカデカとプリントされた白い箱が一体何なのか、真琴はすぐには理解することができなかった。
しかし、ずらりと並ぶ人々の上に、主張の小さいクールなフォントで書かれたアルファベットロゴに目が行くと真琴の様子は一変する。
── Eternal Sphere Online II ──
「あーーーーーーーーーーっ!!」
そのロゴを確認した真琴は、悲鳴にも似た大きな歓声を張り上げた。
「すごい! すごい! すごい! エターナルスフィア2だ! キャッーー!」
「ま、真琴ちゃん!?」
真琴は勢いよく立ち上がると、箱を抱えながらトテトテとレトロテレビの前に持って行った。
そして電源の切れたファミコムの横に箱を下ろすと、どこぞのコレクターみたいにファミコムの隣に箱を並べると「ふふーん!」と満足気に眺めて悦に入るのであった。
「前作って、箱もすごく大きかったんだねー」
>前作www
>真琴ちゃん……それ前作ちゃうでww
>たぶんファミコム版の無印の2と勘違いしてるwww
>かわいいww
真琴の言っている意味が分からなかった相羽は、ふとノートPCに流れた視聴者のコメントを読むと、ようやく真琴の謎の行動を理解した。
どうやら真琴は、ファミコムの《エターナルスフィア3》の前作である《エターナルスフィア2》だと勘違いしているらしい……。
しかしその事を指摘すると、またさっきみたく恥ずかしがるんじゃないかと思いつつも、相羽は真琴に優しく呼びかける。
「真琴ちゃん……。それはファミコムのゲームじゃなくて、全く新しいゲームの機械が入ってるんだよ」
「……えっ?」
いやいや、そんな馬鹿なと思いつつも、確かにいくら外箱を見回しても「ファミコム」の文字も、カセットの写真も見当たらない。
その代わりに「RX-HMD」という見慣れない謎の文字列。
──『ファミコム』じゃよ。最新のゲーム機じゃ!
真琴は源じぃの言葉を思い出すと光の速さで思索する。
源じぃが最新のゲーム機だと言っていたのだから、当然ファミコムより新しいゲーム機は存在しない……。
となるとファミコムよりも旧式のゲームとなるはずだけど、相羽は全く新しいゲーム機だと言うから、真琴はますます訳が分からなかった。
けれど、相羽が持ちこんだノートPCはファミコムの画面よりも色鮮やかでピカピカだから、もしかしたら、この箱の中には本当の本当に、最近発売されたファミコムよりもずっと新しいゲーム機が入っているのかも知れない。
外箱の綺麗さはファミコムの箱とは比べるまでもなく、また描かれているイラスト1つ取っても、そのクオリティはファミコムのものとは雲泥の差である。
それでも、源じぃが嘘を言っているとは思えない……。
となると、源じぃが知らない間にゲームというものはとてつもなく進化したと考えるのが自然だ。
しかし、その事を源じぃが知るとショックを受けちゃうかも知れない……。
頭の回転が良すぎるのか、ただただ面倒臭い性格なのか、ごく単純なことでさえ、時折真琴は深く考え込んでしまう。
「開けてごらん」
「は、はい」
戸惑う真琴。
でもきっと、色々考えなくとも、この中身を開ければすべて分かるはずだ。
真琴は恐る恐る、ゆっくりと箱を開ける。
すると中には小型のヘッドマウントディスプレイが出てきた。
「……?」
思いのほか予想外の形をしたものが出てきた。
見た目は殆どメガネと同じ。国語や歴史の教科書などで見る偉人達が掛けているヤツとすごく似ている。
「メガネ?」
「似てるけどちょっと違うかな。これを付けてベッドで寝っころがると、なんとエターナルスフィア2が遊べるんだよ」
「あはは、まっさかー」
見たところ、コントローラーを繋げるケーブルも無ければ、テレビにつなげるケーブルも無い。
それどころか電源ケーブルさえ無い。
材質はファミコムよりもずっと高級そうだけど、ただそれだけ。どう見てもメガネだ。
「ホントホント! まぁ口で説明するより実際にやってみたほうがいいかもね」
「えー!? 本当にゲームできるの? これで??」
「そだよ。真琴ちゃん、口で言うよりもやった方が早いかな。ちょっとベッドで寝転んでくれる」
「……相羽さん嘘付いてない?」
「嘘じゃないって、ねぇ山崎さん?」
相羽がディレクターの山崎に問いかけると、山崎は無言で頷く。
「う~~///」
どうやら嘘じゃないっぽいけど、騙されている気がしてしょうがない。
ともあれ相羽の言う通り、実際に試してみれば分かるはずだ、と不安そうな様子でベッドの上に寝転がってみる。
相羽は仰向けに寝転がった真琴にそっと布団をかけ、それからHMDを真琴につけてあげると、今度はノートPCを操作して真琴のHMDと相羽のノートPCを無線接続した。
「よし、これで真琴ちゃんが見ているゲーム風景と同じものが、こっちでも確認できるようになったよ」
「は、はい……」
いまいち理解できないけれど、とりあえず返事をする。
「じゃあ、早速始めよう、真琴ちゃんリラックスして目を瞑ってごらん。喋らなくてもいいから」
……………
…………
………
……
…
気が付けば、真琴は大きな青いガラス玉のような球体の中、一人ポツンといた。
そして目の前には《アカウント登録》と書かれた大きな画面が浮かんでいてる。
「真琴ちゃん、ゲームを始めるには登録作業をしないと行けないのだけど、こっちから遠隔操作で入力するから、名前とか誕生日とか、間違っていないかだけ確認してくれるかな?」
「あ、あのー! 相羽さん、どこにいるの? ここはどこ?」
「僕達は真琴ちゃんをすぐ近くで見ているよ」
「嘘ー! 誰もいないよー」
「うん、真琴ちゃんは今、ゲームの中に入ってる状態っていうか、実際にはゲーム機の中に入ってはないのだけど、まるでゲームの世界に飛び込んだように錯覚してる状態なんだよ」
「ここが、ゲームの中……なんですか?」
「そうだよ。まだ始まってないけどね」
目の前に浮かぶウィンドウには真琴の住所や年齢などの個人情報が表示されている。
これは、相羽が横にいる真琴の母の文子に確認してもらいながら入力したものであった。
「真琴ちゃん、データは間違ってない?」
「はい! 大丈夫です!」
「よし、間違いなかったら『登録』って書いてあるボタンを押してね」
「はい!」
真琴が「OK」ボタンを押すと、未成年の登録には保護者の承認が必要です~といったメッセージが表示されたが、相羽の方で承認したのでそのメッセージはすぐに消えた。
「真琴ちゃんのお母さんから保護者の承認をもらったから、これで遊べるようになったよ」
「は、はい。でも遊ぶって言われても……キャッ、なにこれ!?」
真琴の周囲を取り巻く真っ暗な閉鎖空間は、シームレスにキラキラと輝く星空へと変わる。
そして静かで優しい音楽が流れると、「キャラクターメイク」と書かれた文字が目の前に浮かび上がる。
「あ、あの……相羽さん?」
「ああ、これからキャラメイクだね。真琴ちゃんキャラメイクって分かるかい?」
「あ、いえ……。でもなんか変だよ 相羽さん……」
「えっ……?」
「だってボク、こんな星空知らないです。見たことのある星座が1つもないよ? 相羽さん」
真琴は日が暮れてから、庭に出て輝く星空を眺め続けてきた。
当然、星座についても真琴の頭にしっかりと入っていて、小さな間違いすら見落とすことはない。
しかし、周りに広がる星空が地球から決して見ることができないものだと理解すると、真琴はここが違う世界であると自覚するのであった。
「そっか、ここはゲーム世界なんだね」
「そうだよ。真琴ちゃんはこれから、スフィアの世界に行って冒険するんだ」
「冒険……ですか?」
「そう。モンスターと戦ったり、釣りをしたり、おうちを建てたり、色々できるんだよ?」
「それって、ボクでもできるのかな?」
「できるできる! しかもね、真琴ちゃん一人じゃなくて世界中のみんなと一緒に遊べたりするんだよ!」
「本当!?」
「本当。でも、スフィアの世界で遊ぶには、真琴ちゃん自身が、違うキャラクターにならないといけないんだ」
「そっか、そうなんだ」
「うん、だからまずは手始めに、そこの種族ってボタンを押してごらん」
相羽に言われた通り「種族」と書かれたボタンを押すと、真琴をぐるりと取り囲むように各種族の外見が描かれたパネルが表示された。
「わ! なんかいっぱい出てきたよ!」
「ゲームの中の真琴ちゃんの姿をこの中から決めるんだ。全部で16種族あって、それぞれに力が強いとか、魔法が得意とかいろいろあるんだけど、まぁ好きな見た目で選んでいいと思う」
真琴が種族を1つ1つじっくりと確認していく。
「すごいなぁ、どれにしようかなぁ、迷っちゃうー!」
真琴が迷うのも無理は無かった。
─光の種族─
《ヒューマ》……人間族。何でもそつなくこなせます!
《エルフィン》……エルフ族。弓と魔法が得意です!
《フェアリス》……妖精族。ちょっとひ弱で小さめだけど、魔法が得意!
《ダルダン》……巨人族。皆を守る巨体の戦士。でも魔法はからっきしです。
《ドワルグ》……ドワーフ族。戦いもできるけど、ものづくりが大得意!
《リビィ》……小人族。戦いは苦手だけどサポートはばっちり!
《ドラーグェン》……竜人族。勇敢な竜の戦士の末裔。とても強いよ!
─闇の眷属─
《キャルツ》……猫人族。すばしっこさなら一番にゃ!
《ウルフェア》……人狼族。技の手数で勝負するワン!
《ラビラビ》……兎人族。回復ならおまかせピョン!
《フォクシル》……狐人族。強力な魔法で瞬殺しちゃおう!
《リザーダン》……リザード族。最強の一撃を目指すなら!
《オークム》……オーク族。豪快に暴れたい人はこれ!
《ジェリス》……スライム人間族。魔法が得意だけど、ちょっと変わった能力があるよ!
─神の使徒─
《リリュバス》……小悪魔族。敵も仲間も魅了しちゃおう!
《ヴァンピラル》……吸血族。昼は弱いけど……?
真琴でなくとも、この中1つだけ選ぶなんてそう簡単には決められない。
人によってはキャラメイクだけで何時間、あるいは何日もかかったりするほどなのだ。
しかも真琴の場合、どの種族も甲乙つけ難いほどに魅力的に映るものだから、消去法ですら決めることができない有様。
「あ、これもカッコよくて、なんかすっごく強そう……」
オークムのパネルの前に来た真琴が呟く。
全種族の中で一番醜い外見のオークムでさえ候補に入る真琴は、真剣に見つめながら悩んでいた。
「どう? そろそろ決まった?」
「こんなの決められないですよー! だってほら、ここに書いてるけど、種族1回しか選べないんでしょ?」
「うん、そうだよ」
キャラメイクのウィンドウの隣には、しっかりと『種族は一度決めると後で変える事はできません』と書かれていた。
「うー困っちゃうなぁー」
「そっか。真琴ちゃん、この実況を見てる世界中のみんなから、どれがいいか聞いてみる?」
「あ、はいっ! お願いします!」
ネット中継で見ていた視聴者達もまた、真琴がどんな種族を選ぶか興味深々で視聴していた。
真琴があれこれ悩んでいる間も、怒涛のようなコメントを垂れ流し続けていた。
「えーと、インターネットでご視聴中の皆様。今、真琴ちゃんはゲームを始めてキャラクターメイクで悩んでいる所なんですが、どれがいいのかすごく迷ってるみたいなので、皆さんどんな種族で遊べばいいか、もし良ければアドバイスしていただけますでしょうか?」
相羽がそういうと真琴の周りにフキダシがポコポコと次々にポップアップし始め、視聴者それぞれのコメントが一斉に表示された。
>>リザーダン
>>リザーダン
>>普通にヒューマがいいと思う
>>リザーダン
>>リザーダン
>>ラビラビ可愛いよ!
>>リザーダン
>>リザーダン最強!
>>真琴ちゃーん! 見てるー!?
>>リザーダン
>>キャルツ
>>リザーダン
>>リザーダン
>>フェアリスおすすめしたいが弱いらしいからなぁ
>>リザーダン
>>リビィ可愛いよリビィ(*´Д`)ハァハァ
>>
様々な種族がコメントされるが、一部の視聴者達がスパムのようにリザーダンを推したので、真琴の目の前には、やたらとリザーダンと書かれたフキダシが多く表示された。
「そっか、じゃあボク、リザーダンにしてみますね!」
そう言って真琴が決定ボタンを押そうとした瞬間。
ピピピピ……! ピピピピ……!
《プレイヤーの健康状態の異常を検知しました! 今すぐHMDの使用を停止してください!》
ピピピピ……! ピピピピ……!
真琴の掛けたVRメガネから突如警告音が鳴り響くと、同時にゲームは強制終了された。
「真琴ちゃん、大丈夫!?」
警告音に焦った相羽はすぐさま真琴へ駆け寄ろうとしたが、慌てたせいでノートパソコンを豪快に落してしまう。
しかし、構わず相羽は真琴に駆け寄ると、急いで真琴のメガネ型HMDを外した。
「……ごめんなさい、大丈夫です。ちょっと疲れちゃったみたいです」
「そうか、心配したよ」
相羽は、何ともなさそうな真琴の様子を見て、少しほっとした。
「今日はここまでかな。真琴ちゃん、ゆっくり休んでまた元気になったら遊んでみてね」
「はい」
………
……
…
一方、中継を見ていた世界中の視聴者には、通信にラグが発生していたこともあってか、真琴がキャラをリザーダンに決定する寸前で映像が途切てしまったのであった……。
──【限界集落の】真琴ちゃんをひたすら愛でるスレ23【大天使】より抜粋──
>>あれ? 実況切れた?
>>切れたな。こっちも映らない。
>>真琴ちゃんリザーダン速攻で選んでたなw
>>よし! 俺もリザーダンにするわw リザーダンはスタートがガレグギア固定だろ?
>>リザーダン連発したヤツ死ね!
>>おまえらの大天使がトカゲになったなwwwねぇどんな気持ちww
>>ロリコンざまぁww
>>え? お前リザーダン萌えじゃないの?
>>真琴ちゃんキャラメイクすっとばしてたなw
>>リザ男の俺歓喜wwwワンチャンあるかもwww
>>真琴ちゃんリザのデフォルト女キャラで確定。ちょっとリザでキャラ作ってくる
>>リザーダンのスタート地点ってコモドラ王国で確定なん?
>>リザのスタートはジョブ関係なしにコモドラの首都ガレグギア。
>>よし、俺もリザーダンで始めるか。
>>よし俺もリザーダンで行くぜ!
>>いっそ、俺らで真琴ちゃんの親衛隊作ろうぜwwww
>>いいなそれww 参加したいヤツはコモドラの酒場に集合な!
この日、エターナル・スフィア・オンライン2では、不人気種族の一角であったリザーダンが爆発的に増えたのであった……。




