3 案内人
黒くて細い人だった。
手が細い。脚が細い。身体も細い。
その人もコンパニオンなのは着ているおそろいの服でわかった。
でも、何かが違っていた。
「妹さんを捜しているのね?」
しゃがんで私と同じ高さに目線を合わせる。
口元に微かな笑みを浮かべ、その黒い瞳が私の奥まで覗き込んでくる。
「……はい! 知ってるんですか?」
「ええ。その子が居そうな所に心当たりがあるわ。そこに案内してあげてもいいのだけど、折角の裏野ドリームランドなんだから、貴女もいっぱい楽しんだらどうかしら? 妹さんを見つけたらちゃんと教えてあげる。どう?」
……おかしな事を言う。
私ははぐれた妹を心配しているのに、どうして遊んだりできるだろう。
「観覧車はどう? 大きいでしょう? あの観覧車に乗ると、ドリームランド全てが見渡せるのよ」
きらきらとイルミネーションに包まれた大きな車輪がゆっくりと空を回っている。
支える柱の部分は敢えて照明をつけていないのか、車輪は宙に浮いているかのよう。
「夜のジェットコースターも素敵なのよ。パレードの輝きと、ほら、空の花火の間を銀河鉄道のように走り抜けるの」
定期的に聞こえてくるジェットコースターの滑走音と歓声。
「メリーゴーランドは嫌い? それともミラーハウスはどうかしら? ふふ、夜のあそこは少し怖いかもしれないわね」
幻想的なメリーゴーランドでは小さな王子様とお姫様がパーティに向かうべく馬車に乗っている。くるくると永遠に到着しない馬車。
「夜のドリームキャッスルではね、秘密のダンスパーティが行われるの。夜にだけ姿を見せる遠くの星からやって来るお姫様もいるのよ」
お城の窓から漏れる淡い光。踊る影がちらちらと映る。
知らず知らず、私の心はもう一度魅惑的なアトラクションに向こうとしていた。
我に返ってぞっとする。
この人の言葉が耳から入る度に、さっき心の隅に押し込めた悪いモノが、もっとおぞましい別のモノに変わっていくような気がした。
強く首を横に振って、必死に私はそれを押し戻す。
「私はあの子が心配なんです! どこにいるの! 教えて!」
私の叫び声が、まるで世界を凍らせてしまったかと思った。
微笑んでいるのに表情が見えない。
「……そう。わかったわ。それに乗りなさい。案内するわ」
女性が白くて細い指で私の後ろを示す。
そこにはいつの間にか、ドリームランド内で使われる小型の電気バスが停まっていた。