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神隠しの扉を抜けて  作者: 山和平
3/8

3 案内人

 黒くて細い人だった。

 手が細い。脚が細い。身体も細い。

 その人もコンパニオンなのは着ているおそろいの服でわかった。

 でも、何かが違っていた。

「妹さんを捜しているのね?」

 しゃがんで私と同じ高さに目線を合わせる。

 口元に微かな笑みを浮かべ、その黒い瞳が私の奥まで覗き込んでくる。

「……はい! 知ってるんですか?」

「ええ。その子が居そうな所に心当たりがあるわ。そこに案内してあげてもいいのだけど、折角の裏野ドリームランドなんだから、貴女もいっぱい楽しんだらどうかしら? 妹さんを見つけたらちゃんと教えてあげる。どう?」

 ……おかしな事を言う。

 私ははぐれた妹を心配しているのに、どうして遊んだりできるだろう。

「観覧車はどう? 大きいでしょう? あの観覧車に乗ると、ドリームランド全てが見渡せるのよ」

 きらきらとイルミネーションに包まれた大きな車輪がゆっくりと空を回っている。

 支える柱の部分は敢えて照明をつけていないのか、車輪は宙に浮いているかのよう。

「夜のジェットコースターも素敵なのよ。パレードの輝きと、ほら、空の花火の間を銀河鉄道のように走り抜けるの」

 定期的に聞こえてくるジェットコースターの滑走音と歓声。

「メリーゴーランドは嫌い? それともミラーハウスはどうかしら? ふふ、夜のあそこは少し怖いかもしれないわね」

 幻想的なメリーゴーランドでは小さな王子様とお姫様がパーティに向かうべく馬車に乗っている。くるくると永遠に到着しない馬車。

「夜のドリームキャッスルではね、秘密のダンスパーティが行われるの。夜にだけ姿を見せる遠くの星からやって来るお姫様もいるのよ」

 お城の窓から漏れる淡い光。踊る影がちらちらと映る。

 知らず知らず、私の心はもう一度魅惑的なアトラクションに向こうとしていた。

 我に返ってぞっとする。

 この人の言葉が耳から入る度に、さっき心の隅に押し込めた悪いモノが、もっとおぞましい別のモノに変わっていくような気がした。

 強く首を横に振って、必死に私はそれを押し戻す。

「私はあの子が心配なんです! どこにいるの! 教えて!」

 私の叫び声が、まるで世界を凍らせてしまったかと思った。

 微笑んでいるのに表情が見えない。

「……そう。わかったわ。それに乗りなさい。案内するわ」

 女性が白くて細い指で私の後ろを示す。

 そこにはいつの間にか、ドリームランド内で使われる小型の電気バスが停まっていた。



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